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◇◇◇
巨大ゴーレムを打ち倒したコウカたちは、万全を期してニュンフェハイムへ突入するために休息を取っていた。
「本当にユウヒがそんなことを……?」
「はい。あの時、わたしはマスターなら彼らを救うために動くだろうと思い、それに合わせようとしました。……その結果があの不和です」
少女たちが集まり、深刻な表情で語り合っている。
だがこの場にユウヒの姿はない。
「さっきの主様、すごい顔してた……」
「ねえ、ユウヒちゃんに何があったの?」
ダンゴとシズクの両者とも、その顔に不安を滲ませながらコウカを仰ぎ見ている。
そしてコウカは爪が手のひらに食い込むほど手を強く握りしめたまま、2人の問い掛けに答える。
「あの時のマスターから感じたのは悲しみや寂しさ、そして絶望が入り混じったようなぐちゃぐちゃとしたものでした」
「……アンヤも感じてた。ますたー、辛そうだった。全然笑えてもいなくて……」
たどたどしい言葉を紡ぎ、コウカと同じように表情を曇らせるアンヤ。彼女たちの言葉を聞いた者たちも皆、悲しみに暮れていた。
そんな静寂が包み込む中、地面に膝を突く音がいやに大きく響き渡る。
「わたくし~……前からおかしいなって~思っていたのに~……! 気のせいかなって~……気付けたはずだったのに~! どうして~……」
ユウヒの僅かな雰囲気の変化から薄々不穏な空気を感じ取ることもあったノドカであったが“まさかそんなはずはない”という思いや、巧妙に取り繕ったユウヒの雰囲気に騙されてしまっていた。
ずっと前から苦しんでいたはずであるユウヒの心の叫びに気付いてあげられなかったことが、何よりもノドカを苦しめる。
「それはわたしも同じです」
そんな彼女の体をふわりとコウカが包み込んだ。
「マスターの様子がおかしいことは何度もありました。でも、わたしはずっと心の奥に隠されていた悲しみを見つけられてすらいなかったんです」
「ボクも少しだけど主様の辛そうな声、聞いてたよ。でも、なんで……主様なら大丈夫だって思っちゃったのかな……!」
悲しみと悔しさが入り混じった表情で俯くダンゴの頬を涙が伝っていく。
その涙をローブの裾で拭ってあげたシズクがダンゴの頭を優しく撫でながら、自身を含めた全員がユウヒの苦しみに気付けなかった理由を顧みた。
「あたしたちの誰もが、すぐいつものユウヒちゃんに戻ってくれるって、理由もないのに信じ込んじゃっていたんだよ。それが当たり前だって思っていたから、深く考えようともしなかった」
「……元気になってくれたからって、慰めたつもりだった」
幼い彼女たちでは、偽りの仮面の奥側を覗き見ることができなかった。
でも、だからといって彼女たちは己の幼さに甘んじることはしない。
「それが私たちの過ちよ。ユウヒと同じ“人”になろうとしたのに、あの子が私たちと同じか、それ以上に辛い想いを抱えていることを考えてあげられなかった。思い返せば当然のことだったのに……ただずっと浮かれていただけだったのよ、私たちは」
過ちを認めることが終着点ではない。それを糧にして一歩を踏み出すことが人としての成長へと繋がるのだ。
「あの子は今もずっと苦しんでいるはずよ。コウカねぇの言葉通りなら絶望して、悲しんで、寂しがってる。それが分かっている私たちは、そんなあの子のことをこのまま放っておいて本当にいいの?」
ヒバナの真摯な問い掛けにすぐさま食らいついたのがダンゴとノドカだ。
「いいわけないっ! そんなの全っ然いいわけない! ボクは主様に心の底から笑ってほしいよ!」
「わたくしだって~! もうお姉さまの心を~見失ったりなんて~しないもん~!」
未だ流れる涙を自分でゴシゴシと拭ったダンゴと、ここ一番の覇気を一言一言に込めるノドカ。彼女たちは己の不安すらもその勢いで吹き飛ばす。
