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大納言家は、湧いていた。


正確には、屋敷の内で、橘が、だが──。


「ああ、紗奈!あなた、また、無茶なことを!!!」


煤だらけの顔に、泥だけの素足。ついでに、タマと一の姫猫の毛まみれになっている紗奈は、女童子の頃の顔に戻り、へへっと、照れ笑った。


その姿に、笑ってよいものか、どうなのか、とまどいながら、橘は、紗奈をしっかり、抱き止めた。


「しかし、大胆な事をしでかす、娘だなぁ」


崇高《むねたか》が、驚嘆している。


染め殿の脇、髭モジャ一家の住みかに、皆は集まっていた。そして、外には、鍾馗《しょうき》が、簡易の莚《むしろ》がけの小屋を、作り上げ、板土間で、伸びている。


内大臣家の、香に、やられてしまっている、裏方達を放置できなかったからだ。


大納言家まで、連れてきて、裏地に、取りあえず作った、風避けにしかならない、簡易すぎる、小屋に、寝かせている状態だった。


「心当たりの、薬師《いしゃ》を、うちの人が、呼び集めているから、じき、また、忙しくなるわ」


橘は、薬草の確認をし始めるが、


「常春様も、紗奈も、ゆっくり休みなさい。後は、私達が行いますから」


「はい!そうします!」


と、小さいが、やけに元気な声がした。


タマが、もうー、目がまわっちゃったよーと、鍾馗の隣で伸びきっていた。そして、一の姫猫も、丸まって、寝息をたたている。


「まあ、崇高様の話しによると、二匹とも、大活躍だったみたいだし。疲れたでしょうね」


橘の労りに、タマはここぞとばかり、いやーーー、あれは、ないよーーー!と、愚痴った。


「では、我は、外の内大臣家の者達を、検分いたしますので」


崇高が、立ち上がる。


──燃え盛る屋敷の裏方では、唐下がりの香に、やられてしまっていた者達を、髭モジャや、検非違使が、西門外へ運び出した。しかし、その場に放置するしか、その時は、手がない。


あくまでも、火災から、救いだすが、目的だったからだ。


次第に、野次馬も、集まって来て、大変だったなぁ、などなど、声をかけ始めるが、救い出した者達は、香のせいで、宙を見るだけ、まともに言葉も交わせない。


これは、まずいと、髭モジャが、機転を効かせて、賊が押入って来て、命の危険があったが為に、皆、今は、放心状態なのだと、野次馬を丸め込んだ。


いやー、それは、災難。あれ、恐ろしや。無理もねぇー、今は、そっとしておいてやろうぜ、などと、上手く、誤魔化せたと思ったのだが、そこは、野次馬のこと。


で、どんなやつらだったんだ、などなど、なかなか、粘ってくれる。


しまいには、返事をしろよ!こっち、向けよ!と、苛立ちをぶつけはじめた。


収集がつかなくなった、その時、夜空に、巨大姫猫に股がった、紗奈が現れたのだ。


ビィーーーンと、弦を弾く音が、空から流れてきた。


皆、何事ぞと、見上げると、一斉に、ひゃーーーー!と、叫び、腰を抜かした。


「かああっーー!退治したのに、また、でてきたかっ!」


髭モジャが、叫んだ。


な、なんだ、あれは!ぎゃー!と、野次馬は、腰が抜けたまま、動きがとれない。


「うむ、もののけじゃー!!

襲ってきた賊は、もののけの手下じゃったのだーーー!!!」


ひえーーーー!!!


髭モジャの、気迫に押され、そして、奇っ怪なモノが、空を飛んでいるのを見てしまった、野次馬は、言葉通りに、信じてしまう。


さらに、追い討ちをかけるように、ビィーーーンと、弦を弾く音が鳴り響き、ホホホホ、と、女の高笑いが流れてきた。


「我は、琵琶の化身じゃ!琵琶法師に、命じて、都の屋敷を襲っておるのじゃーー!!燃えておる!おお!なんと、美しい炎ーーー!!琵琶を、鳴らせ!!もっと、鳴らせ!!!ホホホホ!!」


そして、ビィーーーン、ビィーーーン、と、琵琶らしき、弦を弾く音が続く。


地上では、琵琶の化身とやらの、もののけが、琵琶法師の一味に屋敷を荒らさせていた、と、信じこんでいた。


そして、上空では、タマが、ひたすら、ビィーーーンと、鳴いている。


「上野様ーーー!タマが、ビィーーーンって、言っても、琵琶の音には、聞こえませんよーーー!」


「まあ、いいから、いいから、夜中だし、私が煽ったから、皆、騙されてるって」


「えー、そんなもんですかねえーー」


「猫ちゃん!できるだけ、高く、飛んで!皆の目に、こちらの姿が、ハッキリと映らないように」


と、いうことで、野次馬は、大路で、琵琶を奏でている、あの琵琶法師は、実は、あやかしの手下で、奏でている琵琶は、あやかしが、とりついた異形のもの。そして、その、琵琶の化身に命じられて、屋敷に火を放ち、都を火の海にするつもりだ──。


などと、見事な話を、つくりあげてしまった。


こうなれば、琵琶法師も、表だって動けず、さらに、忍びこませていた、者達は、ことごとく、検非違使に、捕まっている。


が、残念ながら、大納言家に忍んでいた者達は、予め、逃げ出している。


きっと、時がたてば、再び、集結し、襲って来るだろう──。


髭モジャ含め、皆は、覚悟を決めた。その時は、その時。相手は、もう、わかっている。手の打ちようは、あるはずだと。

羽林家(うりんけ)の姫君~謎解き時々恋の話~

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