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#執着
さぶれ
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あおい
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ruruha
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塁の事務所を飛び出した桜子。
塁に自分の何もかもを否定されるような言葉を浴びせられ、失意の中、溢れてくる涙を堪えながらミナミの街をあてもなくトボトボと歩いていた。
街を行く人達は目に涙を溜めて歩く桜子に気付き驚いたり、不思議そうな顔をして通り過ぎていく…。
中には嘲笑する人もいた。
この街で女が涙を流しているのなんて日常茶飯事、そんなに珍しい事でもない。
そんな乱れた情緒が行き交う街なのだ。
桜子は自分の顔をジロジロと見ながら通り過ぎていく人達が人の不幸を餌にしてほくそ笑んでいるように見えて強い嫌悪感を抱いた。
“正直なところ、散々な思い出しかないこの大阪にもう帰ってきたくなかった。 でも小学生の時に塁としたあの約束を破ってしまった…。
「また明日話そう。」
たったそれだけの約束。
それがあの頃の二人にとってはとてつもない希望になっていた。
その事が心残りだった…
塁にもう一度会いたい。
心残りを晴らすチャンスがあるなら…
その一心で大阪に戻ってきたのに…”
―15年前―
塁との約束をやぶってしまったあの日。
桜子の家に見知らぬ男たちが訪ねてきた。 何故か母親はその男たちに必死に頭を下げていた。その理由は桜子が大人になってから理解できる事情だった。
母を囲っていた父親が経営している会社が多額の負債を抱えており、切羽詰まった父親はあちこちに借金を残したまま計画倒産。 そのまま姿を消した。
あの日、家に訪れていた男たちは恐らく桜子の父親の会社の人間、債権者、それか金融屋だったのだろう。
その日のうちに家は差し押さえられ、母子揃って家を追い出された。
母親は他に作っていた男の家にさっそく転がり込み、 更に桜子の存在を疎ましく思った母親と男は、桜子を施設に預けたのだ。
それ以降、母親とも父親とも一度も会っていない。
それから桜子はなんとか1人で生きてきた。
“お前は全然あかんことなんかない。”
ずるい大人ばかりに囲まれて生きてきて、あの時の塁の言葉と思い出を 小さな希望にして…
“塁にまた会えるかもしれない。
そんな淡い期待を抱いて5年前に最悪な思い出しかないこの大阪に舞い戻った。
でもそれが間違いやった。
また一つ嫌な思い出が増えただけ…。”
「勝手に期待した私がアホやったんかな…。」
そんな小言が桜子の口から漏れた。
とことんこの街に求められていないのかもしれない。残りのお金を支払ったらこの街を出よう。 そんな思いが桜子の頭を駆け巡る。
……?
少し離れた場所から調子のいい鼻歌が聞こえてきた
「ふふん…ふん…ふ〜ん♪ん……? 」
その声の方へチラリと視線を向けた。
男と目が合った。
「あ、あんたぁ!さっき事務所来てたクラブの姉ちゃんやないか!。」
塁の舎弟だ…
「あ、あんたは塁……、”金矢さん”とこの舎弟……。」
まためんどくさい奴に捕まってしまった。
「なんやぁ、そないにしょぼくれた顔してぇ!あ!さては兄貴にきっっっつい事言われたんかぁ?。ワシなんかそんなん毎日のことやからもう慣れてしもうたわ!!!ははは!!!」
“凄いポジティブマインド…
今の私にはめちゃくちゃうざい…
けど…なんか悪い人ではなさそうな気がする。 そして、その根拠のない底抜けの明るさに救われたような気がした。”
「あんた毎日あんな鬼みたいな人の側におってよくそんな明るくいれるな…。」
「ええ?そうやなぁ。こないに明るくおれる理由知りたいか?」
「え…?い、いやそんなん別に…。」
「お?知りたそうな顔してるな?よっしゃ!ほな、わしに一杯付き合ってもらおか!」
「はぁ!?なんで私がそんなんに付き合わなあかんの…!」
「まぁまぁ!ええやんか!わし、ええ店知ってんねやー!ほな!行くでぇー!」
ぐい…!
