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「ひとつ、お話してもよろしいでしょうか?」

「何だね、アイリス嬢。私に出来ることならば、なんなりと申せ」


婚約話で私に借りができたと思っている王はそう言った。あまりいいお話ではないから気が引けるけれど、これも必要経費と思って。


「王子と聖女メアリーの婚約は、オルトリング王国にとって必要なことでございます。ですが、すでに決まっている私の、マークス侯爵令嬢との婚約破棄は、少々聞こえがよろしくありません」


聖女と聞いて、あっさり婚約をなしとするのは、格好がつかない。王族とはいえ節操がないと思われかねない。


「……うむ」


王の表情に緊張が走る。引くと見せかけて無理難題が来るのでは、と身構えたのだ。


「そこで、ひとつ芝居を打とうと思います。私の振る舞いが、王子殿下との婚約者として望ましくないものに映りますように……」

「それは……!」

「婚約破棄もやむなし、と思われる行動を取ろうと思います。聖女であるメアリーを王子殿下が自然に迎えられるように」

「泥を被るというのか! アイリス嬢!?」


王が席を立った。

聖女へ鞍替えのために、一方的に婚約破棄を決めた王族、という風評が立たぬように、婚約していた令嬢に問題があった――そう思わせると私は提案したのだ。

王族の権威を守るため、自己犠牲に走る。……ように見えただろう。


「そうまでして……。何故、貴女はそこまでしようとする!?」

「私は、あなた様にお仕えする侯爵家の娘です。王国に忠義を尽くすのは当然のこと」

「アイリス嬢……」


王は目を伏せた。この人、悪い人じゃないのよね。

さて、あまりに私のことを聖人解釈されても困るので、ここらで裏で暗躍する悪役らしく振る舞うとしよう。


「形だけでも聖女を無体に扱い、私を悪に仕立てあげるのですが、婚約破棄まで持っていくとすれば、それなりの罪状が必要になります」


誰がどう見ても、コイツは悪いと認識されなくてはならない。半端な行動では、婚約破棄までする必要があったか?と言われかねない。


「ただやり過ぎて、死刑となるのはさすがに私も願い下げです。落としどころとしては、国外追放くらいでしょうか」

「国外追放……!」


王は目を回した。


「どこか辺境に追放でも、本当に国外へ追い出しても構いません。適当に名を変えて生きていきますので」

「そこまでする必要があるのか!?」

「ええ、婚約破棄も同然の行為をしたことにするのなら、下手に近くに置いておくと、周囲の反感に晒されます。最悪、近くにいれば聖女信者に命を狙われてしまいますわ」


侯爵令嬢の立場を捨てることになるだろうが、こちとら異世界転生知識とループ経験で、実家に頼らずともやっていけるようにできている。


「それで陛下に、私からひとつ我が儘をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「聞こう……」


ひどく疲れた表情で、王は頷いた。


「私が追放となったのちのマークス家について。罪はすべて私が被りますので、どうか実家には何の咎もありませんよう、お願いいたします。むしろマークス家が、今回の私の罪を暴いた、とでもしてプラスマイナスゼロにする感じで」

「……」

「陛下……?」


黙り込んでしまわれた王に、私もちょっと不安になる。さすがに虫がよすぎたか?


「全部自分が被り、実家への被害を最小限に留めようとする……。自己犠牲の極みだ。誰にも迷惑をかけずに、全て自ら考えて……」


王の目が潤んでいる。


「どうしたらそこまで忠義を尽くせるのか? 貴女は、自ら幸せになる道もあったのに、それを手放して、王家の面子も王国の未来も、家族の将来も見据えて、犠牲になるなど……」


確かにそこまですることはない、と人は言うだろう。

だが、これでかなり自己保身に走っているのだけれどね。ただ悪いことをすれば、婚約破棄は難しくないが、最悪死刑もあり得るし、実家にも大罪人の娘を出したということで一家もろとも道連れにしてしまう恐れもある。


私自身、死にたくないし、家族が不幸になるのも嫌だ。そしてこの世界の運命を知り、王子との婚約者であり続けることが将来の不安となることがわかっているのなら、それを回避するために身を引くのも保身である。

陛下、私は自分の都合で生きているのですよ!


「侯爵令嬢の身分も悪くないのですが――」


私は微笑してみせる。


「一介の冒険者となって外の世界を満喫するのも一興でございましょう」

「冒険者……?」


ポカンとしてしまう王陛下。


「アイリス嬢、悪いことは言わない。貴族の娘が魔物と戦う危険な職業など到底不可能だ。冒険者の現実は貴女が思っているほどよいものではない」

「私では実力が足らないとおっしゃる」


少々芝居がかる仕草で私は答えた。


「陛下がご心配なされるのも無理ありません。私だって貴族の娘が力仕事などできるか、と思うでしょう」


しかし現実として、女性の冒険者は存在するし、騎士にだって女性はいる。この学校でもペルラなどは、卒業すれば騎士となろう。


「よろしければ、学校の教官方でも同級生に聞いていただいても構いません。それでもなお、私の力が認められないのであれば、今年卒業のこの学校の生徒は、誰ひとり騎士になどなれませんわ」


「……ほう、大した自信だ」


王はそこでようやく笑みらしきものを浮かべた。


「後で聞いてみるとしよう」

「そうしてくださいませ。……ああ、それと陛下。ヴァイス王子に聖女の件と私の婚約破棄の件はお伝えしませんようにお願いいたします」

「……うむ、それは構わんが。よいのか? せめて婚約相手である王子に、真意を伝えなくて」

「王子殿下は正直な方ですから」


このことを知れば、きっと正義感丸出しで、誰も犠牲にならない方法とか言い出すに決まっている。王家の権威を守るために私が追放されるなど言語道断とか、本気で言いそうなのよね。

目先の不幸に気を取られて、未来を見ない。ひとりの幸せを守れずして、王国の未来など守れるか、などと言い出しそうで怖い。

いい人ではあるが、安直なヒューマニズムと自己満足で、国を傾けられても困るのだ。


「本当に、貴女が聖女であったなら……」


王は、つくづく残念がった。


「メアリーもいい子ですよ」


聖女だから結婚する、みたいな風にも見えるが、貴族社会での婚約や結婚などそんなものだ。

いつも当人には決められず、家族や周りが決めるものだ。幸い、ヴァイスもメアリーのことを気に入っているから、珍しく恋愛結婚できそうではあるのだけれど。

悪役令嬢に私はなる!

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