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透明で澄んだ空の君に告ぐ

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透明で澄んだ空の君に告ぐ

24 - 3-03 少女との出会い

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2024年10月21日

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何ヶ月かに一回、頭を悩まされることがある。



(進路の紙……か)



帰りのホームルームで渡された、進路の紙を見て、来年の科目選択や志望校、就職か進学かの希望を書かなければならなかった。どちらにするにも詳しく調べ書く必要があるため、気分が沈んでいた。未来のことはあまり考えられない。どうしても、明日が分からないような暮らしを幼少期にしてきたため、明日のことですら考えることが出来なかった。なるようになる、ではなく、明日を掴むために血反吐を吐いてでも這いつくばるが俺の中で当たり前だった。だから、一年後の自分、大学か就職した先の自分など思い描けなかった。

空澄も悩んでいるようで、この間の事があっても別に平然度していたが、進路をどうしようかと俺に聞いてきた。こっちが聞きたいぐらいで、でも空澄は迷っているとは言っていた。ということは、一応目標があると言うことである。俺は、そんなものすらないのに。

綴は、留学すると言っていたが、理由が勉学の為ではない事は明確だった。俺も一緒にどうだと言われたが、勿論暗殺の技術を磨くための留学などしない。そもそも、あいつは英語が喋れるからいいのであって、俺は全く喋れない。



「はあ……」



長いため息をつきながら、部活が長引くかも知れないと空澄に言われ一人通学路をとぼとぼと歩いていた。こうして、一人で帰るのはいつぶりだったか。



(汚え空……)



顔を上げて見れば、どんよりとした雲が広がっていた。雨が降るかもしれないと、折り畳み傘を持ってきていた鞄を漁り取り出す。そんな風に漁りながら歩いていると、公園のベンチで何やらノートを広げている少女が目にとまった。いつもなら、声をかけることもないのに何故かその日は声をかけてしまった。



「おい」

「……ひ」

「あ……すまね、悪かった。いきなり声をかけられたら、びっくりするよな」



まだ小学生くらいだろうか。そんな少女にいきなり、「おい」何て声をかければそりゃ吃驚、怯えられて当然だろうと俺は頭を下げた。少女は、一瞬怯えた表情を見せたが、俺が謝ったことで心を許したのか「大丈夫だよ、おにーさん」と優しく声をかけてくれた。小学生にしては礼儀正しいなと思いつつ、俺が小学生の時荒れすぎていただけかとも思った。荒れていたというよりかは、クソ親父のせいでまともじゃなかったというのが正しい。

俺はベンチに広げられたノートや教科書、そして十点と低いテスト用紙をみてしまった。少女はそれに気づいたのか、慌ててテストを鞄に詰め込む。



「みた?」

「あ、あーいや」

「わたし、勉強苦手、なの……って、おにーさんにいきなり言っても、あれだよね」



と、少女は自傷気味に笑った。


何故こんな所でノートを広げているか分からなかったが、もしかしたら勉強をするために広げていたのではないかと思い俺は少女と視線を合わせる。

俺もこの子ぐらいの頃、これよりも悪い点数だったと親近感を覚えたからだ。



(昔の俺みたいだ……)



格好は普通だし、暴力を受けている感じもなかったため、ただたんに頭が悪いだけなのかも知れないと思った。どういう家庭事情かは知らないが、勉強がろくに出来ない環境なのかも知れないと。



「あのね、あのね……出会ったばかりのおにーさんに、こんなこと言うのだめ、かも知れないけど。おにーさんって、勉強得意? 得意だったら、教えて欲しいの!」



と、勢いよく立ち上がった少女は目を輝かせて言った。空澄のような純粋な瞳を向けられては、断ろうにも断れず、俺は少女を宥めながら一旦座らせることにした。


少女の名前は、桜草叶葉《さくらぐさかなは》というらしい。白瑛高校の近くの小学校に通っていて、年は俺と七つほど離れていた。何でも、母子家庭で母親が仕事で忙しく家にいないことが多いらしく、勉強を教えて貰えないのだとか。そして、クラスメイトに後れを取ってあんな点数を取ってしまったのだとか。



(俺と似ているな……)



そう思った俺は、叶葉の頼みを聞いて勉強を教える事にした。小学生の勉強ですら危うかったが、叶葉も押さえるところはしっかり押さえられており、あと1歩の所で間違っていたため、それを指摘してやればすぐに問題をとくことが出来た。飲み込みが早く、分からないところは素直に聞くその姿勢がよかった。



「凄いな、叶葉。全問正解だぞ」

「梓弓おにーさんの教え方すっごい上手! 学校の先生より分かりやすい」

「いや、俺なんて」

「分かりやすいもん!」



と、少し頬を膨らませながら言う彼女に、俺なんか……と卑下しようとした言葉を飲み込んだ。


確かに、分かりやすかったか、わかりにくかったかは別として、教えるって楽しいと気分がよくなっていた。そう言って貰えることが嬉しかったのだ。



「梓弓おにーさん、先生になれるよ」

「俺が?」

「うん。だから、またわたしに勉強教えて」



そう叶葉は俺の手を握って微笑んだ。

教師。それは、俺にとって無縁な職業だと思っていた。だけど、誰かの為に何かが出来る職業だということは知っている。俺には暗殺者としての生き方しか知らなかったから、その才能しかないと思っていたから、そう言われると何だか複雑な気持ちになる。



(俺が、先生に……?)



ぐるぐると回った思考を一旦止めて、叶葉と約束を交す。家に帰ると独りぼっちだと言うから、日にちを決めて、またこの公園で勉強を教えて欲しいと言うことだった。そうして、叶葉と別れ帰路につく。



「おう、今日は早かったんだな。梓弓」

「……ただいま」

「どうした? 元気ないな。腹でも下したか?」



いつもの調子で先生が言う。

俺は俯いて、鞄を下ろすと先生に問いかけた。



「なあ、先生……人にものを教えるって面白いか?」

「うん? いきなりどうした、お前らしくない」

「……何でもない忘れてくれ」



俺には似合っていないだろう。そう決めつけて、俺はもう一度何でもない、と顔を上げて先生に言った。

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