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CASE 四郎
余命半年?
俺が?
爺さんがこんな嘘をつく訳がない。
「四郎、移植すれば助かる」
「臓器移植か」
「三郎と雪哉が名乗り出たんじゃが、アイツ等は喫煙者じゃろ?まず、健康な肺を持っとって若者の肺が必要じゃ。ドナーを探すのに時間がちと掛かる」
「どうにか12月25日までには、少し楽になりてーな」
爺さんの話を聞ながら、椿恭弥を殺す計画の事を考える。
自分の体のタイムリミット。
それから、モモと三郎の顔が頭に浮かぶ。
2人を残して死ぬのか、俺は。
アイツ等、俺がいなくなったらどうなんのかな。
いつ死んでもおかしくない世界に俺はいる。
人を殺す仕事はいつ誰かに自分自身が狙われ、殺され
ても仕方がない。
死んだとしても、この世に未練はなかった。
顔が浮かぶって事は、モモと三郎が俺の心残りになってるのか。
「お前さん、モモちゃんの血を飲む気はないのだろ?アルビノの血を飲めば、多少はマシにはなるが」
「飲まねーよ、痛み止めだけくれ。強い方の」
「出せる薬はオピオドだけじゃ。ただし、完全に痛みを取れる訳じゃない。気休めになる程度じゃ」
「2ヶ月、耐えれれば良い」
俺の言葉を聞いた爺さんは、渋い顔をしながら茶色の大きな鞄のチャックを開ける。
ガサガサッ。
布団の上に置かれた約2ヶ月分のオピオドと胃薬。
それからビタミン剤なども置かれた。
「2ヶ月分しか出さんぞ、オピオドは強い薬じゃ。今のお前さんの体じゃ、飲みすぎた場合…、死ぬぞ」
「俺が癌だと親切なんだな」
「お前さんの事をガキの頃から見てきたんじゃ。情が湧くのは当然じゃろ」
爺さんがこんな事を言うとは思わなかった。
その顔は真剣で、どこか悲しそうだった。
「モモちゃんと出会って、お前さんは丸くなったよ。殺し屋にとっては悪い変化じゃが、それを抜けば良い変化じゃよ」
「そうかよ」
「それじゃあ、わしは行くからな。何かあったら連絡せぇ」
「へいへい」
立ち上がった爺さんが襖を開けようとすると、先に開けたのは髪を纏め、黒のニット帽を被った三郎だった。
三郎の目元が真っ赤で腫れ上がっている。
泣き腫らしたての顔をした三郎は、俺を見て目を潤ませた。
「四郎…、起きてた。良かった」
「なんじゃ三郎。廊下にいたのかずっと」
「まぁ…」
「わしは雪哉と話があるから、部屋に入って良いぞ」
「うん」
爺さんは三郎と少し会話をして部屋を出て行く。
恐る恐る部屋に入ってきた三郎は、少し離れた場所に腰を下ろす。
「四郎っ、起きて大丈夫なの!!?」
慌てて部屋に入って来たモモが俺に抱き付いてくる。
いつもなら怒る三郎だが、今日は何も言わない。
「あぁ、爺さんに薬も貰ったから大丈夫だ」
「そっか…、良かった」
「三郎、遠くにいねーでこっちに来い」
そう言って、俺は三郎を手招きする。
「うん」
三郎はのそのそとゆっくり動き、俺の隣に座った。
「爺さんから話は聞いた。余命半年だってよ」
「ドナーが見つかったら四郎は助かるんだよね?志願したんだけど、喫煙者だからってダメだって言われた」
「そうじゃなくても、お前から貰わねーよ」
そう言った後、俺はモモの方を見ながら口を開く。
「最初に言っとくけど、お前の血も飲まねーからなモモ」
「そんな…っ。四郎、私の血を飲んだら、少しは良くなるんでしょ?お爺さんも言ってたじゃん」
「血を飲んだ所で、癌が治る訳じゃねーだろ」
「だけど、私は…、四郎が死ぬのは嫌だよ」
ポロポロと大粒の涙を流しながら、モモは呟いた。
「四郎、俺は四郎を失いたくないんだよ。俺達、いつも一緒に居たじゃん…っ。なんで?俺から貰わないの?」
「爺さんに余命を言われた時、べつに悲しくなかったんだよ。いつ死んでもおかしくない世界にいるからな」
「…」
「だけどさ、お前とモモの顔が浮かんだ」
「「え?」」
