テラーノベル
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――午前03時00分――
その後、桜子は完全に上の空状態で はあったが、No.1ホステスとしてのプライドと持ち前の根性でなんとかその日の仕事を終えた。
時刻は夜中の3時を回っていた。
それでもミナミは朝はまだ遠い。
桜子は帰りのタクシーに揺られながらあの名前をボソッと呟いた。
「金矢 塁…。」
仕事を終えミナミの街をあとにしながら、頭の中でもその名前を繰り返しつぶやく
“あの目の鋭さと言葉遣い…
そしてあの名前…
いや…ただの同姓同名か…”
色んな思いが頭を駆け巡る
それをはっきりさせるには本人に会って確認するしかない。
だけど、幼い頃から借金に苦しみ、金貸しを恨んでいた少年が自ら金貸しの道を選ぶなんて、にわかには信じがた…
それを知るのを恐れている自分がいた…。
それから数時間後…
カァー…カァー
「んん………。」
かすかに聞こえたカラスの鳴き声で目が覚めた。
ふと時計に目をやる
時間は午後4時を回っていた。
仕事を終え帰宅してシャワーを浴びそのまま倒れ込むように眠りにつくのが常になっている。
“夕方や…寝すぎた…。”
「あぁ!!!」
ガバッ!!!
寝ぼけた頭の中の片隅に昨日の記憶が蘇り飛び起きた桜子。
「寝すぎたぁーー!!!!うっ…気分悪っ…」
毎度の事ながら二日酔い。
そんなことよりも昨日の出来事が衝撃的すぎて、これは夢の中なのではないかと今だに疑ってしまう。
体を起こし眠気と酔いを覚ますためバスルームへと向かった
“キュ…シャアー…”
シャワーを浴びながらそれを確かめたい気持ちと知る事が怖い気持ちがせめぎ合っていた。
心ここにあらずといった形で支度している間も上の空状態。
ファンデーションがいつもより分厚くついてしまった。
そんな状態のまま支度を終えたのは午後5時前。
タクシーに乗り込んだ。
「すみません、ちょっと銀行寄ってくれますか?」
「はい、分かりました。途中で見えたら止まります。」
「ありがとう。」
いつも当たり前に眺めている夜の大阪の街の風景が流れていく。今日はその風景が何重にも重々しく映る
「あ、華咲銀行、ありましたで〜。」
「ありがとう!ちょっとお金待っててもらえます?すぐ戻ります。」
「はいよ〜。」
コツコツ…
ATMに足を踏み入れて早速画面を操作する。
この指先の動作一つで300万円という大金が消えてなくなるのだ…
お金というのはなんと儚くて脆いものか…。
そんな気持ちを振り払うように淡々と指を動かした。
ピロ、ピロ…
そして、ATMを操作し始めてから大事な事に気がつく…
ATMの限度額。
360万なんて金額とても1回で引き出せる訳が無い。
“やってしまった…”
どうしようもないので、とりあえず限度額いっぱいまで引き出した。
いくらミナミの鬼と言われてる人でも、事情話せば分かってくれるだろう
「今日はとりあえずこれで…。」
おろしたお金を封筒にしまいATMを出た。
「おじさん!お待たせしましたぁ!助かったわ。そしたら行き先までお願いします。」
「かしこまりました。ほな出発しますー。」
数分後……
タクシーはとあるビルの前で停車した。
「着きました。」
「ここやね!助かりました。ありがとう。」
「ありがとうございました。ほなまた、お願いしますー。」
バタンッ
ブォーーーン………
走り去るタクシーを見つめる桜子の胸中は不安でいっぱいであった。
このビルの最上階…。
エレベーターに乗り込む足が鉛のように重く感じる。
“どうしてちゃんとお金を返しに来た自分がこんなに緊張しないといけないのか。しかも他人の借金をわざわざ肩代わりしてやってる身なのに。”
パンパン!
桜子は自分の頬を叩き気合いを入れた。
「よし!」
エレベーターに乗り込む。
1階…
2階…
エレベーターは上へと上がっていく、その度に自分の心拍数も上がっていっているような感覚になった。
そして、最上階。
エレベーターを出て、勇気を出しその部屋のインターホンを鳴らした。
ピーンポーン…
……
……
ガチャッ!
「毎度ぉー!!!お!昨日のクラブの姉ちゃんやなぁー?遅かったやないかぁ!待ってたでー。ほな入ってや!どうぞ、どうぞ!」
「お、お邪魔します…。」
昨日の調子のいい舎弟。相変わらずのハイテンション。こっちとしてはちょっとは緊張もほぐれるし、この調子の良さが今は正直とてもありがたい。
恐る恐る部屋の中に足を進める。
奥の部屋に入るとソファーに腰掛けているあの男がこちらに気が付き、鋭い視線を向けた。
ゴクリ…
その視線に思わず固唾をのむ。
「兄貴ぃ!昨日取り立て行った高岡の借金!代わりに約束通りこちらの姉ちゃんが返しに来てくれましたー。」
「 待っとったで。 そこ座りなはれ。 」
昨日の男…
やっぱりこの鋭い目つきと顔…
纏っている独特の雰囲気
小学生の時の同級生のあの塁なのか…?