「……ますたーはずっとアンヤたちの道も居場所も照らしてくれた。だから今度はアンヤたちが照らす番。嫌がっても、無理矢理にでも……絶対に」
そう口にしたアンヤから視線を向けられたコウカが、困ったようで少し嬉しそうにはにかんでいた。
また、前の2人とは違い、静かではあるもののしっかりと自分の意志で語るアンヤにシズクは薄く微笑む。
「そうだね。あたしたち、ユウヒちゃんからたくさんの物を貰ったよね? だったらちゃんとお返ししてあげようよ」
「その前にあの子が抱えているものも全部吐き出させてやるわよ」
ノドカを助け起こしたコウカが彼女たちに笑いかける。
「だったらすぐにでもマスターを迎えに行きましょう。もうこんな偽物の関係はおしまいにします」
◇
コウカが何を言っているのか、理解ができない。
「こんな関係、家族でも何でもなかった」
やめてよ。
「わたしたちは家族になれたって……ただ浮かれているだけだった」
やめてよ。
「大切なものを取り零していたのに気付きすらしないわたしたちは、きっと本当の家族じゃ――」
「やめてよっ!」
もうそれ以上、何も聞きたくなかった。
抑えきれなくなった感情が爆発する。
「どうしてそんなこと言うのっ!? 私、こんなに頑張っているのに、ずっと頑張ってきたのにっ! みんなと一緒にいられるように頑張ってきたのにぃ!」
みんながいなくなったら、私の人生は何の意味もなくなっちゃう。
「私が太陽になれなかったからっ、だから駄目なの!? これでもみんなの期待に応えられるようにっ必死にやってきたんだよっ!」
私にとっての太陽はパパとママだった。
溢れるくらいの愛情をくれて、誰かの為にいつも頑張っているパパとママはとても温かい存在だった。
だからパパとママがいなくなってからも、ずっと私の覚えている太陽の姿を真似して生きていれば、誰からも好きでいてもらえる。いつかきっとそばにいてくれる人も現れてくれると信じていたのに。
こっちの世界でもそれを信じて、前の世界と同じように頑張ってきた。戦う力もなくて……前の世界と同じようにはいかない。でも、できる範囲で必死に太陽になろうと頑張っていた。
前の世界のように独り善がりの太陽にならないように気も遣った。
何よりもみんなが私に期待していたから必死だったのに。
――それがいけなかったのかな。
「お願い……嫌いにならないで……」
自分とその周りのことしか考えていないって、見透かされていたから失望されたんだ。
どれだけ頑張っても私の心が醜い限り、結末は変わらない。
前の世界と同じだ。私が得られるものなど何もない。何もかも、結局は離れていくだけだった。
本当の意味で私のそばには誰も居てくれなかったんだ。
――だったら私はどうすればよかったんだろう。
「いなくなっちゃやだよ……ずっとそばにいてよ……こんな私でもいいよって……一緒にいたいって言ってよ……」
醜くて汚れた欲望に塗れた私。本当の私。
こんなもの、きっと誰からも受け入れられるはずがない。幻滅されて当然だ。
パパとママがくれた温かい愛情だって、きっとただの幻想でしかなかったんだ。幻想なら最初から得られるはずもない。
「私はただ……みんながそばにいてくれればそれでよかったのに……」
私はみんなさえいれば、他には何もいらない。
他人なんて、本当はどうでもいいんだ。
どうしようもなく穢れた本性。ここで何かを言う度にみんなの――私の理想とする太陽からは遠く離れていってしまう。軽蔑され、失望されるだけだ。
「――ようやくあなたの奥底にあるものに、少しでも触れられた気がするわ」
気付けば座り込んでいて、ペンダントを握りしめていた私の頬を挟み込む温かい手があった。
「え……」
「なに呆けた顔しているの。まあ、コウカねぇの切り出し方というか、言葉選びはどうかと思ったし、そうなるのも無理ないけどね」