俺の言葉を聞いたモモと三郎の声が重なる。
「俺が死んだ後、お前等はどうなんのかとか。2人を残す事が気掛かりみてーだわ」
「四郎、私達の事を大事だって思ってくれてたの?」
「自分が一番驚いてんだよ。こんな事言うのも、俺らしくねぇ」
モモが頬を染めながら見てくるので、小っ恥ずかしくなってきた。
「玲斗(れいと)…」
「ん?玲斗…?って、四郎の名前?」
三郎の発した名前を聞いたモモは、驚いた顔をしながら俺に尋ねてくる。
そうか、俺の本名を知らなかったな。
「あー、言ってなかったな。四郎は殺し屋nameで、本名は東雲玲斗」
「しののめ…、れいと。玲斗って言うんだね、玲斗…」
「3人の時にしか本名は呼ぶなよ」
「なんで?」
「メンバーも知ってるが、俺達は殺し屋nameで呼び合ってんだよ。分かったか?」
俺の話を聞いたモモは黙って頷く。
「羽奏(うた)、それ以上泣くなよ。目が腫れっから」
「…無理だよ。俺には玲斗が必要なんだ。だって、玲斗は俺の大事な家族なんだ」
「羽奏が俺の事を大事に思ってんのは分かってる。だが、お前が傷付くような事はすんなって言ってんだ」
三郎がしようとしてる事は想像出来た。
コイツは昔から、俺が絡むと歯止めが効かなくなる。
メンバーや俺には何も言わずに姿を眩まし、傷だらけで帰ってくる。
自分の目をくり抜いて、Jewelry Pupil を入れ込んだり。
嘉助と行動していた事も。
俺がどれだけ口酸っぱく言っても、三郎は言う事を聞ない。
「玲斗が優しいのは昔のままだね」
「お前は昔から、俺の言う事を聞かないし」
「あはははっ。他のメンバーは怒らないのに、玲斗は殴りながら怒ってくるもん」
「おめーが無茶ばっかりするからだろ。痛みを感じ無いからって、自殺行為みたいな闘い方もするしよ」
「痛みがないのも不自由じゃないからね」
三郎がそう言った瞬間、スマホが振動する音が聞こえた。
ポケットからスマホを取り出した三郎だったが。
一瞬だけ表情が変わったのを俺は見逃さなかった。
コイツ、何がする気だ。
「”四郎”はゆっくり休んで、今は安静にしといた方が良い」
そう言って、羽奏は立ち上がり襖に手を掛ける。
「おい、羽奏!!」
「モモちゃん、四郎が休めるように見張っててね」
俺の言葉を無視しながら、三郎は部屋を出ていった。
あの野郎…、俺の言葉をちゃんと聞いてたのか?
「三郎、四郎が起きるまでずっと泣いてたよ」
「アイツの目を見りゃあ分かる」
「三郎が泣くイメージなかったから、びっくりした。
でも…、私よりも泣くから涙が引っ込んじゃたよ」
「お前等が部屋に来る前に、三郎は何してた」
「雪哉おじさんとお喋りしてた」
バッ!!
布団を剥ぎ取り、勢いよく立ち上がる。
幸いな事に今は、肺の痛みがない。
万が一の為、スマホを取り出し”奴”に連絡を入れた。
「四郎?どうしたの?」
「行くぞ」
ポケットにスマホをしまい、モモの方に視線を向ける。
「どこに行くの?」
「ボスの所だ」
モモの小さな手を掴み、俺は部屋を出た。
早歩きでボスの部屋の前まで行き、襖を叩かずに開ける。
ガラッ!!
まだスーツ姿のボスと伊織と数名の組員が、驚いた顔をして俺を見つめてきた。
「起きたのかっ、玲斗」
「組員の前で本名は呼ばないで下さい」
俺が言葉を発した瞬間、部屋に冷たい空気が流れる。
組員達は空気を読んだのか、物静かに部屋を出て行った。
「すまない玲斗、今の言動は軽率だった。体調はどうだ?少しは良いのか?立ってると辛いだろ、そこに座…」
「三郎に何か頼みましたか」
ボスの言葉を遮るように、俺は言葉を被せた。
「いつもの殺しの依頼だ」
「違いますよね、俺に関する依頼ですよね。何を言ったんですか」
「お前が気にするような事じゃない」
今ならボスの言葉に含まれた隠したい事実が分かる。
反応を見るからに、ボスはやはり三郎に何か頼んだ。
闇市場で肺を購入させに行ったか?
