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第四章 万寿菊




































































































青城烈 霜降


















































通話ボタンを押した。


「もしもし。」


声が震えた。


「もしもし。」


いつも通りの声で小さく胸を撫で下ろした。


「今日は満月が綺麗だね。」


「満月?」


「うん。烈の瞳の先にある。」


まっすぐ空を見つめると確かに円形型の満月が見えた。


住む場所は違うのに、見ているものが一緒なのは何かを共有しているようだった。


月には迷信通りに兎が住んでいるのかな、あそこの裏側には何があるんだろうと幼いながら清羅と話していたのを思い出す。


俺もあそこに飛び込んでしまいたい。


「木星も見える。」


「木星なんて無いけど。」


「よく見てみて。小さいけどあるよ。」


目を凝らしてよく見る。


宵の南の空高い場所に位置し、連なる星屑の中で一際燦めくパールのような星。


──木星。


手を伸ばせばすぐに掴むことのできそうな…


でも未来永劫届くことが無さそうに感じるのが、また寂しくさせる。


あれは清羅のようだった。


「清羅みたいだな。」


「えっ、なんで?」


「綺麗だから。」


心にぽっかりと穴が空いたようだ。


文字の空白は在り、言葉の羅列はそこには存在しない。


十月下旬の肌寒くさせる風も相まって、頬が赤に染まるのが浮き出てしまう。


はぁーと息を吐き出してスマホを強く握った。


「….ありがとう。」


焦ったく呟いた。


「なぁ、清羅、学校でいじめられてるだろ。」


「….なんで分かったの?」


いつものように否定する気は無かったようだ。


「前持ってきたノート、まだ落書きされてたページがあった。」


「そっか…」


清羅の声が震えた。


あのページには調子乗るな、死ねよなど理不尽な暴言が殴り書きされていた。


あれほどの暴言を見た時、背筋が固く凍ってしまいそうだった。


「辛いんだろ。学校。」


「もう慣れたから。あまり心配しないで。」


「お前がそう言ってても俺は ──。」


「いいの、気にしないで。」


心細い声がどんな声よりも叫喚に聞こえてしまうというのに何故俺に助けを乞わないのだろう。


俺がそんなに頼りなく見えるのか。


一気にプライドがジェットコースターのように浮き沈みする。


力が抜けていく身体を支えられなかった。


「俺はそんなに頼りないか。」


「そんなことないじゃない。私にとって幼馴染は貴方だけなのに。」


ほらと的を得た。


「たかが幼馴染だろ….」


──たかが。


その一言で俺は失意のどん底に立っているのに。


「俺をもっと信用しろよ。それで他の男のことなんて考えないように….」


「違う、こんなこと言いたいんじゃなくて….」


口下手が余計に腹立つ。


「違う、違うんだよ、….」


ズルッとベッドから身体が抜け落ちるように頭から落ちた。


ドンッと大きな音が個室に響く。


──ゴホッ


「烈?どうしたの?」


──ピーッ


うるさくて忌々しいその声を誰か塞いでくれ。


ボタンに手を伸ばしたままペンダントを握る。


ガラッとドアが開き、誰かが俺を持ち上げた。


「青城さん、これからです。」


これから…?


