テラーノベル
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「レイたんのお迎えは何時だ?」
夕方のメビウスタワービルの21階、神崎広告代理店オフィスは、残業している人はほとんどいない、今は真紀のデスクの横で宗一郎がハムスターの「ハム太郎」を手に乗せ、ひまわりの種を与えていた
それを見て、今や彼は子供と動物が好きな事をすっかり理解した真紀は微笑んだ
「8時です。それまでにここのバナー広告だけちょっと新しいものに差し替えたくて・・・」
真剣な目でパソコンに向き合い、ソースを書き込んでいる真紀をじっと見る・・・今や真紀と宗一郎の仲はジェニ達のオフィスではすっかりオープンに認知されていた、それも当然である、宗一郎があまりにも堂々として隠そうとしないのだから
「そのバナーも大事だけど、これから重要な案件に付き合ってもらいたいんだ」
「私がですか?」
真紀はキョトンとしている、当然だ、デザイナーの自分は裏方だ、電話で担当とやりとりすることはあっても、直接クライアントに会うことなどめったにない、なので今日の服装もラフなオフィス使用になっている
「私は、今日は訪問用のスーツではありませんよ?」
「そのままでいいよ」
不思議に思いながらも、片付けを済ませて宗一郎の後ろをついていく
「ここからすぐだからちょっと歩こう」
真紀は守衛の佐々木に別れの挨拶をした、佐々木は麗華にとチョコレートをくれた、宗一郎と真紀を見つめてニコニコしていた。夕暮れの歩道を彼に着いてしばらく歩くと、宗一郎は小洒落たファミリー向けのデザイナーズマンションの前で足を止めた
「ここに訪問する会社が入っているの?」
真紀は宗一郎に尋ねながら、マンションの横に隣接されている公園で遊んでいる子供を微笑んで見ていた
「それはちょっと違うかな」
宗一郎が片手でコントロールパネルに暗証番号を打つと正面玄関が開いた
「ここならレイたんの保育園も会社も近いかなと思ってね、鍵を預かって来た」
そう言うとひんやりとした大理石の玄関ロビーを宗一郎は歩いて行く
―え?どういうこと?レイたんの保育園が近い?―
真紀の心臓がドキドキして脚が震えていた、ファミリー向けのマンションだけあって、ここはエレベーターも廊下も広く設定してある素敵なマンションだった、真紀がずっと憧れていた角部屋の門付きの部屋の前に止まった
「ここが俺たちの家だ」
宗一郎が言い放った言葉に、あまりにも真紀は驚きすぎて、言葉が見つからなかった、そして宗一郎が先に背中を押して真紀を家に入らせた、真紀は驚いた顔でマンションの門を見渡すばかりだ
宗一郎がブレーカーのスイッチを入れると、全部の部屋に灯りが灯った広いリビングを見渡す、次に宗一郎に手を引かれ、キッチンに向かう
「わぁ・・・素敵・・・」
キッチンはIH式の三口コンロだ、ピカピカの食洗器もついている、真紀が夢にも見ていた光景だ、両手で口を押えて真紀はキッチンをキョロキョロ見渡すばかりだ、ここが自分の住処になあったらどんなに素晴らしいだろう、真紀が一言も発せず、呆気に取られていると、心配そうな顔の宗一郎が言った
「ここが気に入らないなら、他を探してもいい、まだ候補はいくつかあるんだからね」
「いえいえ!そうじゃなくて!!」
真紀は息を弾ませた、深呼吸をしてハァハァ言う、宗一郎が優しく背中をさすってくれる
「もちろん・・・とても素敵だわ、それに職場に歩いて行けるなんて・・・ただ、本当にびっくりしてしまって」
宗一郎は面食らっている真紀の表情を面白がって見ていた
「ちょっと順序が逆になってしまったけど、俺はこれからプロポーズするから、出来ればことわらないで欲しいな」
そう言うと、小さな黒い箱をポケットから取り出し、中に入っているダイヤの指輪を真紀の左薬指にはめた
―ああ・・・どうしよう―
宗一郎は身をかがめ泣いている失神しそうな真紀を抱き寄せた
「いろいろ考えたけど・・・こうすることが一番良いと思ったんだ、俺は君の良い旦那になるし、レイたんの良い父親になりたい、それに俺は出来るだけ沢山子供が欲しい」
そして二人の鼻がくっつくぐらい近くで話す
「母が死んで・・・この世に身寄りが一人もいないことに初めて気が付いた時、まるで世の中に見捨てられた気分だった」
宗一郎が手を伸ばし、真紀の涙を指でそっと掬った、彼の声は低くくぐもっていて囁きに近かった
「そこから・・・今まで仕事一本やりで来た、でも真紀とレイたんに出会って思ったんだ」
真紀の頬に流れる涙を優しく宗一郎が何度も親指で拭う
「新しい家族を作ることが自分にも出来るのではないかって・・・そうした方が天国の母も喜ぶんじゃないかって・・・」
真紀は喜びで胸が張り裂けそうだった
何とかして口を開こうとしたが、喉の奥がぎゅっと締まって何も言えない・・・なので、大きくうんうんと頷いた。左手薬指には宗一郎に貰ったダイヤが光っていた
「良かったよ、あの時資料室で、君達を見つけて・・・本当によかった」
「藤子さんに感謝しないとね・・・あそこを教えてくれたのは彼女なの」
二人はお互いを見つめあい、ニッコリ笑った
「牛乳石鹸をこの家のバスルームに置いてくれるかい?」
宗一郎は真紀の腰を自分に引き寄せ、唇を耳の後ろにキスをした、すると彼女の脈が速くなっているのに気づいて嬉しくなった
「箱買いするわ」
真紀は顔を輝かせて微笑んだ、鼻をすすり上ずった声でそっと囁いた
「ここで牛乳石鹸を家族で使いましょう」
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同時刻・・・自宅で猫2匹を従えて、YouTubeを見ながらエクササイズをやっていた、神崎広告代理店、課長でコピーライターの森本藤子がクシャンッとくしゃみを一つした
ズズッ・・・「誰か私の噂した?」
.:・.。. .。
nextgirl ―藤子―
.:・.
めあ
43
2,001
#ネタバレ注意
るあ
2,673
#イケメン
蒼乃 月
828
コメント
1件
「やっと来たか…!」って感じの第30話でした。第1話の牛乳石鹸がこういう形で回収されるとは思わず、じんわり来ました。真紀の驚きと感動がリアルで、読んでるこっちまで胸が熱くなりました。宗一郎の「俺たちの家だ」の一言に、これまでの全てが詰まってる感じがして、すごく良かったです。藤子さんのクシャミで締めるラストも、星キラリさんらしい温かさがあって好きです。次の話も楽しみにしてますね!