予想出来るのはそれぐらいだが…。
ボスに何を言っても口を割らない可能性がある。
だったら、アジトに戻って七海に連絡を取った方が早い。
「そうですか。なら、俺はアジトに戻ります」
「いや、お前はここにいてもらう」
「ここにいても仕方がないでしょ?」
「駄目だ。俺の目の届く所にいろ」
ボスは断固として、俺をここに居座られせたいらしい。
「おじさん、三郎に何を言ったの?」
「仕事を頼んだだけだよ。心配ない、三郎なら上手くやる」
“上手くやる”
今までの俺だったら、三郎の腕を信じているから出た言葉だと思えた。
だが、今は違う風に聞こえた。
三郎…いや、羽奏を都合の良い道具だと聞こえた。
本当に俺は変わっちまったんだ。
「おじさん、私に嘘を付かないって言ったよね?教えて」
「…、三郎は闇闘技に参加して貰った。優勝者に贈られる賞品、Jewelry Pupil翡翠(ヒスイ)を手に入れる為だ」
モモに言われボスは渋々、三郎に頼んだ事を話した。
Jewelry Pupil…。
三郎が動く理由は100%、俺が関わる事だ。
クラクラしてきた。
闇闘技と言えば、普通の格闘技とは違って武器の使用が可能だ。
相手を気絶させるのではなく、殺さないといけない。
金持ち共の道楽で今でも尚、開催されている。
俺達が生まれる数100年前は奴隷同士を殺し合せ、それを見て金持ち共は酒を浴びるように飲む。
金銭が飛び交うのは当たり前だ。
Jewelry Pupilが賞品なら、椿恭弥も来るんじゃねーか?
ズキッ。
小さなな頭痛がした後、脳裏に映像がフラッシュバッ
クした。
三郎が黒髪ショートの女とやり合うシーンだ。
ライトアップされた三郎の右肩から血が噴き出していた。
黒髪ショートの女…、黒猫ランドにいた糞女か。
三郎を連れ戻さねーと…。
「そうですか、用は済みましたので失礼します」
「玲斗」
「…、失礼します」
俺はボスの顔を見ずにモモの手を引き、部屋を後にした。
「四郎?何してるの?」
「良いか、モモ。少しの間、静かにしてろ」
「わ、分かった!!」
モモを静かにさせてから急足で部屋に向かい、オピオドと胃薬をポケットにしまう。
次に台所に向かい、中で金髪の男がジャガイモの皮を剥いていた。
「山田」
「あ、四郎の兄貴!!車、裏に止めときやした。これ、車の鍵っス!!」
「サンキュー、これ口止め料」
そう言って数万円を財布から取り出し、山田のズボンのポケットに入れる。
「いや、こんなに悪いっすよ!!」
「貰っとけ、良いな」
「う、うっス!!あざっス、四郎の兄貴!!」
山田の肩を軽く叩き、台所の裏口から外に出る。
「四郎、あのお兄さんと知り合い?」
「あぁ、兵頭会の組員でボスのいない時に、しつこく
付き纏ってきた男。俺の忠実な下僕だ」
「四郎って、男の人に好かれるよね」
「同性に好かれた方が都合が良い」
モモを抱き抱えながら、少し低めな外壁を飛び越える。
ヒョイッと地面に着地し、周囲を見渡しながら停めらている軽自動車に近付く。
渡された鍵を差し込み、車の鍵を開ける。
山田には時々だが、車を借りる事があった。
ボスに会いに行く前に連絡したら、ものの数秒で返信が来た。
タイミングがあって良かった。
軽自動車に乗り込み、エンジンを掛けながら七海に電話を掛ける。
「もしもし、四郎?どうしたの?」
「調べて欲しい場所があんだけど」
「あ、ちょっと待って」
ガタガタと物音が数秒続いた後、「お待たせ」と言葉が聞こえた。
音からして、車椅子で部屋に移動していたのだろう
「それで、調べて欲しい事って?」
「闇闘技がどこで開かれてるか教えてほしい。出来れば、スマホにマップも送ってくれると助かる」
「闇闘技?任務かなんか?」
「まぁ、そんな所だ」
七海はこれ以上、何も聞かずにキーボードを叩き始める。
電話をスピーカーに変え、兵頭会の本家から離れる為に車を動かした。
「場所分かったから、マップを送るね」
「相変わらず仕事が早くて助かる」