信じられない。もう触れられることもないと思っていたヒバナが、私に向かって微笑みかけてくれている。
「お姉さま~! わたくしたちは~絶対に~離れたりなんかしません~!」
「ボクたち、主様とずっと一緒にいたいよ!」
心の理解が追い付かなかった。
私はみんなが冀うような太陽ではないというのに。
「コウカねぇの言い方のせいで誤解したかもしれないけど、あたしたちはユウヒちゃんにお別れを言いに来たんじゃないよ? ユウヒちゃんのことを迎えに来たんだ」
「……ますたーの心はアンヤたちが照らしてみせる。だから、安心して打ち明けてほしい」
まっすぐで穢れのない瞳だ。私はいつもこの子たちのこの純粋な眼差しに救われてきた。
だから今さら彼女たちの言葉を疑うことはしない。……でも、全部話すことなんてやっぱり怖くて踏ん切りがつかない。
私が何も言えないでいると澄んだ声でコウカが語り始める。
「わたし、マスターに家族の話を聞いた時からずっと家族というものに憧れていたんです。辛いことや嬉しいこと、悲しいことや楽しいことも一緒に感じ合って支え合う。一緒にいて心が温かくなるような人たち、笑い合える……そんな居場所」
私がかつて彼女たちに語った言葉だった。この子はずっとこんな言葉を信じてくれていたというのか。
「そんなの……ただの綺麗事だよ。本当にあるのかどうかすら分からない、私の理想を好き勝手に語っていただけなんだ……」
昔は信じられたはずなのに、今はそんな関係が本当にあるのかすら疑っている。
今まで、私がいくら望んでも得られなかったものだから。
「それでもです」
「え?」
「たとえ綺麗事で埋め尽くされた言葉だったとしても、わたしたちにとっては紛れもない真実なんですよ」
そうだ。そうなのだ。何も知らないこの子たちの無垢な心はいつだって私の言葉をまっすぐに受け入れ、信じてくれた。
……きっと私の言葉を一番信じられていないのは、私自身なんだ。
「コウカ姉様の言う通りだよ。ボクも主様から家族っていう関係を聞いて、すごく胸が温かくなったんだ」
「ユウヒちゃんが考える理想の関係ってことは、ユウヒちゃんが心の奥底から願っていることだよね。だったらあたしたちがその言葉を否定する理由にはならないかな。あたしはユウヒちゃんが教えてくれたこの場所が大好きだから」
でもこの子たちの言葉なら受け入れられる自分が確かにいる。
「わたくしも~ここが~大好きですよ~。安心していられる~理想の居場所ですから〜」
「私たちの心が感じていたものも、この居場所も決して幻なんかじゃない。本物じゃなかったとしても、確かに存在しているものなの。私はこの熱がユウヒの心にも生まれてくれているものだって信じてる」
私はこの子たちと一緒に過ごす時間が大好きだ。この子たちを愛しているんだ。
「……ますたー。自分の理想なら、自分で否定しないでほしい。自分の本当の心を、自分から嘘にしないでって……ますたーがアンヤに言ってくれたはず」
「アンヤ……」
「全部この心に残ってる。ますたーからもらった言葉も、アンヤにとって全てがかけがえのない宝物だから」
そう思ってくれているのは純粋に嬉しかった。たどたどしい言葉でも、しっかりと彼女の気持ちは伝わってくる。
でも――。
「みんなの想いも……温かさも……居場所だって本物だよ」
「だったら……!」
「でも駄目なんだ……私は言葉みたいに綺麗じゃない。心が醜くて、穢れているから……みんなには相応しくない。いつか幻滅しちゃうよ……」
綺麗な言葉、理想。でも私自身はどこまでも汚いから。こんな私の心をみんなに見せることはできない。
一緒にいることで、この子たちの純粋な心まで汚してしまう。
「幻滅なんてするわけないわ!」
「するよっ!」
まだ私の本性を知らないからそんなことが言えるのだろう。
――だったらもう全部教えてしまえばいいんだ。
