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君に逢えなくなって
はじめて気づいたことがある
誰かを考えて切なくなる胸の痛みを
もう二度と逢えないんだと分かった瞬間から
君に逢いたくなった
人を好きになる意味が分からない俺に理解させようと 好きの気持ちを君は教えてくれた
あたたかいだけじゃなく
相手を包み込む優しさで満ち溢れるそれに
俺を包み込んでほしかった
愛されたかった――
そう思った瞬間から俺は君に恋をした
恋愛なんて脳の誤作動から起きていると
心底馬鹿にしていたのに
だけどこの想いを伝えたところで
君はそれを俺の本心だは思わない。
それどころか煩わしさしか感じないだろう
君にとって不快感しか与えない俺を
どうか忘れてほしい
君が心から愛する人と幸せになってほしい
最後までこんな我儘しか言えない俺を
どうか嫌いになってほしい
(俺は死んだはずだったのに、何がいったいどうして、こんなことになったんだ――)
目の前にある下弦の月を見つめながら、今日一日あった出来事を反芻してみる。
上司の牧野の命令で支店に赴き、出来損ないのチーム全員のクビを命じた。後味の悪さを払拭したかったのと、はるくんの現在の動向が知りたくて、元恋人が経営するゲイバーアンビシャスに会社を出た足でそのまま顔を出した。
美味い酒を飲みながら、昔のやり取りをする感じで適度に盛り上がり、知りたかった情報も手に入れて、意気揚々と店をあとにしたんだ。
『こんなところで何をしているんですか、高橋さん』
自宅に帰ろうと駅に向かっている途中に、いきなり呼び止められた。振り返ろうとした矢先に、後ろから抱きつかれ、腰の辺りを刺されてしまった。鋭い痛みをきっかけに、ふとアイデアが閃く。
すべては、暗い未来から脱出するためだった。
本社が隠していた事実を懇切丁寧に伝えた結果、社員の手によってめった刺しの刑に処されたというのに、気がついたら夜空で輝く星たちと一緒にいる、ミラクルが起こった。
「死んだら地獄に落ちると思っていたのに、どうして空中に浮いてるんだか……」
首を動かしながら辺りを見回して、独り言を呟けるが、躰は一切動かせない。金縛りにあっているのではなく、見えないロープでがんじがらめにされた感覚があった。
「サディストの俺を縛りあげるなんて、いい趣味してやがる」
『お褒めにあずかり光栄と言っておこうか、ふふっ』
男女の区別がつきにくい声が、どこからともなく聞こえてきた。後ろからした感じはなかったので、首を動かせるだけ動かして、その存在を探した。
高橋が必死になって探す様子を嘲笑う存在は、馬鹿にしたようにくつくつ笑い声を出した。
「くそっ。隠れてないで出てきたらどうだ?」
『何を言い出すかと思ったら。おまえの目の前に、さっきからいるだろう』
「目の前にって、月しかない……」
いつもは下から見上げる月が、自分の目の前にある。それは少しだけ大きく見えるだけで、いつもと大差なかった。高橋の姿を見る目や話しかける口すらないというのに、いったいどうなっているのか――。