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シュメール
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#日記
QuartoMew
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「佐伯さん、どうしたの? わたしのお弁当、そんなに変かな?」 ある日昼休み、前に約束していた通り、このみちゃんと私は一緒に食事をしていた。
場所は屋上。現実の学校では、安全上の理由から入れない事が多いけど、ギャルゲー世界なので、当然のように出入り自由。お弁当を食べるのも自由。
そんな中、陽光に照らされたこのみちゃんのお弁当は、実に色鮮やかで、思わず見とれてしまった。
レタスの緑、卵焼きの黄色、ウインナーとトマトの赤。
茶色い惣菜が詰まった我が弁当と比べると、色彩で溢れている。
「小鳥遊さんのお弁当、とても丁寧で栄養バランスが良さそうだなと、羨ましくなりまして」
「えへへ、ありがとう。毎日自分で作ってるから、いつも同じような感じになっちゃうんだけど、栄養とか彩りには気を使ってるんだ」
「ほう、自分で。料理上手とは、これまた羨ましいです」
うーむ、流石ヒロイン。手料理の一つくらい、出来て当然という事か。いや、ステータスには人並みって書いてあったな、つまり、私が特に出来ないって事?
他人のステータスで、己のブキッチョを突きつけられる。情報屋も辛いよ。
「わたしは、佐伯さんのお弁当がとっても美味しそうで、羨ましいな」
このみちゃんが、私のお弁当箱を見ながら、目を輝かせて言う。
企業が美味いの最大公約数を目指して作った惣菜達だから、確かに美味しそうではあるだろうけど、ほぼほぼ出来合いの惣菜を詰めただけのお弁当に、そこまで目を輝かせる事は無いと思うのだけど。
「出来合いの惣菜ばかりですけど、よろしければ一ついかがですか?」
「本当!? じゃあ、わたしの玉子焼きと交換しよう」
このみちゃんは、自分のお弁当から、キレイで黄色い玉子焼きを箸で摘んで、私の弁当箱の空いたスペースに乗せてくれる。
私も、お返しとして黒酢餡の肉団子を、このみちゃんのお弁当に移した。
うーむ、青春だ。
というかコレ、朝倉くんにこそ起こるべきイベントだと思うんだけど。まあいいや、役得役得。
そんな、自分に起こっていいのか分からない青春をしていると、不意に屋上のドアが開いた。
「ん?」
「え?」
そこに居たのは、この前ド詰めをしてきた、陸上部の橘さやかちゃん。
また、苦情を言いに来た? いや、手にお弁当を包んだ風呂敷を下げているから、彼女もお昼を食べに来ただけか。
だけど、さやかちゃんは私に厳しい。今も、最近朝倉くんと仲良くなったこのみちゃんと、私が一緒に居る事に、何か訝しい物を感じたらしい。そういう顔をしてる。
「あなたたち……、仲いいの?」
「はい、この前友達になったんです」
私が答えるより先に、というか食い気味に、このみちゃんが元気よく答えた。
このみちゃんは、さやかちゃんが私に迫った事は知らないから、全くの無警戒である。
しかし、これからどうしたものか。
この場において、異物は明らかに私だから退散したいのだけど、このみちゃんを置いていく訳にもいかないし、連れていくのもおかしい。
まあ、それを言い出したら、私はこの世界に居ないはずの、情報屋という異物ではあるのだけど。そういう話は一旦置いといて。
「ふーん……」
間を取らないでほしい。今から何が起こるのか、早く教えてくれ。いっそ、一思いに叩き斬ってもらう方が楽だ。
「悪いけど、アタシも一緒に良い?」
えっ? 今、なんと?
