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唇が離れても現実味がなくて、まるで夢見心地だった。
息が重なるくらいの距離でお互い見つめ合う。
口付けを交わしたことが信じられなくて、自分の唇をそっと触った。
本当に今、勇斗とキスしたんだ。
じわじわとその実感が湧いてきたその瞬間だった。
廊下の奥の方から、コツ、コツと足音が近づいて来た。
その音で止まっていた時間が動き出したかのように、現実に引き戻される。
慌てて時間を確認すると、最終下校時刻はとっくに過ぎていた。
「どうしよう勇斗……もうこんな時間だ…。」
「やっば、これって残ってるのバレたら説教だよね?」
「多分……あーもう、どうしよ……」
焦りが込み上げてきて、上手く考えられない。すると、手をぎゅっと握りしめられた。
「仁人、バレる前に逃げよう。」
そう言って楽しそうに笑ったかと思えば、腕を強く引かれる。
驚くより前に、走り出していた。
手を繋がれたまま、校舎を駆け抜ける。
教室にも廊下にも、生徒は誰一人残っていなくて。静まり返った校内に、自分たちの足音だけが響いた。
角を曲がった、その時だった。
「おい!お前ら!」
背後から、先生の声が飛んできた。
びくっと肩が跳ね、反射的に振り返ってしまいそうになる。
でも、指が強く絡まれて、後ろを向くことができなかった。
「振り返らないで。」
どこか真剣で、でも楽しそうな勇斗の声。
「大丈夫だから、俺だけ見てて。」
そう言って、走りながら俺の方を見る。
ほんの一瞬だった。
窓から差し込んできた夕日が勇斗くんの横顔を照らしていて、
少し上がった口元と、吸い込まれそうな目に視線が離せなくなる。
その表情が、ずるいくらいかっこよくて。
心臓がどくん、と跳ねた。
───あ、だめだ。
好きすぎる。
足はちゃんと前に動いてるはずなのに、心だけが完全に持っていかれてる。
悪いことしてるはずなのに。
先生に追われているはずなのに。
今目の前にいる勇斗が、全部どうでもよくなるくらい眩しくて。
振り返ろうとしてたことなんて、忘れていた。
絡まれた指が熱いまま、校舎を抜ける。
昇降口を飛び出し、そのまま一直線に校門へ。
あと少し、と目を合わせて外へ飛び出した。
外に出て、ようやく足が止まる。
視線がぶつかって数秒。
次の瞬間、ふっと笑いが零れた。
まるでイタズラが成功した子供のように、お腹を抱えて笑いあった。
笑いが落ち着いても、指は解けないまま。
気が付けば二人の手は、恋人繋ぎになっていた。
「……帰ろっか。仁人の家まで送ってく。」
「え、悪いよ。別に家そんな近くないし。」
「いいの。彼氏なんだからこれくらいさせて。」
さらっと落とされた『彼氏』の一言に呼吸が止まる。
どう反応すればいいのか分からず固まっていると、勇斗は何事も無かったように歩き出した。
手の温もりを確かめながら、隣を歩く。
道中、こっそりと覗いた勇斗の横顔は相変わらず整っていて。
目も鼻筋も輪郭も、全てが完璧で。
本当にこんなにかっこいい人が自分の彼氏なのかと、信じられなかった。
嬉しさが溢れてくるのに、同じくらい申し訳ない気持ちもあった。
こんな事を永遠と考えていると、もう家の前まで来ていた。
勇斗が名残惜しそうに唇を開く。
「……着いたね。」
「うん…………。」
離れたくなくて、手を解けないままでいると、優しく頬を撫でられた。
そして、柔らかいキスがもう一度落とされた。
さっきよりも短くて、一秒もないくらいだったのに。
胸の奥が蕩けてしまう程、甘かった。
唇が離され、目を見つめられたまま。
「明日の朝、迎えに来るから待ってて。」
当たり前みたいな顔で言われて、思考が止まった。
そうだ。今日でこの関係は終わりじゃないんだ。
明日も、その先もずっと勇斗と俺は恋人なんだ。
その未来を想像した途端、頭で処理しきれなくなり、ぽかんとしたまま固まってしまった。
「…………ふっ、間抜け面。」
「いたっ。」
額を軽く小突かれて、指がそっと離される。
「じゃあね、明日寝坊すんなよ。」
そう言われて、玄関に向かうよう軽く背中を押される。
控えめに手を振り合って、そのまま家に入った。
扉が閉まり、外の気配が消える。
力が抜けて、その場に座り込んでしまった。
真っ赤になっているであろう顔を、両手で覆う。
「…………むり////」
小さく呟いて、足をばたつかせながら一人で悶える。
好きって言われて、彼氏になって、キスされて、明日も迎えに来るって。
幸せすぎて、どうにかなってしまいそうだ。
膝に顔を埋めたまま、暫くの間動けなかった。
かっこよすぎて、ずるい。
好きすぎて、逆に悔しい。
そんな矛盾した気持ちが、ぐるぐる回っていた。
ただ、明日が待ち遠しくてたまらない事だけが確かだった。
甘い余韻を抱えたまま、一人ベッドに潜り込んだ。
コメント
3件
ホンマに最高すぎ
ガーーー‼️‼️さすがに可愛い‼️更新ほんとにありがとうございます😭😭
最高すぎて禿げそう