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恐妻家ハックロードとブライトアイズの再会によって、一時は妙に家庭的な空気に包まれていたtheBanlands。
だが、それも長くは続かなかった。
砕け散った封印結晶の奥。
ブライトアイズの身体を包む紫色のオーラには、いまだに漆黒の鎖が幾重にも絡みついていた。
それは、最高神Robloxによって刻まれた断罪コード。
彼女が犯した罪ではなく、夫シェドレツキーの犯したTOS違反によって与えられた、理不尽な「BAN」の呪縛だった。
「くっ……! 結界そのものは破壊できた。だが、彼女の存在に刻み込まれたBANコードまでは消えていない……!」
ビルダーマンが巨神のハンマーを構え、鎖を解析する。
だが、いくら神の権能を注ぎ込んでも、漆黒の鎖はびくともしない。
「……私のせいだ」
ブライトアイズを背中に庇うハックロードが、ぽつりと呟いた。
胸元の緑色の肋骨が、不気味な音を立てて軋む。
「私が……妻を失った悲しみと罪悪感に耐えられず……『1x1x1x1』という憎悪の概念と同化した」
「……」
「そして、あらゆる世界のシェドレツキーを殺すために、その力を取り込んだ……」
ハックロードは、自らの胸を掴んだ。
「私の魂には、あまりにも濃い憎悪が染みついている。そのせいでシステムは、私だけではなく……彼女までも『未解決の異物』として認識しているのだ」
ブライトアイズが静かに夫を見る。
「つまり……私を完全に解放するには?」
「……私の中にある『1x1x1x1』を、取り除くしかない」
その言葉が落ちた瞬間。
「……え?」
すぐ隣にいた1x1x1x1の身体が、ビクッと震えた。
「1x……?」
テラモンが振り返る。
だが、1x1x1x1は答えなかった。
前面に緑の「X」が刻まれたドミノ・クラウン。
その奥にある真っ赤な瞳が、動揺に揺れている。
半透明の緑色の身体。
その奥で見える黒い肋骨。
そして、普段なら猛々しく燃え上がっている濃緑色と漆黒の炎が、今は小さく明滅していた。
「……浄化……?」
1x1x1x1の手から、ヴェノムシャンクがカランと地面へ落ちた。
「1x1x1x1の……概念を……消す……?」
その声は、いつもの威勢の良さからはかけ離れていた。
ハックロードの中に存在する「1x1x1x1」。
そして、この世界に存在する「1x1x1x1」。
姿も在り方も違う。
だが、その根にあるものは同じだった。
テラモン。
シェドレツキー。
その存在が抱えた恐怖。
傲慢。
孤独。
そして、世界そのものに向けた憎悪。
それらが形を得て生まれた、ひとつの概念。
もし、その概念そのものを消去するのなら。
「……俺も……消えるのか?」
誰にも聞こえないほど小さな声だった。
1x1x1x1は自分の手を見つめる。
これまで、ずっと自分は「悪意」だと思っていた。
テラモンから生まれた、憎しみの影。
世界を壊すためのバグ。
誰かを傷つけるための毒。
テラモンに嫌われることを恐れ、暴れた。
テラモンに置いていかれるのが怖くて、何度も騒ぎを起こした。
それでも、テラモンのそばにいたかった。
だからこそ。
もし自分が「消えるべき存在」なのだとしたら。
「……ふん」
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ゆ
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蟹溝@プロフ必読
163
1x1x1x1は、テラモンからもらった赤いケープの端をぎゅっと握った。
「……別に、いいんじゃねぇか」
誰も見ないように、顔を伏せる。
「俺は……テラモンの悪意だ」
声が震えていた。
「最高神に怯えて、勝手に暴れて……みんなに迷惑かけて……」
握った拳が震える。
「ただの……最悪のバグだ」
「1x……」
「だから……俺なんか消えちまえばいい」
テラモンの表情が変わった。
「俺が消えれば、ブライトアイズは助かるんだろ?」
一歩。
1x1x1x1が後ろへ下がる。
「だったら……それでいい」
もう一歩。
「テラモンも……ちゃんと人間になれ」
さらに一歩。
「俺なんかいなくても……お前には、みんながいるだろ」
そして。
1x1x1x1は赤いケープを外そうとした。
「……このケープも返す」
その瞬間。
「バカはお前だ、1x」
ぎゅっ。
小さな手が、温かな手に包まれた。
「……え?」
1x1x1x1が顔を上げる。
そこには、深く腰を屈めたテラモンがいた。
黒いローブが夜風に揺れている。
神力を失いつつある身体。
それでも、その瞳だけは。
かつて神だった頃と変わらないほど、強かった。
テラモンは1x1x1x1の手を、しっかりと握っていた。
「……離せよ」
「嫌だ」
「俺に触ったら、お前まで巻き込まれるぞ」
「それでもいい」
「俺は消えるかもしれねぇんだぞ!」
「だから何だ?」
テラモンは、まっすぐ1x1x1x1を見る。
「離す理由にはならないだろ」
「……っ」
1x1x1x1の赤い瞳が揺れる。
テラモンはもう片方の手を伸ばし、緑のドミノ・クラウンをそっと撫でた。
「お前は俺の一部だ」
「……」
「俺の恐怖から生まれた」
