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#ワンナイトラブ
だけど、どう考えても私には簡単な言葉しか思い浮かばなかった。
「お姉さん、強い方、なんですね」
「強い?家族に気を遣ってるだけですよ。親くらい勝手に心配掛けてればいいのに、馬鹿じゃねぇのって思ってましたけど」
常葉くんの薄い唇が、嘲笑うように端を上げる。それが何故だかちくりと胸を刺すので、頭の中で感情をまとめあげた。
ただ、どうやっても常葉くんに同情することは出来なった。
「……そうでしょうか、私、何となく分かりますよ」
何で?と、素直に彼は私に視線を移す。
「お姉さんが頑張っていることを常葉くんは知っていたんですよね。きっと、お姉さんはそれで良かったんですよ。自分が頑張っていることを、たった一人でも分かってくれると報われるんですよ」
それは今まで私に常葉くんがしてくれた優しさと、同じことだった。
常葉くんは口では否定的な言葉をぶつけるけれど、誰より優しい人。きっとお姉さんも同じだったに違いない。
どう感じただろう、見上げれば、彼は少しだけ不満げに眉根を顰めていた。
「…………そんな臭いこと、よく真顔で言えますね」
……引かないんだ。
それが少しだけ嬉しくて、へらっと微笑むと、常葉くんは伏し目がちにして首を傾け近寄る。
啄むように交わされる、唇に触れるだけの軽いキス。
私は、常葉くんの頑張りを分かってあげられているのかな。
……私にも、見せてくれているのかな。
軽いキスが徐々にペースアップしてくると、吐き出す呼吸も荒れて下腹部が甘く疼く。
一瞬で変わる、甘い空気。腰を撫でる手は徐々に上に伸びて、優しく胸を包まれる。
少し触れられるだけで、「あ、」と声が漏れて息を吐くと、常葉くんは色っぽく微笑む。それがいつも恥ずかしくて、私は目を逸らす。
そんな私にお構い無しに、柔く指を沈めて指先は悪戯するみたいに先端を弾く。
恥ずかしいのに、”やめて”も”しないで”も、口から出ることは無い。出てくるのは息とともに吐き出す喘ぎ声だけで、電気が点いてるのに、ソファーの上なのに、そんな言い訳も全部呑まれていく。
強引に反対側を向けられて、指がそこに触れると、十分に、そうなっているから簡単に入り込む。
「それはそうと、依愛、俺の名前いつになったら呼ぶの?」
指を動かしながら、耳元で甘い声は強請るみたいに囁く。それは私が足踏みしている事なのに、こんな時に言われても頭が正常に働くはずも無い。
「と、常葉くんだって、普段は穂波さんって」
「それは”穂波さん”に合わせてるだけ」
「うぅ……」
視線を泳がせて口を噤めば後ろから髪をかき分けられて、露になったうなじを甘噛みされる。
「セックスの時は呼んでくれるのに」
さっきまでいやらしく触っていた指は、ふわふわと輪郭を撫でるだけ。それはきっと、彼のターゲットがこちらに移った事がなんとなく分かった。
言うまでしない、きっと、そう言うことだ。こんなに簡単に主導権を握るところが狡い。
それに、最中は無我夢中で、無意識のうちに名前を呼ぶのに、熱が上がりきっていない状態で言うのは初めてに等しい。
「……だって、恥ずかしくて。……まだ」
「じゃあ、練習する?」
誘導されると素直に「うん」と頷けば、常葉くんは私の肩に肩を乗せて、優しく微笑む。
「せーので行くよ」
「え、ぇ」
早いな、もう?と、思う暇さえ与えずに常葉くんは私に促すので沸騰した頭の中で準備を進めた。
「せーの」
なので、声を合図に、素直に口を開く。
「いつき」
「好きだよ」
………………え?
重なる声は、すぐに耳から脳内に浸透して微熱をもたらす。
こ、このタイミングで……
何も言えずに耳に篭った熱を隠そうと触っていると、背後からくすくすと微かな笑い声が聞こえる。
「はは、真っ赤」
「も、意地悪っ」
「ごめん、ごめん」
常葉くんは口で軽く謝ると、背後から突き刺すように私に割って入る。甘い刺激が頭のてっぺんまで辿り着くと、喉の奥から短い息と共に「あぁっ」と声が漏れて、ソファーの背もたれに必死でしがみつく。
「ふぁ、あっ、やぁっ」
「可愛いな、もう」
「っく、あっ、」
「なに、何かしてほしい?」
「手、つないで、」
「ん、良いよ」
隣を歩く時は繋がることは無い手のひら。
この時だけは簡単に繋がる薄い手のひら。
私以外に、こんな顔を見せて欲しくはない。
私以外に、こんな優しく触れて欲しくもない。
……最後になれば良いのに。