恋敵。その存在を認識した途端、私は心の中で強い焦りを感じた。
眩しいあの子の恋に障壁が現れるなど考えてもいなかったのだ。
けれど、私の中の何処かで何かが燃え上がるのを確かに感じ取れていた。
私は家に着いて藤花ちゃんと情報をまとめる為にLINEした後、思考を巡らせる。持っている知識の限りを最大限に生かす。
マリー。浜奈ローズマリーは前から聞いたことがあった人物であった。
恐らく私と同類の類であろう。
まさか藤花ちゃんの恋愛を妨害する存在になるとは微塵も、いや呼び止められた時点で少しは予想はしていたが想定外であった。
「…結構前からの知り合いかしら」
マリーは紅君の事を下の名前でなおかつ、呼び捨てにしていた。
しかも、今の学校で紅君とマリーは同じクラスであった記憶がない。
ここから導き出される結論。
それは、藤花ちゃんよりも前に出会って恋をしていたということだ。
しかし確信は無い。恐らく当たってはいるだろうとは思うが呼び捨ては性格の可能性もあるしクラスが違うのは一目惚れで説明できる。
何か確証が欲しい。
「うーん…紅君の昔の知り合いを知る方法…」
うんうんと唸って考えていると、頭に一つの稲妻が走った。
「朔君!」
そう、朔君である。彼は小学生からの幼馴染であるし何か知っているかも知れない。
そうと決まれば、と私は早速行動に出た。
「朔君。良いニュースと悪いニュースがあるわ」
「どっちからが良い?」
そう送って5分もしない内に返信が来た。
「遅れた!そうだな…悪い方から」
「藤花ちゃんに恋敵ができたわ」
「えぇ!!恋敵!?」
「そうよ。恋敵」
「マジかよー…」
画面越しでも戸惑っているのが伝わる。無理も無い。私だって軽く冷静さを欠こうとしている。
「ちなみに誰なんだ?」
「マリーよ。浜奈ローズマリー」
「…え?」
朔君の返信の仕方から何かを感じる。どうやらあまり良いものではなさそうだ。
「知り合いって事で良いかしら?」
「知り合い…知り合いだな、うん。…小学生の時に色々あったんだ」
「そうなの?」
「あぁ…メッセージでは伝えきれないくらいにはな。電話して良いか?」
私の予想は当たっていたようだ。しかも小学生からという、かなり古い仲みたいである。
しかし、今までマリーの名前を本人達の口から聞いたことないのだから何か揉め事があったのかもしれない。
「じゃあ、電話かけるぞ 」
「OKよ」
そう送るとスマホが特有の音を出して震え始める。親に聞かれると面倒くさいので素早く出た。
「もしもし」
「もしもし、早速質問するわ。マリーと二人は何があったの?」
「遡ると小6の話になるんだけどな…」
「なるほどね。そんな事があったの…」
「あぁ、あの日から紅は本人も周囲も恋愛話は避けるようになっちまった」
「マリーは後悔していたの?」
「してたと思う。物凄く」
マリーの後悔がどれだけあるかが正直気になる所である。不本意とはいえ問題は元を辿れば彼女なのだから。
「紅がアイツをぶん殴った時は顔が青褪めて震えてたさ。多分、俺もおんなじ顔してたけどな 」
「…責任を感じてたんでしょうね」
「だと思うぜ。マリーは軽いようで結構真面目だからな」
「恋敵宣言で痛感したわ」
「だろ?」
「えぇ」
言動や容姿から中身が分かるなんて、今の世界じゃあり得ない。良い意味でも悪い意味でも。
私だってそうなのだから。
マリーはきっと、卑怯な手を使ってまで勝者が必ず一人だけの闘いに勝ちたくないのだ。
正々堂々、向き合って恋をしたいのだろう。
「取り敢えず、悪いニュースの話はここで終了」
「そういえば良いニュース聞いてなかったわ」
「良いニュースは藤花ちゃんが恋心を自覚したわ」
「え?マジ?両思い?」
「両思いね」
「よっしゃぁぁぁ!!!」
朔君は私の気持ちを代弁とするように声を上げた。叫びたいのはよく分かる。
「やったな!あとは告白だけだ!」
「やっとここまで来れたわね…!」
「長い道のりだった…うっ、涙が…」
「泣くには早いわ!せめて告白するまで待ちなさい!」
正直私も涙腺が緩んでいるが、まだまだ対処すべき事が残っているから泣かないようにする。
「あぁ…二人の恋実らそうな!」
「勿論!」
「そうと決まれば作戦会議だな…まだ起きられるか?」
「勿論よ…夜はこれから!」
藤花ちゃんとのLINEでは寝るからなんで送ったが私は普通に起きている。
私達闘いはある意味始まったばっかりだ。
マリーの想いがどれなのかは正直分からない。でも小学生から今までずっと想えるのはきっと一途何だろう。
だからこそ、私達みたいにマリーの恋を応援する親友が居るのだろう。
でも、私達は勝つ。せっかく両思いになれたのだから。二人に幸せを掴んで欲しいから。
夏夜の下、作戦会議が始まった。
コメント
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作者のぬんです。読んでくださりありがとうございます。 今回は二人の恋を応援する葵目線です。支える二人はどのような行動を起こすのか、マリーはどう動くのか… どのような結末を迎えるかお楽しみください。 (ちなみに結末と大まかな流れは決まってますよ!)