あぁ、そうだ。


俺、清羅みたく血を吐いて倒れたんだっけ…。





目が覚めると横に母がいた。


哀れみと憎悪の目で、こちらを見つめるのがまた心臓を痛くさせる。


「お久しぶりですね、烈。」


「….出ていってください。」


今すぐ悪縁を断ち切りたい。


「貴方はいつもそうやって母を嫌っていましたね。ですが少しだけお話をしましょう。」


怒りが沸々と湧き上がる。


「する必要性は全く無いと思いますが。」


「最後にけじめをつけさせてください。」


「貴方は俺を放置していたのに今更何を言いたいのですか?あの人から虐待されていた時に、助けてくれなかったのに。」


父から暴力を振るわれていても見て見ぬふりで雑誌やら小説やらを読んでいた。


どんな心理があろうと俺にとってはただの第三者として過ぎないものに変わっていった。


鈍色の絵の具で心が汚された時も、俺があの人に監禁されていたのも、優作だけを溺愛していたのも、救いようが無い。


この人が俺を庇ってさえすれば、優作と同様に愛してくれていたら、優しく愛おしい目で見つめてくれていたら。


全てが変わっていたかもしれないのに。


「いいですか、烈。あれは虐待ではなく、ただの罰です。問題を間違えた子にはそれ相応の罰が必要でしょう?」


鬱憤が段々と冷めていく。


もう呆れてしまう。


この人の理論は一般論のことのように語って、正当化したがる。


そこが教育者として誤っている。


握る手を弱めた。


「優作が間違えた時は、庇っていましたよね。」


「優作は….貴方と違って後継者ではないから….」


後継者とは都合の良い言葉だなと思う。


もし、俺が次男として生まれていたら優作だけが冷遇されていたのかもしれない。


「子供に後継者と名付ける時点で貴方の考えは間違っています。俺の人生に貴方はもう必要無い。」


そう言った瞬間、悪魔が憑依したように俺ヘと掴みかかってきた。


「何故母にそのようなことを言うのですか!貴方は高待遇を受けているに等しいというのに!」


頭に声が響く。


ガラスの破片が飛び散るように頭の毛細血管が、ぷつんぷつんと千切れそうだ。


俺の肩を揺らしながら様々な罵倒、罵詈雑言、咆哮を口に出す。


病人にこんなことを言うとは本当に頭がおかしくなってしまっている。


やはり母には思えない。


目の前の人物は母を装った怪物だ。


「母、母って母親として愛情をくれたことは無いではないですか。俺に愛情を教えてくれたのは清羅だけです。」


「あぁ、あの小娘のことですね。ずっと邪魔だと思っていたんです。貴方が大切に思っているから私も丁重に扱っていましたが…..その選択は誤っていたようです。」


清羅の母親に対して臆病になっていたこの人が清羅に対してそこまで憎しみを抱いているのは知らなかった。


だがその気持ちを知らない清羅の想いを無下にするのは許せなかった。


「そう思うなら二度と俺と清羅には関わらないでください。」


「私達は親子なのですよ。関わらないなんておかしいです。」


俺の中で何かが切れた。


赤い線が青い線ヘと変わっていくように俺とこの人の関係も変わる。


でもそれ相応の覚悟を待つしか無い。


言うんだと自分に何回も言い聞かせた。


「もううんざりなんだよ!」


「えっ….?」


「虐待しているのはあんたも一緒だろ。あのクズ野郎とそれに同調するお前がこの世で一番嫌いだ。俺と同じように落ちぶれてしまえばいいんだよ。まぁ、優作は庇ってくれるかもしれないけどな。」


