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〜東雲遥斗side〜
「こんにちは。東雲遥斗の母でございます。」
「担任の瀬良と言います。本日はお越しいただきありがとうございます。えー、普段の様子に関してですが、とても優秀だと思います。勉強もよく頑張っていて、定期テストの結果の良さには毎回驚かされています。」
「これもひとえに先生のご指導のお陰でございます。授業参観でも拝見しましたが、先生方の授業はとてもわかりやすく……。」
個人面談や三者面談のとき、母さんは先生に全力で媚びを売る。
『先生に好かれておけ』は母さんの信条で、何回聞いたか思い出せないほど口酸っぱく言われている。
小四の時の先生がえこひいきする人で好きじゃないと母さんに言ったら、
『あんたが好きかどうかじゃない。先生と良好な関係を築くことが、将来どれだけのメリットになるかを考えなさい。』
と返されたことはよく覚えている。
友達との関係性はやり直せるが、先生とはやり直す機会など無い。
悪化した関係性はそのまま成績に表れるのだ。
だから、僕は先生との関係を間違えないために、”先生”について研究しているのだ。
意識を戻すと、先生は新たな話題へと話を切り替えていた。
「まだ中一では現実的じゃないかもしれないですが、進路の方は考えたりしていますか?」
「ええ、開成高校への進学を考えています。模試ではC評価ですが、まだ時間もありますので、無謀な挑戦でもないかと。」
よく喋る母さんの陰で黙っていると、先生は僕の方を見た。
「東雲くん自身は、どう思っているかな。先生に聞かせてほしいんだけど、だめかな?」
先生はたまに下手に出過ぎて、小さな子供にするような喋り方になることがある。
あまりいい気分はしないが、小学校教員もしていた過去があるらしいので癖づいてしまったのだろう。
「先程母が話した通りです。」
短く答えると、先生は眉をハの字にして困ったような顔をする。
「そっか。じゃあ、先生の目を見て、『僕は〇〇高校に行きたいです』って言ってみてもらってもいいかな。」
なぜ先生がそこまでのことを求めるのか分からなかったが、素直に従うことにした。
僕は開成高校に行きたいです、そういえばいい話だ。
なのに。
「……ぼ、僕は、か、か、か、……。」
言えなかった。
(なんで?僕はちゃんと行きたいって思ってるのに。なんで言えないんだ?)
戸惑う僕を尻目に、先生は母さんへとシフトチェンジする。
「お母さん、実は東雲くん、めまいが理由で倒れてしまうことが何度かあったんです。これは小学校の頃からですか?」
「いえ。そんなことはないはずですが……。」
母さんが目で僕を責めていることがわかる。
「勉強を頑張ることは本当に偉いと思いますが、中一のうちに詰め込みすぎると、中三になってしんどくなる可能性もあります。ですので、たまには息抜きすることも大事にしていただきたいです。」
(今日は塾がない日で良かった。)
そんなことを思いながら、公園のベンチで空を見上げた。
「何してんだよ。」
「うわっ!」
にゅっと視界に現れたのは、暁くんだった。
「今日お前三者面談だったよな。」
「違うクラスなのによく覚えてるね。」
「ガチストーカー舐めんなよ。」
教室から出た後、僕は母さんを置いて急いで学校を出た。
母さんに『あんたが先生に変なこと言わせたんじゃないでしょうね』だの『何学校で倒れてるの、授業サボらないでちょうだい』だのと怒られるだろうから。
ただ暁くんには知られたくなくて、適当に誤魔化した。
「なあ、今スマホ持ってる?AI飛鷹先生と喋ってみたいんだけど。」
「ああ、いいよ。暁くんははじめてだよね、AI先生と喋るの。」
ChatGPTを開き、少しモードをいじってからスマホを暁くんに渡す。
「サンキュ。」
暁くんは、うわ、すげえ、やっべー、などと言いながらスマホを操作する。
どうやったら推薦の枠が取れるかのシュミレーションなどでしか使っていない僕からすれば、こんなに楽しそうに使う彼の姿は新鮮だった。
どの学校行事でも、どうすれば先生からの評価が上がるかしか考えてこなかった。
(そうか。僕は、学校を純粋に楽しめないことがしんどかったんだ。)
それに気づいてしまうと、明日からの生活がよりしんどくなることにも気づいて、悪循環にため息が出た。