「そんな事ないって。あ、六郎から聞いたんだけど大丈夫なの?体調がかなり悪そうだったって」
「あぁ、大した事じゃないから気にすんな」
適当にあしらいながら、近くのコンビニで車を止める。
送られたマップを確認すると、横浜にある格闘技会場だった。
「そこの会場、10年前くらいに潰れてるだけどね?どこぞの金持ちが買い取ったんだよ。そこで、闇闘技が密かに行われてるみたい」
「場所だけ分かれば良い。また連絡する」
そう言って七海との通話を終わらせ、送られたマップをナビに設定する。
「私、三郎の気持ち分かるの四郎の事が大好きで、失いたくないって気持ち。どんな事をしてでも、四郎に生きていてほしいの」
「…」
「私と三郎は…、四郎が思ってる以上に好きなんだよ」
俺は黙ってモモの小さな手を握り、車を走らせた。
数分前ー
四郎とモモが部屋を出て行った後、兵頭雪哉は大きな溜め息を吐いた。
「伊織」
「はい、頭」
「玲斗を見張れ」
「分かりました」
岡崎伊織は兵頭雪哉に言われ、静かに部屋を出て行く。
テーブルに置かれた冷め切ったコーヒーを口に運び、
兵頭雪哉は引き出しから1枚の紙を取り出す。
「玲斗には悪いが、三郎には勝ってもらわないといけない。俺の息子の病を治すには、翡翠が必要だからだ」
取り出した紙に書かれていたのは、Jewelry Pupil翡翠の宝石言葉だった。
翡翠には古くから不老不死と言われ、若返りの効果や長寿この効果がある。
中でも南米の部族民は、翡翠に病気を治す力があると信じていたそう。
不老不死や長寿をもたらすとされた翡翠は不思議なパワーを持つ宝石として崇められる一方で、その強い力を恐れられていた可能性がある。
トントンッ!!
ガラッ!!
ノックした後、すぐに襖が開かれた。
慌てた様子の岡崎伊織を見た兵頭雪哉は、すぐに異変に気付く。
「いなくなったのか」
「はい…、モモちゃんもいません」
「チッ、あの馬鹿が!!おい、テメー等!!玲斗とモモちゃんを探せ!!」
「「わ、分かりやした!!」」
兵頭雪哉は廊下にいる組員達を怒鳴り付け、椅子に掛けたジャケットを手に取る。
「伊織、車を回せ」
苛ついた手付きで兵頭雪哉はスマホを操作し、通話を掛けた。
「お疲れ様です、ボ…」
「七海、四郎から連絡が来たか」
「えっ、は、はい」
「闇闘技の会場を聞いていきたろ、教えたか」
「教えましたけど…、任務だと思って…、すいません」
七海の事を聞いた兵頭雪哉は、眉間を押さえながら答える。
「いや、七海が悪い訳じゃない。連絡が来ただけでも、分かって良かった」
「何かありましたか…?四郎と」
「お前が気にする事じゃない。四郎から連絡来たら、教えてくれ」
「…、分かりました」
七海の返答を聞き、兵頭雪哉は通話を終わらせた。
「頭、車の用意が出来ました」
「伊織、横浜に向かえ。あの馬鹿、闇闘技の会場に乗り込む気だ」
「分かりました」
岡崎伊織と兵頭雪哉は、小走りで兵頭会本家を後にした。
CASE 三郎
タクシーの後部座席で揺られながら、鏡に映る自分自身を見つめていた。
細かく入ったシルバーカラーのメッシュ、左目が見えないようにセットされた前髪。
全体をウルフカットに整えたのは、昨日の事だ。
「お客さん、そろそろ目的地に着くよー。刀袋を持ってるけど、撮影かなんかかい?」
「まぁ、そんな所かな」
「へぇー、お兄さんイケメンだもんねぇ」
タクシーの運転手と適当な会話をしながら、ボスから持ち出された話を思い出していた。
***
昨日の昼、俺はボスに兵頭会の事務所に呼ばれていた。
「四郎を助ける為には医療の手を借りるよりも、Jewelry Pupiを手に入れた方が早い」
そう言って、ボスはテーブルの上に数枚の資料を置く。
資料を手に取り目を通して行くと、横浜で開催される闇闘技の詳細だった。
「ヨウに連絡したら、闇闘技の話を持ち掛けてきた。これが闇闘技に関する資料だ」
「優勝者に贈られる賞品がJewelry Pupilの翡翠…」