「……」
「俺の弱さを背負ってくれた」
テラモンは微笑んだ。
「だからこそ、お前を消させるわけにはいかない」
1x1x1x1の目が大きく見開かれる。
「……でも俺は……悪意だぞ」
「昔はな」
「……え?」
「だが、今は違う」
テラモンは、握った手に少しだけ力を込めた。
「お前は俺を守った」
「……」
「俺たちを守った」
「……」
「Banlandsのゾンビたちだって、お前は殺すだけじゃなく、仲間に変えたじゃないか」
1x1x1x1は何も言えない。
テラモンは続けた。
「それが本当に『悪意』だけの存在にできることだと思うか?」
「……俺は……」
「お前はもう、ただの憎しみじゃない」
テラモンの声が、静かに響く。
「不器用で、乱暴で、素直じゃなくて……」
「おい」
「すぐ毒を吐いて」
「おいコラ」
「すぐ拗ねて」
「やめろ」
「でも、誰よりも必死に大切なものを守ろうとする」
「…………」
テラモンは笑った。
「それがお前だ、1x」
1x1x1x1の赤い瞳から。
ぽろっ。
大粒の涙が落ちた。
「……バカ」
「うん」
「……そんなこと言われたら……」
声が震える。
「消えたく……なくなるじゃねぇか……」
「それでいい」
テラモンは1x1x1x1の手を、自分の胸へと導いた。
ドクン。
小さな鼓動が伝わる。
「お前は消えるために生まれたんじゃない」
「……テラモン……」
その瞬間。
1x1x1x1の身体を包んでいた濃緑色の炎が、大きく揺らめいた。
今までの毒々しい炎とは違う。
どこか温かく。
それでいて、強い光だった。
「ハックロードの中にある『憎悪』を浄化する必要はある」
テラモンはハックロードを見る。
「だが、浄化と抹消は同じじゃない」
ハックロードが静かに頷く。
「……その通りだ」
「お前の中にある憎悪を、ただ消すんじゃない」
テラモンは1x1x1x1を見る。
「別の形に変えるんだ」
テラモンの瞳に、確かな光が宿った。
「憎しみを、守る力へ」
「破壊を、再生へ」
「そして――」
テラモンは1x1x1x1の手を握り直した。
「悪意を、愛へ」
「……!」
1x1x1x1の身体が、大きく震えた。
その言葉は。
ずっと欲しかった。
自分が「いていい」と認めてもらえる言葉。
自分が「邪魔な存在ではない」と言ってもらえる言葉。
「……ふん」
1x1x1x1は顔を背ける。
「……バカテラモン」
「ああ」
「……調子いいことばっか言いやがって……」
「そうか?」
「……俺、泣いてんぞ」
「知ってる」
「見るなよ……」
「分かった」
「……絶対見るなよ」
「分かったって」
そう言いながら、テラモンはそっと1x1x1x1の頭を撫でた。
1x1x1x1は抵抗しなかった。
むしろ、赤いケープの中へ顔を隠すようにして、テラモンの胸へ額を押しつけた。
「……俺、まだ……ここにいていいのか……?」
テラモンは即答した。
「ああ」
そして。
「ずっとな」
1x1x1x1の身体から、濃緑色の光が一気に溢れ出した。
それはもう、誰かを呪うための毒ではなかった。
誰かを守るための炎。
誰かを繋ぎ止めるための力。
そして、自分自身の存在を肯定するための光だった。
その光景を見つめていたハックロードは、静かに黒銀の大剣を地面へ突き立てた。
「……異世界の私よ」
ハックロードが膝をつく。
「そして……1x1x1x1よ」
彼は胸元の緑色の肋骨を押さえた。
「頼む」
骸骨マスクの奥の赤い瞳に、初めて憎悪ではなく希望が宿る。
「私の中に巣食う、この呪われた『1x1x1x1』を……お前たちの力で、正しい形へと変えてくれ」
1x1x1x1は涙を拭った。
そして、テラモンの手を握り直す。
「……分かった」
ヴェノムシャンクを拾い上げる。
今度は、震えていなかった。
「俺は……消えねぇ」
赤い瞳が、力強く輝く。
「誰かを殺すためでもねぇ」
濃緑色の炎が、静かに燃え上がる。
「テラモンのそばにいるために……この力を使う」
テラモンが笑った。
「それでこそ、俺の1xだ」
「……へへっ」
その瞬間。
ハックロードの胸元から、凄まじい量の黒いエネルギーが噴き出した。
「グ……ォォォォ……ッ!!」
憎悪。
罪悪感。
絶望。
何兆年にも渡って積み重ねられた負の感情が、ついに表へと溢れ出す。
theBanlands全体が震えた。
ブライトアイズが髪を押さえながら叫ぶ。
「ちょっと! アンタ! 私がせっかく助かったのに、また変なこと始めないでよ!」
「す、すまないブライトアイズ……!」
「終わったら帰ってお風呂!」
「はいっ!!」
1x1x1x1が思わず振り返る。
「……なぁテラモン」
「なんだ?」
「俺たち……今から世界を救おうとしてるんだよな?」
「ああ」
「……なんであいつ、最後まで嫁に怒られてんだ?」
「さあ……」
テラモンは苦笑した。
「それが夫婦というものなんじゃないか?」
「……意味分かんねぇ」
だが。
その口元には、ほんの少しだけ笑みが浮かんでいた。
そして二人は、しっかりと手を繋ぐ。
ハックロードの中に巣食う「憎悪」。
それを消すのではない。
否定するのでもない。
受け入れ、理解し、そして新しい意味へと書き換える。
それこそが――
「1x1x1x1」という存在が、初めて自分自身の手で選ぶ未来だった。