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〜東雲遥斗side〜
休み時間の廊下はいつも騒々しい。
が、今日は一段とボリュームが大きいように感じる。
塾の宿題を進める手が動かないのは、周囲の騒音のせいにさせてもらおう。
(やばいな、今日提出なのに……。)
問題文が全く頭に入らない。
少し気持ちを切り替えようと席を立つと、急に視界が揺れた。
ぐわんぐわんと体が浮き沈みするような感覚に襲われ、歩くことすらままならない。
また、いつものめまいが来たみたいだった。
何とかロッカーにたどり着き、水筒を取り出して飲んでいると、体が水すら受け入れることを拒否していた。
(あ、これ……、吐くやつだ。)
トイレに向かって歩き出そうとするも、視界の揺れはますます激しくなっていく。
強い痛みと床の冷たさを感じて以降、ふっと意識が遠のいた。
気がつくと、ベッドの上に横たわっていた。
ゆっくりと体を起こし、めまいが落ち着いたらしいことを確認する。
横の机にメモ用紙が置いてあった。
『先生は出張なのでいないけど、体調が回復したらいつでも教室戻っていいからね。』
この丸っこい字は、保健室の望月先生だろう。
先生の字や喋り方などの癖は、全て把握しているのだ。
(これで倒れるの三回目か……。)
先生や同級生に迷惑をかけるのも申し訳ないが、一番心苦しいのは授業に出られないことで母さんが払ってくれている教育費を無駄にしていることだった。
早く教室に戻ろうとベッドから腰を上げると、誰かが入ってくる音がした。
慌ててカーテンの陰に身を隠すと、大きな声が響いてくる。
「せんせー、カッターで指切っちゃったんすけどー。」
一年生の色、赤のジャージを着た生徒だった。
「あれ、もっちーいねえじゃん。バンソーコーだけもらってくか。……あれ?」
こちらに人がいることに気づいたようだった。
「もち先っすかー?」
彼はカーテンをどけると、僕の姿を見て顔をしかめた。
「げ、東雲じゃん。」
「……。」
彼は同じクラスの九十九くんだった。
一軍グループの彼と僕はほとんど接点はないが、何となくよく思われていないことは察している。
今も、その感情を全面に押し出しているようだ。
「お前さあ、最近保健室来すぎじゃね?ガリ勉の学年委員くんは、実はサボり魔だったってか?」
「……ごめん。」
九十九くんは呆れたような顔を見せ、くるりと背を向けた。
見つけ出した絆創膏を自分の指に貼る間も、こちらと顔を合わせようとはしなかった。
用を済ませ、保健室を出ようとしたとき、彼は目を合わせないまま言った。
「勉強できる自分カッコイーって思ってるかもしんねえけど、お前なんか陰気臭えだけだからな。」
その声色は、クラスで誰かをイジるときの九十九くんの声とは全く違う冷たさを孕んでいた。
「お前が勉強できるのは、偶然でしかねえんだよ。」
一人になった僕は、その言葉を噛み砕くのに精一杯だった。
※キャラ紹介の章、更新しました。
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