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五節《ごせち》の舞といえば、主要な、宮中の行儀で、お上を前に、乙女達が舞を披露するもの──。
「そうか、母上は、入内候補、ではなく、舞の演じ手だったんだ!」
守満《もりみつ》が、興奮ぎみに言う。
それも、そのはず。この、御膳舞とも言える場で、目に止まれば、党閥争いなど関係なく、自然、更衣として、お上のお側に登れるのだ。
「なるほど、お上自らお選びになられれば、寵愛を一身に受ける、ことになる!」
押し付けられた女よりも、自ら選んだ女の方が、当然、いとおしく思うもの。仮に、更衣で、あっても、そこで、男子《みこ》を授かれば、身内は、外戚となり、天下が手に入る。
徳子《なりこ》の父は、名より実をとる手に出たのだ。
ところが、肝心の娘が、舞い手から、外されてしまった。
「もう、父上ったら、ものすごい剣幕!でも、私は、嬉しかった。もしよ、もし、お目に止まってしまったら……」
「あら、姫様、とても光栄な話ではないですか?」
「じゃあ、父上よりも、お歳を召した方と、玉里《たまさと》は、添い遂げる事ができるの?私は、無理だわ。それに……とても、怖そうなお方だもの……」
「姫様!それは、決して、外では、口外なされますな!」
「わかってます!」
徳子は、ぷっと頬を膨らまし、そっぽを向いた。
「守満様?……と、言うことは、先帝の……と、いうことでしょうか?」
常春《つねはる》が、確認するかのように、言う。
「ああ、そうなるね。今上帝のお歳を考えると、そうだね、まだ、ご即位なされてなかったかも……と、なると、確かに、母上とは、孫ほど歳が離れる事になるな……」
「まあ。そんな。それに、既に、中宮様も、更衣様も、相当、いらっしゃったのでは、ないのですか?」
守恵子《もりえこ》は、心配そうに、問うた。
「ああ、その通り。もし、もしもだよ、母上に、お目が止まっていれば、かなりご苦労されたはずだし、私達だって、産まれていなかったろう……」
守満も、どこか、心細げに、守恵子へ答えた。
「はあー、なんだか、とんでもなく、楽しい事になっているじゃないか?」
戸口から、妙に弾けた声がする。
何者?と、皆、振り返ると、守満、守恵子の父、守近が、立っていた。
「出仕から、戻って来ても、誰も出迎えに来ないとは、父は、そんなに嫌われたのかと、泣きそうになりましたよ。ところが、皆で、集まって、実に、楽しそうな事を行っているではないですか、まったく、これは、抜け駆けですよ!」
「いや、守近様!」
「も、申し訳ございません!お迎えできず……」
自らの努めを、怠ってしまったと、常春《つねはる》と、上野は、小さくなった。
「いや、気にしなくても良いよ。女房達は、出てきたから。しかしだ、なんだね、ありゃ?!」
守近は、あまりにも、質が悪い。と、ぶつくさ言った。しかし、守近が、その、女房達を雇いいれたのだからと、上野が、確認すると、
「なんだって?私が?まあ、人手が足りないからと、女房を雇うことは、認めましたよ、ですがね、あのような、者達とは。上野、先程と、来たら、なんとまぁ、気もそぞろ。私の事など、後回し状態だったのだよ?」
守近は、よよよ、と、泣き真似をして、袖を顔に当てた。
「守近様、それは、まことですか?」
徳子の相手をしていた、晴康が、やおら、声をかけてきた。