目に映る限りの動物型の悪魔を残らず捕獲する事に成功した茶糖家の攻撃隊に対して、嬉しい言葉が届けられるのであった。
母ミチエの声だ。
「はぁ~い! 皆お疲れ様~、お腹が空いたでしょ~? オニギリさんの登場ですよぉ~! からのぉ?」
慣れない口調でお父さんのヒロフミがお母さんミチエからバトンを受け取って続けるのであった。
「ほっかほっかのジャガイモにバター、えっと、じゃがバター明太子アーンド、バフンウニたっぷり乗せゴージャススペシャルだぜぇ! 召し上がれぇ~ こ、これで良いんか?」
なるほどぉ、美味しそうじゃないかぁ!
んにしてもお茶農家さんってお金が有り余ってるんだね?
これが私、観察者の偽らざる気持である、普通にまっとうな商売していたらこんなに余裕ない筈だもんなぁ、コユキが鶴の尾羽を入手するために訪れた調布の豪邸を目にして言っていた言葉を借りてしまえば、どんだけ悪いことしてたらこんなもの食べれるんだよ? そう言う事だろぉ?
ツミコが兄貴の言葉に答えるのであった。
「ああ~、何か疲れたね~、頭がくらくらするよぉ~」
それは飲みすぎプラスあの気持ち悪い乳化液のせいでは?
そんな風に思った私の言葉はいつも通り無視されていく中、多数の軽トラが茶糖の家に辿り着く、けたたましいエンジン音が和やかなムードの庭先に鳴り響いたのであった。
先頭を切って茶糖の家の門を越えて歩いて来た、オールスターズのリーダー四桐(シキリ)鯛男(タイオ)が声を張ったのである。
「大丈夫だったぁ? んまあ、ここは心配いらなかったかぁ! おお、美味そうですね! これ? 頂いても?」
そう聞かれて断る事が出来る豪傑は、現代日本には殆ど(ほとんど)居ない……
ここら辺の図々しさと親しさの境界線がおかしくなっているのが、茶農家ネットワークの特徴である。
ゴン太(ぶと)加減の加減知らずなのが、静岡県の農家の悪い所でも有り、また同時に良い所なのであるが、コユキのコミュ力不足の遠因(えんいん)であるヒロフミは、普段話した事どころか目を合わせた事すらも無い鯛男に向けて、なるべく緊張してないふりを続けながら答えたのである。
「ああ、四桐んとこのチィーオ、いいやタイオ、ん、ぐふっ、君じゃないかぁぁ! チミたちも、えっと食べて行きなさいよと思うから、食べて行っても良いんじゃないかなぁ? お母さん、な、食べて行くのも一案だよね? ね? あれ、やっぱダメか! どうすれば良いの?」
役立たずは無視する事として、コミュニケーション能力に長けたミチエが、ゴハン、お昼ご飯の開始を宣言するのであった。
「皆、それぞれお疲れ様だったわねぇ! 質素な物しかないけど、せめて、お腹いっぱい食べて行ってねぇ! お代わりあるからねぇ~!」
うん、百点満点、凄いぞ、お母さん!
そんな明るいムードの中で、最近優しいスカンダが、らしく無い感じ、具体的には眉間に深い二本線を刻み込んで、隣でオニギリを頬張っていた象面(ぞうづら)に向けて言ったのであった。
「おい、ガネーシャ…… お前何でこっちサイドの顔してオニギリ喰ってるの? 信じられないんだけど……」
ガネーシャはキョトンとしながら答える。
「え、何なの? 兄貴ぃ! 俺ってもう『六道(りくどう)の守護者』なんでしょ? え、ええ、食べてダメとか意味、ワカメ…… ワカメすぎでしょぉ! ガネーシャショックっ! だよぉ!」
声が大きくとも、お兄ちゃん、スカンダは騙されなかったようであった。
「いやいやいや、お前まだシャンティを依り代にして顕現した『馬鹿』のまんまだろうがっ! 取り敢えず、コユキ様と善悪様が帰って来るまでは、他の悪魔達と一緒に大人しくしていろよ、じゃないと俺だって庇い(かばい)きれないじゃないかぁ~、なあ、リエちゃぁ~」
リエがシャケのオニギリを頬一杯に頬張りながら答える。
「そっか、そうだね~、我慢してね、ガネーシャ君!」
「えぇぇー!」
文句タラタラなガネーシャは食べ掛けだったオニギリを食べ終えると連行されて行くのであった。
リョウコの蔓(つる)でしっかりと両手首を拘束され、そこから伸びた蔓の先を持って軽トラまで引いて行くのは小さなお猿、フンババである。
カルキノスが縛られた手首に肥料の空き袋を掛けてあげる、周囲の好奇の視線から守るせめてもの思いやりを見せていた、優しい。
軽トラの荷台に乗り込む弟にスカンダが声を掛ける。
「幸福寺ではお互いの安全確保の為に納骨堂の地下に入って待つ事になるだろう、あそこは精神の修行には持って来いだから楽しみにしておくと良いぞ」
ガネーシャは嬉しそうに答えた。
「へー、そうなんだ、俺って修行とか大好きだからな、どんなんだろな、へへへ♪」
罪悪感でも感じたのか、スカンダは素直な弟の視線から目を逸らして呟いた。
「他では経験できないと思うよ…… 私も時折フラッシュバックがな…… ま、まあ、頑張れよ……」
食事を終えた鯛男達は捕獲した動物を軽トラに乗せて幸福寺へと走って行った。
何度か往復しなければ運び終える事は出来ないだろう、その第一陣の荷台からは嬉しそうに背を伸ばし、リエとスカンダに向けてブンブンと手を振るガネーシャの姿が見えた。
リエとスカンダは頷き合い、彼が自分自身を失わない事だけを切に願うのであった。