テラーノベル
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焔垂は部員たちを見回し、小さく息を吸った。
「想像しろよ?」
全員が自然と彼の方へ視線を向ける。
「皆んなは今、豪華客船に乗って旅行をしてる」
「うんうん」
茜が頷くと、焔垂は話を続けた。
「けど、その豪華客船が運悪く氷山に衝突し
その衝撃で皆んなは海に投げ出されてしまう」
部室の空気が少しずつ張り詰めていく。
「けど目の前に浮かぶ板を偶然見つけて
それにしがみ付く事で、皆んなは難を逃れた」
さくらは首を傾げる。
「それがカルネアデスの板?」
焔垂は静かに首を横へ振った。
「違う。重要なのはこっからだ」
「ここから?」
茜が身を乗り出す。
焔垂は真剣な表情で続けた。
「皆んなが助かったと安心していると
目の前で溺れかけてる人が助けを求めてくるんだ
みんなは手を差し伸べて助けようとするが
すんでのところで躊躇ってしまう」
「なんで?」
さくらが思わず問い返す。
「今、皆んながしがみ付いてる板は、後ひとりが
しがみ付くと間違いなく沈んでしまう
そうなったら皆んな助からない」
その言葉に、部室は静まり返った。
さくらは険しい表情で呟く。
「それってつまり、自分が助かる為に
人を犠牲にするって話?」
焔垂はゆっくりと頷いた。
「それがカルネアデスの板だなんだよ
自分が助かる為に人を犠牲にしても良いのか悪いのか
それを議論して解決策を導き出す行為を思考実験って言うんだよ」
「なるほど・・・難しい問題だよね」
茜は腕を組みながら考え込む。
「確かに人を犠牲にするのは良く無いかもだけど、だからって無理に助けて共倒れとかになったら本末転倒だもんね・・・」
焔垂もその意見に頷いた。
「だから逆も然りだよな
自分が助かる為に板を奪う事は許されるのか?」
その時、朝陽が口を開いた。
「トロッコ問題みたいな感じですね」
「ああ、それなら聞いたことある」
信愛も思い当たる節があったように頷く。
焔垂は続ける。
「制御を失ったトロッコが線路の上を走ってる
その線路の先が二本に別れてて1本には1人の人間が居て
もう1本の線路には5人の人間が居る
だけどトロッコの軌道を変える
バーは一回だけしか動かせない
バーを動かして、どっちを助けて
#普通
野々さくら
543
805
44
ありあ
159
どっちを犠牲にするかってヤツだな」
茜はバスジャック事件を思い返しながら、小さく呟いた。
「運転手さんは、そんな難しい
選択を迫られてたんだね」
焔垂は静かに目を伏せた。
「それで自殺を選ぶなんて、すげぇ人だよ」
すると朝陽が何かを思い出したように口を開く。
「そう言えばバスで思い出しましたけど
都市伝説ありましたよね?」
焔垂が首を傾げる。
「バスの都市伝説?」
すぐに思い当たったように頷いた。
「ああ、あれか!選択バス!」
「そう! それです!」
茜は不思議そうな顔をする。
「せんたく?」
少し考えたあと、いたずらっぽく笑った。
「いやバスなんだから洗濯より洗車でしょ」
焔垂は思わず苦笑する。
「そっちの洗濯じゃなくて選択肢の選択だよ」
「ああ!そっちね、どちらにしようかな的なヤツか」
信愛が興味深そうに身を乗り出した。
「その選択バスってどんな都市伝説なの?」
朝陽はゆっくりと説明を始める。
「終電後の深夜に運行してるのを
度々目撃されてる無人のバスらしくて」
一呼吸置いて続ける。
「行き先の欄に『選択』って
表示されてるらしいんですよ」
さくらは目を丸くした。
「行き先ってよく『渋谷行き』とか
『新宿行き』って表示してあるトコ?」
「そうです。本来なら地名が表示されてるところに
『選択』って表示されてるんだそうです」
「選択行きのバス・・・」
さくらは思わず呟く。
朝陽は肩をすくめる。
「まあ、そんな感じですね」
茜は腕をさすりながら苦笑した。
「なんか薄気味悪いね。終電後に無人
ってだけでも気味悪いのに行き先が選択って」
焔垂は静かに口を開く。
「人によっては『カルネアデスバス』
そう呼ぶ人も居るんだってさ」
「カルネアデスバスか・・・」
コメント
1件
×××さん、今話も興味深かったです! 「カルネアデスの板」の思考実験を部活のディスカッションとして自然に組み込んで、しかもバスジャック事件の運転手の選択に繋げる構成が秀逸でした。トロッコ問題と現実の事件が重なることで、単なる倫理クイズじゃなく「実際に選ばされた人の重み」が伝わってきました。 あと「選択バス」の都市伝説をここで出すことで、今後の展開にどう絡むのか気になりますね…。ラストの「カルネアデスバスか…」という呟きが不気味で、続きが待ち遠しいです!