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シュメール
126
#日記
QuartoMew
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野球部の朝倉翔太には、スポーツをやっている女子には凄く人気があって、スポーツをやっていない女子にも、結構人気があるという、モテモテ男子だ。 空手部であるアタシ、橘さやかとしては、朝倉君はいい男だとは思う。思うけど、恋愛感情は湧かない。
空手部の練習中に、朝倉君と会う事は結構ある。
お互いの練習がどうとか、大会がどうとか、競技は違うけどスポーツ選手同士として、話をして、競技に取り入れる事もある。
話した感じでは、誠実そうで真面目だし、スポーツマンだからスタイルも良い。
それで顔も良いんだから、それはモテるだろうなとは思う。
アタシも、朝倉の事は、スポーツ選手として好きだ。あくまで選手として。重ねて言うけど恋愛感情は無い。
だからこそ、最近朝倉君が恋愛にかまけてるのが気になる。
恋愛にうつつを抜かして、部活がおろそかになったりしたら、アタシは多分許せない。
朝倉と同じクラスの、佐伯佳奈って娘が情報屋を自称して、女の子の情報を渡してるとかなんとか、そんな噂を聞いた。
女の子の情報を渡すとか、場合によってはプライベートをバラす行為。正直、悪趣味だと思う。
そういう行為を止めるのは、相手が男の子なら番長、女の子ならアタシみたいな腕自慢の役目。
**********
バンッ! と机を叩かれ、肩がビクっと震える。
目の前に居るのは、攻略対象ヒロインの一人、橘さやかちゃんだ。髪はポニーテール、肌は少し日に焼けて小麦色の健康的美しさ。
キリリと吊り目の、いかにも勝ち気そうな、赤髪の女の子。
そのさやかちゃんが、教室に入ってくるなり私の前までやってきて、何も言わずに右手を机に叩きつけ、私のことをキッと睨んでいた。
少なくとも、情報を求めてやってきた訳ではない事は分かる。
というか、明らかに怒っている。その理由には、なんの心当たりも無いけど、間違いなく私、佐伯佳奈に怒っている。
「あなたが、佐伯佳奈さん?」
「左様ですが……な……なんの御用でしょうか………」
口調だけはなんとか、情報屋佐伯佳奈を保てたが、心に余裕は全く無い。
椅子の上で背を反らして、さやかちゃんから少しでも離れようとしながら返事をする。
「朝倉君に、女の子の情報を集めて教えてるって本当?」
「えっ、まあ……そうでございますが……」
普段の私なら『そりゃあ情報屋でございますから』なんて言って、営業トークを始めるのだけど、今のさやかちゃんにそれをやったら、顔面に鉄拳が飛んできそうな気がする。
「他人のプライベートを、漏らしたりしてないでしょうね」
「と……とんでもない………」
正直な所、プライベートな情報もステータスオープンのチートで知ってるけど、それを提供したことは無い。
まだしてない。してなくて良かった。
「私が伝えているのは、どのくらいの距離感が良いかとか、好きな食べ物は何かとか、そういう当たり障りの無い事だけです。それ以上の事は一切言っておりません」
さやかちゃんは、私の答えを聞きながら、探るような目つきで睨みつけてくる。
ああ、こんな時に限って、当事者の朝倉くんが居ない。朝倉くんが居れば、私の潔白(と言っていいのか分からないけど)を証明してくれるのに。でも、ギャルゲー主人公って、こういう場面には現れないよなぁ。
「今の話、本当? 嘘だったら承知しないわよ」
「勿論ですとも、こんな事で嘘をついて、橘さんに睨まれでもしたら、寝るにも寝られませんから」
さやかちゃんの威圧に怯えながら、なんとか答える。
実際、ヒロインちゃんとの関係に角が立つのは不味い。下手したら、朝倉くんがヒロインちゃんと不仲になるより不味い。
悪い噂が出回ったら、情報収集のためにチラ見するのも不可能になるかもしれない。
「分かったわ、今回は信じてあげる。だけどもし、嘘をついてたら、タダじゃおかないから」
「え……ええ、肝に銘じておきます」
さやかちゃんは、ようやく全身に滾らせていた怒気を収めてくれた。けど、その上半身は、更にずずずいっと前に乗り出して、顔と顔との距離が近づく。
「最後に一つ聞くわ。アタシの事、何か朝倉君に言った?」
言った。なんなら最初に言ったのが、さやかちゃんだった。空手部の橘さやかさんは、朝倉くんに好感を持っているって。押したら多分イケるって。
ストレートに言ったら、鉄拳制裁が飛んで来かねない。でも嘘は言えないから、フワっとぼかして伝えて、ここは凌ぐしかない。
「あ……ハイ、好意的ではあるだろう的な事は、言いました」
「それだけ?」
「それだけです。特に情報をくれと言われませんでしたので」
これは、まあ本当だ。さやかちゃんの情報が欲しいと、直接言われた事は一度も無い。
言われてなくて、正直助かった。
この性格なのにカワイイ物好きで、それを隠して生きてる事を暴露してたら、私は今頃どうなっていた事やら。
「朝倉君が、最近アタシと話す時楽しそうなのは、それが原因?」
「朝倉くんの内心は分かりませんので、流石にそこまでは………」
私が返すと、さやかちゃんは突き出していた上半身を戻して、少し考える仕草をした後、ほんのり笑った……ように見えた。
「それもそうね。急に押しかけて悪かったわ、それじゃ」
「は……はい、それでは………」
なんだか、何もかもを薙ぎ倒す、爆速のブルドーザーみたいな人だった。
怒らせないように、気をつけよう。
さやかちゃんの好感度数値が、微妙に上がってた事は、朝倉くんにも伝えない方がいい気がする。
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