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19時を少し回った頃
俺は重い足取りでようやく自宅のマンションに到着した。
今日も息つく暇もないほどの外来診療と心理検査に追われ
脳の芯にはじっとりとした疲労が張り付いている。
「ただいま……」
掠れた声で重い玄関のドアを開けた、まさにその刹那だった。
視界がいっぱいに染まるほどの勢いで、愛おしい恋人の姿が正面から飛び込んできた。
「りひとさん!おかえりなさ〜いっ!」
駆け寄ってきた純一は、俺がビジネスシューズを脱ぐのすら待ちきれないと言わんばかりに
俺の首元にその細い腕を勢いよく絡めて抱きついてきた。
「わっ、おっと…ちょっと純一、危ないよ?」
「えへへぇ……お疲れ様、りひとさんっ。待ってたんだよ」
腕の中で、純一のふわふわとした柔らかい髪の毛が目の前で健気に揺れる。
すんすんと、俺のスーツの襟元に鼻を押し付けて匂いを嗅いでいるのが、その小さな肩の動きで伝わってきた。
「ありがと、純一もお疲れ様。今日も良い子で待っててくれたんだね」
俺は愛車のキーをポケットに放り込み
彼の華奢な背中をゆっくりと抱き返してやりながら、そっと顔を近づけた。
純一の形の良い唇に、自分の唇を軽く重ねる。
その瞬間、純一の肩がぴくりと小さく跳ねるのが腕の中で分かった。
「ん、んっ……!むぅ…りひとさんっ……!」
「ん……?どうしたの、いつもならもっとおねだりしてくるのに」
「キスの前に!今日はね、たっくさんご飯作ったから!早く手を洗って、お洋服着替えてきて♪」
純一は俺の胸を軽く押し返すと、弾んだ声でそう言った。
瞬間、彼の背後にあるリビングの奥から
香ばしくも甘い、最高に美味しそうな料理の香りがふわりと鼻腔をくすぐった。
「そうなの? 確かに、肉の良い匂いが漂ってくるね……」
促されるままに靴を脱ぎ捨てて部屋に足を踏み入れると
ダイニングテーブルの上には、純一が一人で時間をかけて作ったであろう御馳走が
これでもかとずらりと並べられていた。
贅沢に肉汁を閉じ込めた大ぶりのハンバーグに
丁寧にジャガイモを潰したポテトサラダ
それに、透き通ったコンソメスープ。
どれもが素人目に見ても完璧な見た目をしてるだけでなく
部屋中に充満する食欲をそそる香りが、俺の空腹を激しく刺激した。
「純一、これ全部作ったの!? すごいじゃん、どれも本当に美味しそう……!」
「えへへ、りひとさんのために、ぼく頑張っちゃった!冷めないうちに、早く食べよ?」
俺は急いで洗面所で手を洗い、窮屈なスーツからスウェットへと着替えを済ませて
純一の待つリビングへと戻った。