「れ、れつ….なんてこと……」


この人は口元を手で覆った。


やっと楽になれた。


煙草を吸った時みたいにストレスが煙と一緒に吸い出されているような感覚。


罪悪感なんてものは一切なくて、輪郭をつくる優越感しか残っていない。


俺の手元には清羅と煙草しか残っておらず、今まで在った両親はドブへと捨てられた。


拾い上げることすらが億劫に感じてくる。


これが下にいる貴方たちに分かるだろうか。


もう横になりたい。


身体を起こすことすら怠くて、言い争いをすることも面倒臭い。


全部消えて消えて清羅と煙草のみが残ればいい。


「いい加減出ていってくれませんか。俺と貴方にとって時間の無駄でしょう。」


「私は絶対に出ていきませんよ!烈、もう一度あの人を説得してください。そうしたら私もまたあのマンションに住めます。」


大きな溜め息をついた。


どうせ戻ったところで奥様方に後ろ指を指されて俺と清羅のように復元不可能なところまでいってしまう。


説得しようと思えば幾らでもできるが、そうすることの時間がとても無駄だ。


「別居しているのにそれをするのはどうかと思いますが。」


小さく口元を緩ませた。


馬鹿にされたと思い込んでいるのか余計に憤っているのが分かる。


「烈だってあのマンションに住みたいでしょう?!あれは日本一の高級マンションなんだから高層階に住むだけで名誉なのよ!」


まるで気品のかけらも無い。


口調も態度も表情も崩れている。


「俺が欲しかったのは豪華な装飾品や名誉でも権力でもなく愛です。それをくれなかったのは貴方たちでしょう。」


「愛なら充分与えているじゃないですか!お金だって、本だって、家庭教師もやっているのに。貴方は贅沢すぎですよ!」


「贅沢?」


この人の愛とは何かを過信しているようだ。


「それは愛ではないですよ。勘違いなさっているようですね。愛とは誰かに寄り添ってあげることです。」


「そんなこと….」


「寄り添ってすらいませんよね。俺はずっと貴方を母親だと思っていましたが、間違いでした。貴方は俺にとってただの悪魔です。早く出ていってください。不快なので。」


強く睨みつけた。


この人には何の感情も感じられなかった。


「嫌です!烈!」


俺を抱き締め、涙を流した。


それに抗うように手で思いっきり離して、突き飛ばすとこの人は床に尻もちをついた。


実物だった。


俺が長年苦闘していたものは、ここまで脆い存在だったのかと後悔を感じる。


馬鹿馬鹿しい。


「疲れたんです。お帰りください。今後、最低限のこと以外は俺と関わらないでください。」


「い、いやです、烈。」


鼻水を垂らしながら俺ヘと土下座をしてごめんなさいと謝罪をした。


もう今更だろう。


それは本人が一番分かっていた。


横に首を振ると、怖気付いたようによろめきながら病室から出て行った。


後から来た担当の看護師も何かあったのかと心配している。


──悲劇のヒロインぶりやがって。


昔から変わらないあの人の自嘲的な癖は今も健在らしい。


それも含めて悪魔だと名付けるのは相応しい気がする。


こういう時に清羅が居てくれればと空を見上げた。


担当の看護師が出した昼食を頬張りながらまた清羅を思い浮かべた。




































































































柏柳清羅 霜降


















































虐めによってローファーが痛み、また買い直さなければならないと頭を悩ませた。


母や父に虐めを告発しようとしたが、そうなれば世間から虐められる可哀想な子と哀れみを持たれるかもしれない。


不幸を自嘲するような馬鹿馬鹿しい行いはしないけれど心の中だけで留めておくことしかできなかった。


どうすればバレずに買い直すことができるだろう。


そう考えていると前からくる影が私のところでぴたりと止まった。


「清羅ちゃん一人なの?」


顔を上げると近所に住む吉川のおばさんが怪訝な顔でこちらを見つめていた。


いつも通りブランド品を身に纏い、少々派手な化粧で老けを誤魔化している。


「そうです。」


「いつも烈くんと帰っているのに今日は一人なの?」


「烈は入院してますから。」


「あら、そうなの?全然情報来なかったけれど。」


おばさんは母も参加する月一の夫人会に参加している。


そこで様々な情報を共有するのだが、母は話題に出さなかったようだ。


あり得ない失態をしてしまったと思った。


これをおばさんが母に問いかけたら、私が咎められてしまう。


誤魔化そう、誤魔化そう…


「忘れていたんだと思います。母はご存知の通り、多忙なので。」


「確かに未知子さんもご自身で忘れっぽいと仰っていたわね。やっぱり恋は人を変えてしまうのね。学さんですっけ?その方が未知子さんを変えたと言っても過言ではないし。….こんな話、貴方の前ではしてはいけなかったかしら。」