「はいっ、もちろんです! ね、佐伯さんもいいよね?」
「は……はい」
勢いで承諾しちゃったけど、いいよね、ではない。というか、さやかちゃんはなにゆえ、お昼を一緒になどと。
このみちゃんが、対面で座っていたのをズラして、三角座で座れるようにする。
さやかちゃんは、空いた空間に、きれいな所作で正座する。
下コンクリートなんだけど、痛くないのかな? 空手家だから、痛みに強いとかあるのかな。
「改めて、アタシは橘さやか、空手部。佐伯さんとはこの前話したけど、小鳥遊さんとは初めまして、だよね」
「そうです、初めまして。文芸部の小鳥遊このみです。でも、橘さんの事は知ってます、女の子に絡んでる不良が居たら、みんなやっつけちゃうんだって、助けられた子が感謝してました」
「ふふっ、助けた甲斐が有ったね」
さやかちゃんは優しく笑って、おしとやかと言えるレベルで答えた。
この前の、ブルドーザーみたいなさやかちゃんとは、ずいぶんな違いである。
本質的には、いい娘なんだろうな。
真っすぐで、でも真っすぐすぎて男塾名物直進行軍を始めちゃうだけで。
「不躾で悪いけど、二人はどうやって知り合ったの」
質問の仕方も、めちゃくちゃ真っすぐだ。
嘘がつけない、というかつかないタイプ。ステータス見ただけじゃ分からない事もあるなぁ、人の事だし、当たり前なんだけど。
「佐伯さんとは、えっと……、わたしが朝倉くんとお話したいって思ってたのを察してくれて、繋いでくれたんです。おかげで朝倉くんと仲良くなれて、佐伯さんも凄く優しくて、それでお友達になってくれました」
このみちゃんが説明してくれて、正直助かる。
私が説明したら、怪しいと疑われたかもしれない。正直、我ながら私は怪しい。
「ふーん……、佐伯さんはなんのために、朝倉君と小鳥遊さんを繋いだの?」
まあ、そりゃ気になるよね。理由が分からないのは不気味だもの。
とはいえ、悪い事をしたわけでもないから、いつも通りに言えばいいか。
「思春期の若人たるもの、みんな恋愛に興味があるものです。ただし私の場合は、他人様の恋愛に興味があって、それを成就させて悦に浸るタイプなのでございます」
「ちょっと佐伯さん、恋愛だなんて……」
私が説明すると、さやかちゃんが反応する前に、このみちゃんが頬を赤らめて恥恥じらう。
あそっか、まだ恋愛関係ではないのか。数値的には、将来を誓い合ってても不思議じゃないけど。
「おっと、これは失礼。ともかく、小鳥遊さんは朝倉くんとお喋り出来て嬉しい。朝倉くんはモテて嬉しい。私は、幸せそうな姿を見て嬉しいとまあ、三方良しになります。そんな所ですかね」
さやかちゃんは、私が言い終わると、腕を組みながら顔を俯けて、なにかを考えている様子だ。
いきなり喋りすぎたかな? まさか、また怒ってる訳じゃないよね?
心配になりつつ、さやかちゃんの顔を見ると、とりあえず怒ったり、イライラしてるような顔ではない。むしろ、どちらかと言うと……
「アタシにも、朝倉君を紹介してもらう事って、出来る?」
思っていたのと違う方向からボールが飛んできたので、思わず目をぱちくりと瞬かせた。
さやかちゃんは、朝倉くんに恋愛感情を持ってないはず。数値的に、そこまで行ってない事は見れば分かる。なのに、なんで急に?
「出来るか出来ないかで言われたら、出来ますが、どうして私に? 橘さんと朝倉くんは、元々お知り合いでは………」
部活中、会えば普通に話す仲だし、お互い顔と名前を知っている。
一方的に想いを募らせてた、このみちゃんとは事情が違う。お喋りがしたいなら、自分で行けば済むような。
「朝倉君とは確かに知り合いだけど、それでも頼みたいの。佐伯さんから、朝倉君に話してほしい」
さやかちゃんは、真っすぐに私を見る。怒っている時のような目つきの鋭さは鳴りを潛め、期待と緊張の入り混じったような目をしている。
「え……ええ、かしこまりました。話を通しておきましょう、でも、どうしてわざわざ私から?」
「佐伯さんから話を通してもらったら、もっと仲良くなれる気がするの。お願い」
あ!今好感度上がった!私は見たぞ! 32%が33%になる瞬間を!
これは、このギャルゲー世界的に考えて、これから恋心が生まれようとしている所なのでは。
だとしたら、恋敵にもなりえるこのみちゃんの前でそれを言い出すのは、思った以上に豪胆だ。
けど、このみちゃんは推しの朝倉くんが褒められたと認識したみたいで、嬉しそうに笑顔を浮かべている。ついでに好感度数値もアップした。
この娘、無敵すぎるし危うすぎる。どうか、このみちゃんが詐欺に引っ掛かりませんように。この世界に、詐欺師が居るのか知らないけど。
私が脳内に与太を巡らせている間も、さやかちゃんは真っ直ぐな瞳でこちらを見続けている。
これを断るのは、正直気が引ける。
私のポジションとしては、主人公朝倉翔太のための情報屋だから、ヒロインちゃんの頼みも聞く必要は無いはずなのだけど、そんな真っ直ぐな目でみつめられたら………ねえ?
「分かりました、朝倉くんには、私から話を通しておきます。集合場所は、屋上でよろしいでしょうか?」
「うん、それでいい。ありがとう」
さやかちゃんは、大げさには表現しないけど、嬉しそうにしている。満面の笑みまではいかないけど、口元はだいぶ緩んでいて、頬が少し赤くなっている。
こうして見ると、女の子らしくて可愛い。
さやかちゃんって、こういう一面もあるんだなぁ、体育会系っぽい威圧感で誤解してたけど、こんな表情もできるんだ。
さて、さやかちゃんが恋する乙女(予備軍)の顔をしてる事を、このみちゃんはどう思ってるのかな。
私がこのみちゃんだったら、正直面白くない状況だよなぁと横目で見ると、更に好感度が上乗せされた彼女が居た。