いや…まさか…
「失礼します…。 」
緊張しながら迎え合わせになる形でその男の正面のソファーに腰掛けた。
カチ…シュボッ
彼は私が腰掛けるや否や煙草に火を点けた。
「ふぅー。………で、昨日の約束通り、銭は用意出来てんな?」
「え、えっと…。お金はもちろん用意してます。」
「ほなさっそく出してもらおか。」
「これです…。」
桜子はさっきおろしてきたばかりのお金が入った封筒を手渡した。
彼はその封筒からすぐにお金を取り出す
ガサッ……
シャッ……
そのお金を数える手が早々に止まった。
「何やこれ。わしが言うてた金額より260万も足りへんやないか。」
「そ、そのことなんやけど!今日は銀行の窓口…行かれへんくて!だから今日のところは限度額いっぱいまでおろして持ってきた。」
「ふっ…。そないな事情、わしに関係あらへん。何があっても約束は守る、お金は用意するて威勢よう言うてたんは誰や?」
「だから!お金はこうして持ってきたやんか!別に利息分の金額が足らん訳でもないし…そっちが損してることなんて無いはずやろ。」
「舐められたもんやのぅ…。己がした約束やろ。わしは大事な銭、他人に貸しとるんや。その銭をどないな事してでもかき集めて返しに来るくらいの誠意見せてみい。 あんたの事、まだ完全に信用した訳やあらへんて昨日言うたはずや。」
「そんな無茶な………!
なんで…なんでなん…
…………
なんでそんな男になってしもたん…!?」
“しまった…。 遂に口をついて出てしまった。その言葉を発したとたん何故か涙がとめどなく溢れてくる。 感情が抑えられない…。 まだ、私が知ってるあの塁と決まったわけでもないし確証もなにもないのに…。”
ついに不安と疑念が頭の中でぐちゃぐちゃになって桜子の口からその言葉が出てしまった。
二人にはいきなり泣き出した狂った女に見えているに違いない。
「………。」
塁はその姿を黙って見ている。
「え?あ、兄貴、この姉ちゃんと知り合いなんでっか…?」
「ちっ…。竜一ちょっと席外してくれるか。」
「え、でも。」
「竜一、はよせぇ…。」
「分かりやした…。外、出とります…。」
ガチャっ
*バタン…*。
「………グスンっ。」
堰を切ったように桜子の目からは涙が止まらない…。
もう話に割って入ってくれるあの調子のいい舎弟もいない。
色んな思いや疑念が渦巻き桜子の頭と胸は今にもパンクしそうだった。
“苦しい…。”
その姿を見つめながら塁が口を開いた
「そうやって泣いたかて、わしの借金はチャラにならん。あんたがなんぼ人の不始末の肩代わりしようがわしに関係あらへん。けどなぁ…人ひとり、助ける言うんわそんな甘い事やないんや。ガキの頃と少しは変わっとる思ったけど相変わらずやのう。」
……!?
疑念が確証に変わった。
「グス…。そうかもしれへんって思ってたけど、やっぱりあの塁なんやね…。」
桜子は涙を拭いながら、恐る恐る塁の方へ顔を上げた。
「 そうや。あんたが期待してた”金矢 塁”の姿とはだいぶ違うやろうなぁ。」
まだ私の事まだ…
覚えてた…。
「私の事覚えてたんや…
いつ私のことに気付いたん…?」
「わしは約束破った人間の事だけは忘れへんのや。 」
“また明日話そう”
お互いにとって唯一の希望だったあの言葉…あの約束…
“あの約束… 違う…あれは…!”
「あの時の約束…!本当にごめんなさい!今更許してもらおうなんて思ってないけど……家の事情で色々あって…。あの後、私なんとか会いにいこうと…!」
「その話はもうええ。どうせ子供の約束や。それにわしかてなんぞ理由があって来られへんかった事くらい見当ついとる。」
「私、あの日…!」
「もうええ。今更来られへんかった理由聞いたところで、あの時の事実は変わらんのや。それにそれと今回の借金の事はまた別の話や。」
まるで感情をなくした人形かロボットのように冷たい言葉の数々を無表情で桜子に浴びせる塁。
もはやあの頃とは完全に別人になっていた…。
「なんでそんなんに……。
“ずるい大人に負けんようにわしがもっとずる賢しこうならなあかん。”
そう言ってたその答えがこれなん!?」
「そや。 これでわしがどんな人間かよう分かったやろ。何を言われようと同情なんかせえへん。今日から一週間以内に必ず残りの260万持ってこい。それが出来ひんかった時はあんたにも少々辛い思いしてもらう事になるで。」
「そんなん…。」
「一時の感情で他人の苦労肩代わりして、闇雲に脆い期待与えん事や。」
その言葉を耳にして自分がやったことが全て無意味で否定されたような気がして、言いようのない感情がこみ上げた…
ダッ…!
ガチャっ
バタンっ!!!
その場に居てるのが辛くてたまらなくなり思わず桜子は事務所を飛び出していた。
「はぁはぁはぁ …。……鬼…。」
“ミナミの鬼”
私の知っていた頃のあの塁が鬼と呼ばれるようになるまで…
一体、何があんなふうにさせたのか…
あのぶっきらぼうやけど…いつも私の事を心配して気にかけてくれた…
塁がどうして…。
コメント
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読了しました。第3話、めちゃくちゃ引き込まれました……!桜子が過去の同級生・塁と再会し、まさか“ミナミの鬼”になっているとは——あの「約束」って何だったんだろう、気になりすぎます。ATMの限度額で足りなかった描写とか、現実的なハードルが逆に切なくて。泣きながら「なんでそんな男に」って言っちゃうシーン、胸がギュッとなりました。続きが待ち遠しいです!
#執着
さぶれ
1,389
あおい
1,131
ruruha
626
46