「私って、みんなが思っているほど立派な人間じゃないんだ! 臆病で、自分勝手で、進んで誰かのために頑張れる人なんかじゃない。人助けだって本当は全部、自分のためでしかない。誰かに側にいて欲しくて……ただ自分の居場所を作りたくてやっていただけなの!」
人助けは私の模倣だったとアンヤは言っていたが、そんなわけがない。
私がやってきた人助けには優しさが伴っていない。全部打算ありきだ。
救世主になったのだって、そうすればミネティーナ様が受け入れてくれるようになるんじゃないかって当時の私が思っていたから、軽い気持ちで引き受けただけなのだ。
「今だって本当は全て投げ出したいって思ってる。重たすぎるんだよ。救世主が……皆の期待を背負うのがこんなに苦しいものだなんて思わなかった。いざ背負うことになって思ったの、苦しいだけなのにこんなものを背負ってまで他人のために頑張る意味は何なのかって。本当に苦しい時に何もしてくれない人たちの為に今まで頑張ってきたことに意味なんてないんじゃないかって! それで、何のために頑張っていけばいいのか、どうやって生きて行けばいいのか、分からなくなっちゃった……」
私は辛い想いをしてまで他人の為に頑張れる人じゃないんだ。
自分の身の回りさえよければそれでいいとさえ思っているような偽善者だ。
「……幻滅するでしょ? みんなが太陽だって信じて、期待してくれていた私は……本当はそれとは真逆の人間なんだ」
――ああ、全部言っちゃった。
自分から進んで他人に手を差し伸べ、どんな人の為にも頑張れる人――そんなものをずっと演じてきたけど、今まで被っていた仮面などもう意味のないものになってしまった。
「何よそれ……私とそう変わらないじゃない」
意図せず、といった感じで漏れ出してしまったかのように笑われてしまった。
思わずヒバナの顔を見上げると彼女は苦笑していた。
「私はこれまで、見知らぬ誰かの為に頑張ろうとしたことなんて一度たりともないわ」
「あたしも。あたしはいつも自分たちの為だけに戦ってるよ。これを聞いて、ユウヒちゃんは幻滅した?」
私は首を横に振る。
幻滅するわけがない。この子たちが他人に興味がないからといって、私たちに向けてくれる気持ちが本物であることは知っているからだ。
喜びこそすれ、幻滅するなどありえなかった。
「そういうことなんだよ。ユウヒちゃんが本当に他人なんかどうでもいいって思っているかは、ちょっと首を捻っちゃうところもあるけど、たとえそう思っていたとしてもユウヒちゃんに対する想いは変わらないんだよ」
本当にこんな私でもいいのだろうか。
いや、しかし――。
「でもそれじゃ……パパとママみたいに……みんなが私に期待してくれていたような太陽にはなれない……」
「それは違う」
アンヤだった。
真っ先に否定の言葉を口にしたのは、何度も私のことを太陽だと言ったアンヤだったのだ。
「アンヤにとって、ますたーたちは最初からずっと太陽だった。それは今も……これからも変わらない」
「マスターと過ごしてきた日々が、今のわたしたちを形作ってくれたんです。何も知らなかったわたしたちの道を照らして、導いてくれたんです。だからマスターはわたしたちにとっての太陽なんですよ」
まだ2人はそんなことを言ってくれるのか。こんな私を太陽だと。
「……本当に……? こんな醜い気持ちを抱いている私が、みんなの太陽になれているの? みんなはこんな私でも、いいの……?」
「2人が言ったでしょ。私たちはあなたに、あなたのお父さんとかお母さんみたいになってほしかったわけじゃないの」
目から鱗が落ちる。この子たちが考えている太陽と私の考えていた太陽。同じになるはずがない。私が勝手に混同していただけ。
だってこの子たちは私のパパとママのことなんて知らないんだから。
――ああ、最初からボタンを掛け違えてしまっていただけなんだ。
