ライブの日にちが迫っていた。
大切な周年の。
稽古には熱が入り、メンバーもみんな集中してステージに向けて取り組んでいた。
俺たち3人はそれぞれ関わりを持たないまま、バラバラになって、それでもどこかでお互いを意識しながら日々をやり過ごしていた。
俺が気になっているのは、翔太の気持ちがどこへ向いているのか。
あれ以来、翔太とは個人的な会話は一切していない。詳しい事情がわからないにせよ、メンバーにも何となく気遣われているのがわかる。ここへきて皮肉にもゆり組が内緒で交際していたことが俺の助けになっていた。
俺は誰からも責められることなくこうしてメンバーに顔向けできてしまっている。
涼太は変わらず俺に優しかったし、時々、熱い視線を向けて来ていたのにも気づき、そのたびに胸の奥が鈍く痛んだ。
しかし、これは必要な痛み。受け止めるべき痛みだと思っていた。
🖤「阿部ちゃん」
めめが、休憩の合間に突然話し掛けてきた。
💚「ん?」
めめは翔太と親しいので警戒した。こういった珍しいことが起きると、後ろめたさから、全部自分が責められているような気がした。そしていつも、なんでもなかったとわかるたびに、俺は小心者なのだなと自嘲気味な嫌な気分になる。
🖤「この後一緒に帰らない?」
💚「珍しいね。なんで?」
🖤「阿部ちゃんのことが心配だから」
💚「…………」
🖤「やっぱり、自分じゃ気づいてないんでしょ。舘さんに頼まれたんだよ。阿部ちゃんの健康管理。なんだか痩せたみたいだからって」
💚「涼太が?」
その時ちょうど涼太はリハ室にはいなかった。
気を利かせて席を外したのだろう。あいつはそういうやつだ。
🖤「それに、しょっぴーも心配してる」
💚「翔太…」
ちくり、と胸が痛む。
2人は俺に仲を引き裂かれたも同然なのに、なんで俺のことなんか心配してくれるんだ。どんだけお人好しなんだよ…。
🖤「俺は詳しいことは知らないけど、相談なら乗るし、飯も付き合うよ」
その日のリハはいつもより終わるのが早い予定だった。めめも、珍しく空いているらしい。この男はグループの危機に気づいたのかもしれない。めめは、いつもふらっと現れては、問題のこじれた場所へ仲裁に入るところがあった。
💚「ちょっと緊張するけど…付き合う」
🖤「ありがとう」
💚「…………」
礼を言うのは俺の方なのに、なぜか素直に言葉にならなかった。
自分のしたことは許されないってわかっているから、悪役はちゃんと悪を全うしないといけないから。
🖤「阿部ちゃん?」
めめの心配そうな顔が最後に見た明るい視界の記憶だった。
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カタ:(ˊ◦ω◦ˋ):カタ