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気の置けない友人たちと久しぶりに過ごす時間は楽しくて、ずいぶんと長居してしまった。そろそろ帰らなければと身支度を始める。
「碧ちゃん、帰る?だったら俺も一緒にタクシーに乗って行くよ」
「え?清水さん的には、まだ早い時間ですよね?」
からかう私に清水は苦笑を見せる。
「実は昨日も飲み会だったんだ。だから、今日はこの辺でやめておこうと思ってさ」
「そうだったんですか。それならもっと早い時間に切り上げれば良かったのに」
「だって碧ちゃんの恋バナだよ?聞かないわけにはいかないでしょ」
聞かれるがままに話して置きながら、今になって照れ臭くなる。
「ま、からかうのはこれくらいにして、帰るとしようか。梨都子さん、ごちそうさまでした」
清水が梨都子に頭を下げるのを見て、私も慌ててそれに倣う。
「ごちそうさまでした」
「いえいえ、どういたしまして。碧ちゃん、何かあったらいつでも遠慮なく相談してね。それで、また恋バナ聞かせて。あ、それとね……」
梨都子は池上と顔を見合わせて、ためらいがちに言葉を続ける。
「彼氏ができてそっち優先なのは分かるんだけど、できればまた、前みたいに顔を見せてくれたら嬉しいな」
「もちろんです」
私は梨都子の言葉に大きく頷いた。
店を出て、私と清水はタクシー乗り場へと向かう。
平日の夜だからか、それとも単にツイていただけなのか、乗り場にたどり着く前にタクシーを拾うことができた。後部座席に腰を落ち着けた私たちは、各自行く先を告げる。タクシーはすぐに走り出した。
しばらくして、清水がためらいがちに口を開く。
「碧ちゃんの彼って、もしかしてヤキモキ焼きかなんか?」
その質問に私は目を瞬かせた。太田と付き合い始めて以降、特にそんなことを感じたことはなかった。
「普通だと思いますけど」
私の答えに清水は考え込むように腕を組む。
「ふぅん。さっき話を聞いてて思ったわけ。ずいぶんとマメっていうか、過保護っていうか」
「そうですか?」
「碧ちゃんが気にならないのなら、外野が口出しするようなことじゃないんだろうけど、なんだかねぇ……。俺の目には束縛気味に見えてしまってね。だって、友達との約束よりも自分を優先してほしいとか言うんだろ?それが理由で、ここ何か月か、リッコだけじゃなく、友達とも会ってなかったんだよね?。職場は彼と一緒なんだっけ?碧ちゃんが残業で遅くなる時は、帰りも待っていてくれるんだよな。連絡も毎日必ず、だっけ?すごいよなぁ。そんなにべったりで、息が詰まらないもん?人ごとながらちょっと心配」
「でも、付き合っていたら、こういうものじゃないんですか?」
「さて、どうだろな。価値観っていうの?そういうのは人それぞれ違うからな。ごめん、余計なこと言って悪かったね。今俺が言ったことは忘れてくれな。お、そろそろ碧ちゃんのアパートだな。……あれ?」
タクシーの進行方向に目を向けた清水が、怪訝な声を上げた。
「俺の気のせいじゃなければ、アパートの前に人が立っているように見えるんだけど。まさか不審者とかじゃないだろうな。こんな時間だぜ」
「えぇっ……」
私は眉をひそめて首を伸ばし、清水の視線を辿った。