口元を緩ませながら嘲笑する。


おばさんは私には友好的であっても、母には友好的ではなかった。


母を墜落させようと思えば、私の前でネタのように扱う。


それぐらい話題に出すのは平気でしょうと言わんばかりに扇子を広げて口を隠した。


「….それは私はどう答えればよろしいのでしょう。」


わざと口角をあげた。


「そんなに怒らないでちょうだい。世間話として話題に出そうと思っただけよ。」


「おばさん、お心遣いは嬉しいのですがどうにも母を世間話として話すのは慣れないのです。あまり出さないでいただけると嬉しいですわ。」


冷や汗が止まらない。


一歩間違えればまた母の処罰が待っている。


「清羅ちゃんがそんなに仰るならわたくしもやめるわね。ごめんなさいね。」


「いえ、全然大丈夫です。」


やめるという言葉に初めて安堵した。


おばさんは視線を下に落とした。


「あら、清羅ちゃんのローファー、どうかしたの?」


「….」


私は口を閉じた。


虐めだと認識されないためには、どうしたらいいか切羽詰まっていた。


自分が傷つけたとも矛盾が生じてしまい、誰かに頼んだとも不自然が出る。


口篭る時間が増えれば増えるほど、違和感が表情に出てしまう。


脳裏を巡らせた。


「まさか、虐めだったりしないわよね。」


気色悪いという目で私を見下ろす。


「おばさんが想像しているようなことではないのでご安心してください。使い続けてるうちにこんなふうになってしまったみたいです。」


「そ、それでこんなに痛むはずがない ──」


「十億でいかがですか。」


声のボリュームを下げた。


鞄の中から財布を取り、札束を出す。


桁違いの額に目を密かに輝かせている。


「差し渡す代わりにこの事は告発しないと約束してください。貴方が裏切るようなら私も貴方の秘密を警察へと引き渡すつもりなので。」


私が物心つく頃に起きた世間を震撼させる詐欺事件。


目の前のおばさんが、その犯人だとは誰もが目を疑うだろう。


「….清羅ちゃんも随分大胆に育ったわね。未知子さんの血筋がちゃんと入っているみたい。」


そう言いながらつつも黙って札束を受け取った。


人間とは金に欲望を重ねるのだと身をもって知る。


愚かであることは皆変わらない。


なら、私の贖罪も少しの正当化で許されるのではないか。


──正当化って都合の良い言葉だな。


「ありがとう、清羅ちゃん。こんな大金をいとも簡単に渡すなんてさすが柏柳修一の娘ね。ありがたく受け取らせてもらったわ。」


「いえ、善意で渡しているのでお気になさらず。」


笑みを戻し、傘を取り出す。


小雨が降って、おばさんも私も服が濡れてきている。


「そう遠慮しないで。じゃあ、また今度ゆっくり話しましょう。」


「はい、またお会いしましょう。」


おばさんは足早に近くのビルへと入って行った。


同様に傘を差し、マンションの中ヘと足を踏み入れた。


今日はエントランスに人が数人ほどいる。


珍しいなと思いつつ、そこまで気にしていなかった。


寛いで小説を読んでいると清羅お嬢様と名前が呼ばれた。


見ると一人の使用人だった。


「なに?」


「あの….ポストの中にこちらが入っておりまして、住民の方の視界に入らないよう取らせてもらったのですが。」


使用人が見せる紙には殺害予告と思われる文が血文字のように書かれていた。


見ればひと目は絶句しそうなくらいに凄惨な事件現場を連想させてしまう。


顔を歪め、考え込んだ。


──おまえをコロス


──私は水川空。貴方を殺したいほど憎んでいる者。


水川空は確かにここ最近私をよく虐めている。


父の会社の株価がやや下落したことにより、以前よりも力をつけた水川グループの会長の娘がこのローファーにも傷をつけた。


つまり、


「嫉妬は怖いわね。」


「嫉妬でも警察に通報なさったほうがよろしいかと思われます。故意にやってもやらなくても柏柳家の人間が殺されたら旦那様や奥様が黙っていませんから。」


「ううん、いいの。無駄にそういうのをするとお母様やお父様の名誉に繋がってくるから。」


正しいか、誤っているかではなく名誉やイメージで判断するあの両親が私を庇うのか分からない。


紙を握りつぶし、使用人へと渡した。


「バレないように処分して。」


「かしこまりました。」


失礼しますと頭を下げた。


ここは隅だったから人目にはつかなかったが、中央に座っていたら今頃事件なのかと疑われていただろう。


私を陰でひっそりと目視するSPもいなければ ──。


ストレスと不安がどんどんと身体に蓄積されて貼られていく。


嘘、無様、哀れなど熟語が足先から頭のてっぺんまでシールのように貼られてしまう。


何よりあの紙の端に書かれるメッセージ。


──十一月に入ったら、放課後、教室に残ってクダサイ。