「これまでも主様はたくさんの言葉を教えてくれたよね。その言葉たちにはどれもたくさん主様の気持ちが詰まってて、ボクたちに温かいと感じる心をくれたんだよ」
「どんな気持ちを抱えていても~一緒に居たいって願うのは~大好きなお姉さまだからですよ~」
今思えば私はみんなに本心を隠していても、騙そうとしたことは一度たりともなかった。
私の綺麗事を、紛れもない本心から漏れた言葉をこの子たちは温かいと思ってくれていた。一緒にいたいって、私を肯定してくれた。
みんなはずっとそれを示して、ちゃんと寄り添ってくれようとしていたじゃないか。
最初から支えてくれていたのに、まっすぐ向き合えなかったのは私のほうだったのだ。
ずっと私が求めていた存在をもう失いたくなくて、本当の心を知って軽蔑されるのが怖くて、ちゃんと向き合えていなかった。
「頑張ったね~……本当によく頑張りました~……っ」
気付けば私はノドカによって抱きしめられていた。
そこから顔を上げて周りを見渡せばみんなの顔が見える。誰もこんな私のことを蔑んでなどいない。受け入れてくれている。
「ほんとに……頑張り過ぎなのよ。でも感謝してる……私たちが繋がれたきっかけは間違いなくあなただった。ありがとう、ユウヒ」
「これまで主様が頑張ってきた分、今度こそボクたちでちゃんと支えるよ!」
違う、違うよ。私はいつだってあなたたちに支えられてきた。
私が何かを決断するときはいつもみんなの存在がその根底にあった。
――そっか。みんなが私を“太陽”と言ってくれたように……いつの間にかみんなが私にとっての“太陽”になってくれていたんだ。
腑に落ちる。もういないパパとママじゃなくて、今の私を照らしてくれているのは紛れもなくこの子たちなんだ。
「ユウヒちゃんは一人なんかじゃないよ。辛いことがあった時は、あたしたちに頼ったり、縋ったりしていいんだよ?」
「もう一人で全てを抱え込まなくていいのよ。私たちの前では無理に気を張ろうとしなくてもいい。ずっと強くなくても、弱さを見せても、甘えてもいいの」
「……支え合って生きる。それがきっと、アンヤたちがなりたいと願っている家族だから」
家族。コウカは私の話を聞いた時から憧れていたって言ってくれた。でも憧れていたのは私も一緒だったはずなんだ。
私は打算的な関係じゃなくて、何でも受け入れてくれるような愛情を本当は求めていたんだ。
「これからは~お姉さまからも~ちゃんと頼ってね~?」
「ボクたち、まだまだ頼りないかもしれないけど……もう気付けずに何もできないのだけは嫌なんだ」
どこかズレてしまっていた私とみんな。
この子たちが私を、己が追い求めていた居場所へと引っ張り上げてくれようとしている。
そうして不意に伸びてきたコウカの手によって私の頭が撫でられる。それはまるで小さな子供をあやすかの如く優しい手つきだった。
「わたしたちが今まで築いてきたこの繋がりは決して偽物なんかじゃありません。だから、取り零してしまっていたものをちゃんと掬い上げることで……いつか、わたしたちは本当の家族にだってなれる。だって、こんなにもお互いを愛おしく想えるんですから」
気付いた時には、私の頬を涙が伝っていた。
その涙をさっとコウカが拭ってくれる。
「もう我慢しなくてもいいんです。今まで隠してきたものも……少しずつ吐き出してしまいましょう。ちゃんとわたしかたちが受け止めます。わたしたちはここにいますから」
「……ずっとそばにいて……もう私を一人にしないで……」
「はい……はい……! 何があってもわたしたちはあなたのそばにいます。ずっと、ずっと一緒です!」
「うん……っ!」
もう堪えきれなかった。
私がずっとそばにいてくれる人を追い求めてきた日から溜め続けていた想いが溢れ出してきて、その想いに翻弄されるような形で私は泣きじゃくった。
ただの幼子のように声を上げて泣いていた。
私、諦めなくてよかった。頑張ってきて本当によかった。
