テラーノベル
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父のさらなる追撃が、盾を打つ鈍い音を響かせた。
「邪魔を……しないで……っ!」
私は、血を吐きながら叫んだ。
だが、身体が言うことを聞かない。
壁に凭れたまま崩れ落ち、視界の端が赤黒く染まっていく。
「貴方はすでに、限界を超えています……っ」
「うるさい……黙っててよ……っ」
震える手で銃を掲げ直そうとした。
だが、腕は鉛のように重く
血管を流れる魔力はもはや灼熱の毒液となって私を内側から焼き、爛れさせていた。
「ふはっ……」
泥濘の向こうで、父が嗤う。
「やはり所詮はその程度か。母親譲りの、脆く儚い欠陥品め」
「っ! ……黙れぇぇぇ───ッ!!」
その言葉が、私の最後の理性を焼き切った。
残された全生命力を魔力へ変換する。
体中から魂を搾り取られる感覚。皮膚が裂け、毛穴から鮮血が噴き出す。
筋肉が捩じ切れ、神経が焦げつく。
「ぁ……っ、ぁぁぁあああっっ!!」
魔力の許容量が臨界を突破した。
肉体が制御不能に陥り、意識が、暗く冷たい深淵へと真っ逆さまに堕ちていく。
だがその闇の底で、かつて感じたことのない強烈な「万能感」が産声を上げた。
「……エ、エカテリーナ……?」
アルベルトの声が、恐怖に震えている。
だが、今の私には、彼の声さえも遠い世界の雑音にしか聞こえない。
理性も、倫理観も、自分という人間を形作っていたすべてが消え失せ
後に残ったのは、ただひたすらに、純粋な殺戮への渇望。
私は、ゆっくりと立ち上がった。
足元が崩れ、膝が悲鳴を上げても関係ない。
血濡れのリボルバーを拾い上げ、硝煙と鉄
そして腐敗した魔力の臭いの中に立ち尽くす。
「ほう……ついに『魔女化』か? 面白い、実に面白いぞ!」
父が狂ったように笑い、手を広げる。
答える必要などない。
私はただ、この暴走する魔力の奔流を、すべてあの男の心臓に叩き込みたい。
(すべて……壊してやる)
視界が紅く染まり、世界の流れが極限まで遅滞していく。
父の動き。
雨の雫。
すべてが静止したかのように緩慢に映る。
私は、駆け出した。
もはや人の領域を超えた、音をも置き去りにする速度。
紅い残像を曳きながら、私は父の懐へと飛び込み
そのゼロ距離で、人差し指にありったけの殺意を込めて引き金を引いた。
轟音と共に、世界のすべてを焼き尽くす一撃が放たれる。
「ぐ、ぁぁぁああああっ……!!」
父の咆哮は獣のそれだった。
魔女の領域に足を踏み入れた私の五感は、異常なほど、そして残酷なほどに研ぎ澄まされていた。
降りしきる雨の一滴一滴、泥が跳ねる音
そして父の放つ弾丸の軌道すら、まるでコマ送りの映像のように明瞭に捉えることができた。
避けられないはずの、死を運ぶ軌道上の弾丸が、肌を僅かに掠めただけで弾かれ、無効化される。
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