インチキくさい手口がなんとも巧妙で、不気味か…


なにも考えていなさそうな温室で育つ優雅な淑女は知らない。


知らなくていい、私の苦悩なんて。


ここまでの立場に上りつめる為にどれだけ刻み続けてきたか ──。


本を閉じ、家へと帰った。


今日も烈は私の家には居ない。


私の心残りは彼だけだというのに、それを否定されてるように運命は変えられてしまう。


──私達が幸せになれるところなんて天国だけなのかもね。


──窮地に追い詰められたら、一緒に死んで、幸せになればいい。


本当にと今になって納得する。


幸せにはいろんな形があるわけだから。


「清羅、あのボロい小さな縫いぐるみは明日俺が捨てておくよ。それでいいよな。」


テーブルに置かれる縫いぐるみを捨てるなんて到底愚かに決まってる。


私は心の中で父を蔑んでいた。


あれは幼少期、烈から誕生日プレゼントで貰った初めての私へのプレゼント。


それを知っているのは母でも姉弟たちでもない、父だった。


結局はそれ程度の理解だったというわけだ。


「好きにしてください。」


「….清羅、学校で何かあったか?」


呆然とした。


今更何を言うのかとどんな表情をすべきなのか分からない。


とりあえずで笑顔をつくり、無いですと答えた。


「そうか。」


父は理解したふうでいる自分に優越感を溢れさせているだけ。


なにも愛していない。


「お父様、今日はなにがディナーに出ますか。」


「今日はお前の好物だよ。オートキュイジーヌ。」


「そうなのですね。とても嬉しいです。私、生まれ変わってもお父様の子で生まれたいですわ。」


程よく照れた顔をつくり、さりげなく初心を際立たせる。


「はは、そうかそうか。そう言ってくれるなんてとても嬉しいよ。ありがとう。」


満面の笑みで階段を登って行った。


観葉植物の横にある椅子に座ると同時にドアがバンッと大きな音を立てて開いた。


何となく母のような気がする。


「あー、もうやってられないわ。あのチーフパーサー。私が問題を起こしたからさりげなく馬鹿にして….。処分させればよかったわね。」


この時は暗黙のように何かあったのですかと聞く。


興味が無くとも、私へと怒りの矛先が向く可能性がある。


そうなれば花瓶やら椅子やら、包丁やらを投げてくる。


家族の誰もが助けてくれないのだ、使用人すらも。


「社長として航空会社に伺ったのだけど、研修があまり行き届いていないのか対応が粗末だったのよ。問題を起こしたからってそこまでするようなチーフパーサーは要らないわ。あぁ、そうだわ。山本に頼みましょう。」


携帯を取り出し、どこかへと電話をかけ始めた。


「山本かしら。今日伺った航空会社、百五十便のチーフパーサーを即刻クビにしてちょうだい。」


大抵、母の言う対応が粗末だったという言葉は思い違いと被害妄想が生み出している。


チーフパーサーともなれば、どの客やどの人物に対しても適切な対応をとるはず。


母のような社長であろうともそれは変わらない。


実際、少し前に直接伺ったが、優劣をつけるような性格でもなかった。


これが航空会社の質を下げているという出来事に、なぜ母は気付かないのだろう。


「清羅、あなたは部屋に戻っていなさい。」


母はこちらへと駆け寄り、抱き締めて額と頬に軽くキスをした。


アルコールの匂いが鼻腔を擽る。


鬱憤をお酒に頼って無くしているのだろうか。


「あぁ、私の愛する最高傑作….あなただけが私の生き甲斐よ。だから、」


━━裏切らないでね。


裏切らないで…


先に裏切ったのはあなたの方じゃないか。


嫌い。


嫌い。


大嫌い。


階段をのぼりながら、首筋をポリッと掻くと壁に飾られる家族写真が見えた。


微笑ましい順風満帆な家族と言ったところだろうか。


皆が笑顔を作り、両親が前で私や姉弟達が後ろ。


母は革を隅まで使った高級ブランドのソファで座って爪先を床につけている。


それは誰もが羨むほどの気品で、見ている人にも伝わってきた。


でも相好を崩す顔やくっきりとなる涙袋、人一倍長く薄い睫毛、耳朶にある黒子。


忌々しいほどの似ている姿に絶句して吐き気を催してしまう。


何故こんな人物と瓜二つのように似ているのだろう。


遺伝子…


──未知子さんの血筋がちゃんと入ってるみたい。


おばさん、それは果たして褒め言葉として受け取っていいものなのかな。


私は私と瓜二つの母を殺したいほど憎い。


どうか隕石でも落ちて家族が永遠にバラバラになって別々に死んでしまえば良い。


父も母も、祖母も祖父も泡が弾けるように死んで欲しい。


だから、


貴方の気持ちも凄く分かってしまうの。


水川さん。

別 刺 敦 那 に 蟠 り

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