「お前に闇闘技に参加して、賞品を持って帰ってきてほしい」
「俺を選んだ理由は?」
俺は煙草を咥えながら、ボスの顔を見つめる。
目の前にいるボスが小さく見えた。
どうしてだろうって思ったけど、すぐに答えは見つかった。
「お前がメンバーの中で1番、腕が立つ。四郎…いや、玲斗の事を1番に愛しているだろう?」
ボスは変わった。
前のボスなら、俺にこんな事を言わなかった。
四郎を餌に仕事をさせるような真似もしなかった。
俺を使おうとしてるのは腹立つけど、理由が理由だ。
「開催日は明日ね、分かった。取ってくるよJewelry Pupil」
「…、頼む」
そう言って、ボスは俺に頭を下げた。
***
四郎と話してる時、嘉助からメールが届いてた。
どうやら、椿恭弥が木下穂乃果を送り込んだらしい。
賞品がJewelry Pupilだし、椿恭弥が見過ごす筈もない。
「あ、おじさん。ここで大丈夫」
「まだ目的地じゃないけど、大丈夫かい?」
「うん、大丈夫」
闇闘技会場の周辺に停めてもらい、料金を払ってタクシーを降りた。
タクシーに乗ってる時から、何人かの殺気を感じていた。
ドンッ。
歩道を歩いていると、足に何かぶつかった。
ジッと見つめると、ボックスウッドから男の足が出ている。
地面に血が付いてるし、会場入りする前に参加者を消してんのか。
何人かの足音が背後から聞こえていたし…。
俺を消すつもりで後を付けてきてんのか。
ポケットに忍ばせおいたナイフを手に取り、近くの公園に入る。
設置されている電柱の電気が切れている所為で、中は真っ暗だ。
木の影に隠れ、入ってきた男達の様子を伺う。
「チッ、どこ行きやがったんだ!?あの野郎…っ」
「こんな真っ暗じゃ、何も見えねー」
人数は4人か。
Jewelry Wordsの能力で、数分後に起きる未来が見えた。
小太りの男が最後まで死なないのか。
先に…、殺しておくか。
ドスドスと足音を立て先頭を歩く小太りの男が、俺が隠れている木の近くまでやってきた。
残りの男達は周りを見渡していて、小太りの男と別行動状態だ。
息を整え、ナイフを構える。
歩いてきた小太りの背後に周り、髪を乱暴に掴んだ後に喉元に刃を滑らす。
シュッ!!
「ヴッ!?」
喉元から血が大量に噴き出しているのに、男は倒れもしない。
そのまま背後から、心臓部分に何度もナイフを振り下ろす。
「ヴッ!!?ヴッ、ヴッ?!」
ドスドスドスドス!!
ビシャ、ビシャ、ビシャ!!
突き刺す度に血飛沫が上がり、ナイフを持つ手に血肉が付着した。
ドサッ!!
小太りの男は力尽き、その場に倒れ込む。
「何か、音がしなかったか?」
「こっちからしたような…」
ゾロゾロと歩き出した男達を見ながら、小太りの男が持っていたナイフを手に取る。
先頭を歩いていた男の頭目掛けて、ナイフを投げ飛ばす。
ブンッ!!
グサッ!!
ナイフが頭に刺さった音が聞こえた瞬間、俺は右側にいた男の顔に蹴りを入れる。
ゴキゴキゴキッ!!
骨の折れる鈍い音が静かな公園に響き渡る。
「お、おい!?どうし…、ぁぁぁぁぁあ!!」
「黙って死んどけ」
グサッ!!
俺は持っていたナイフを男の顎目掛けて突き刺す。
血を吐きながら口をパクパクさせた後、男は地面に倒れ込んだ。
ドサッ!!
「肩慣らしには丁度良かったな」
男の顎に突き刺さしたナイフと、頭に刺さったナイフを抜き取る。
ふと、男が着ていた黒のハイネックのジャケットが目に入った。
今着てる服…、血まみれなんだよなぁ。
せっかくだし、着替えて行こっと。
男からハイネックのジャケットを剥ぎ取り、血まみれになった服を脱ぎ捨てる。
ハイネックのジャケットの袖に手を通しながら、公園を後にした。
ここから闇闘技の会場は徒歩15分。
スマホを見ながら歩いていると、四郎からの着信が何
件かあった事に気付く。
四郎がここに向かって来ている事も、Jewelry Wordsの能力で見えていた。
ブー、ブー、ブー。
「…」
四郎からの着信を無視し、スマホをポケットに入れた。