頑張ってきたことに意味がなかったわけじゃない、この繋がりは確かにここにあるのだから。
本当に優しくて、温かくて、それがただ愛おしくて。今の私には勿体無いくらいかもしれないけど。それが私たちの築き上げてきたものなら信じられる、受け入れられる。
仮初の関係はおしまいにしよう。
ここが私の追い求めていた私たちの関係、居場所……そしてこここそが、私たちが家族として歩み始める本当のスタートラインだ。
「――ねえ、ユウヒ」
泣いて、泣いて、ずっと泣き続けていた私のそばにずっといてくれたみんな。
やっと落ち着いてきた頃にヒバナが優しい声音で呼び掛けてくる。
鼻を鳴らしながら首を傾げると、彼女はその語調のまま語り始めた。
「何の為に頑張ればいいか分からないって言ったわよね。だったら、これからは自分たちの為に頑張ることにしない?」
申し訳なさそうに眉を下げるヒバナに続き、シズクも私に語り掛けてくれる。
「今まで辛い思いをしてまで頑張ってきたユウヒちゃんに、もう頑張らなくていいって言ってあげられないのはあたしたちが力不足な所為だけど……きっとユウヒちゃんの力がないとあたしたちは勝てない」
「無理に戦ってほしいわけじゃないのよ。私だって戦いたくて戦っているわけじゃないし」
何とか誤解がないようにとしどろもどろになりながら説明するヒバナ。
それくらい私もちゃんとわかっているよ。
「このままアイツらに好き勝手されちゃ、ボクたちの暮らす世界だってなくなっちゃうもんね」
「わたくしたち~これからなのに~何もできなくなっちゃう~」
2人が言ってくれたように、戦わないと得られない未来がある。
「大丈夫だよ、みんなと歩んでいく未来を私も諦めたくなんてないから。不思議だけど、私たちの未来の為だって思ったら、全然辛くならないんだ。むしろ力が湧き出てくるみたい」
これまでにはないくらいに私の胸は軽かった。今ならどこまでも頑張れる気がするのだ。
気の持ちようでここまで変わってくるのかと自分でも驚いてはいるが、決して強がりではない。
「でも心配してくれてありがとね」
この子たちの気遣いが嬉しくて、笑おうと思わなくても自然と笑顔になっていた。
その笑顔をみんなに向けると彼女たちも笑ってくれた。
――やっぱり愛おしい。胸の内からは無限にこの子たちへの愛おしさが溢れてくるのだ。
きっとこれが私の原動力になっている。
「……辛いときはちゃんとアンヤたちに言ってほしい」
「うん、そうするよ。……甘えさせてね?」
今までしっかりしようと自分を奮い立たせていた分、これを口にするのは少し気恥ずかしかった。
でも大丈夫だ。気恥ずかしくとも隠さずに打ち明けて、しっかりと甘えさせてもらおう。
「マスターのことはわたしたち全員で支えます。絶対です」
「もう……そう言ってくれるのはありがたいけど、コウカはいつも先走り過ぎだって。私からも支えさせてよ」
おっちょこちょいなコウカが頭を掻いて笑う。
「支えてください。わたしたちは全員で支え合って生きていきましょう、これからもずっと」
みんながみんなを支え合って生きていく。
共依存とも呼べるような関係性で、人によっては綺麗ではないものに映るかもしれない。でも私たちはこれでいい。
これが私たちの望んでいる家族の形だから。
「ね、みんな。早速のお願いなんだけど……」
私の顔は赤くなっていることだろう。でも勇気を振り絞って素直な気持ちをぶつけてみる。
「みんなに抱きしめてほしい……」
我慢しなくていいと分かると、甘えたがりな私が顔を出してしまう。思えば昔からこんな感じだったかもしれない。
でもみんなも悪いんだ。困った顔をしながらも受け入れてくれるから。
不安な気持ちがなくなったわけではないけど、きっと私たちの未来には希望が溢れている。
そんな輝かしい未来に想いを馳せれば、私はどこまでも羽ばたいていける。
――この子たちと一緒に。