そう言ってしょぼくれていた私の腕をおもむろに引っ張り出した舎弟。
「ちょちょちょ!待ってよ!ほんまに調子ええなぁ、あんた…。」
「姉ちゃんみたいなべっぴんさんがそないにしょぼくれた顔してたら、わしほっとかれへんのや。」
「 もうしゃあないなぁ…。一杯だけやで! あと同伴代もしっかりいただくからな。」
「えぇ?そらきついわぁー!あんたも抜け目のない女やのぅ。まぁしゃあない!今日は特別やぁ!」
やっぱり悪い人ではないみたい。笑
そこから暫く歩いたところの狭い筋の一角にある店に2人は入った。
「ほら!ここや!」
ガラガラっ…
「毎度ー!おっちゃーん!繁盛しとるかー!」
「いらっしゃーい!おっ!竜一やないかぁ。ぼちぼちいうとこやなぁ!なんや今日はえらいべっぴんさん連れてるな!」
「そやろー!美人連れてわし機嫌ええねん♪おっちゃん、特上うな重2つと生2つな! 」
「はいよ!どこでも好きなとこ座ってやぁー。」
「はいよー!ほなここ座ろうか!ここのうなぎはほんっっまにうまいんやー!!食べたらびっくりすんでー♪」
「あ、ありがとう…でもうなぎって高いんちゃうの?ほんまにええの?」
「あったりまえやがなぁ!これでも金貸しの端くれやでー、それなりに遊べる小銭くらい持っとる。」
「そ、そっか、確かに金融屋さんやしお金持ってないとあかんよね…笑」
「金は天下の周りもん!賢う稼がんとな!金貸しが貧乏やなんて世間に示しがつかんやろ。あ、そうや!ちゃんと自己紹介してなかったな!わしは辰巳竜一、よろしゅう!」
「竜一さんな。しっかり覚えとく。私は店では明日香っていう源氏名でやってるけど、ほんまの名前は桜子。好きに呼んでくれてええよ。」
「桜子ちゃん!かわええ名前やなぁ!なんや桜子ちゃんとは長い付き合いになりそうな気がするな!」
「ちょっとやめてよ!金融屋と長い付き合いなんかごめんやで…。」
「はは!そりゃそうや!あ、そういえばさっき事務所で兄貴の事、前から知ってるような感じで話してたけど、桜子ちゃん兄貴と知り合いなんか?」
………。
いきなり確信をついてくるような質問をされて桜子は少したじろいだ…
少し間をあけて…
「あぁ…塁とは小学生の時の同級生なんよ。まさかこんな形で再会すると思ってなくて、感情が抑えられへんくて…。さっきは声荒げてしまってほんまにごめんなさい…。」
「へー!そうなんか!いやいや!そないな事、全然気にせんでええ!!兄貴言い方きっついからなぁ。そりゃあ同級生がミナミの鬼呼ばれるようになってたら誰かてびっくりするわ!…それより、小学生の時の兄貴の事知ってるんやろ?どんな子供やったんや!?」
軽く身を乗り出して食い気味に聞いてくる竜一。
「う〜ん…。塁は小学生の時から周りと群れんと一匹狼で頭も切れて…強い子やった。なんか他の子と違うと思ってた。私は途中で引っ越したからそれからの事は全く知らんねんけど…。」
「へぇーー!やっぱりさすが兄貴は昔から兄貴やなぁー!」
「竜一さん、塁の事ほんまに慕ってるんやね。そもそも竜一さんなんで金貸しになろうと思ったん?」
カチャカチャ…
その時、奥からグラスジョッキを運ぶ音が聞こえてくる…
「はい!先に生2つお待ちどおさまですー!」
「おっちゃんありがとうー!とりあえず先に乾杯しよか!」
「そうやね!」
「乾杯!」
「乾杯!」
カンッ!
ぐびっぐびっ……
「かぁー!!うまい!やっぱり美人と一緒に飲む酒は格別やな!」
ずっと底抜けに明るい竜一。
一緒に乾杯をした事で沈みきっていた桜子の心は少し暖かくなった。
「竜一さんってほんまに調子ええ事ばっかりいうよな…笑」
「えぇ?ふざけた奴に見えるかもしれんけどな、わしはいつでも真剣!ほんまに思ったことしか言わへん!」
「またまたぁ…笑。」
「ほんまやて!桜子ちゃんやから誘ったんやで?あ、そや!なんでワシが金貸しになろうと思ったかって話しやったな。…それはな……
兄貴に惚れたからや。」
「は………?」
「あ!そういう意味の惚れたと違うで!そっちの気はあらへん!わし兄貴に憧れとるんや。」
「憧れてる?あんな怖い人に?」
「そうや! 兄貴みたいに這い上がってミナミの街を肩で風きって歩けるような金貸しになりたい。身寄りのないこんないい加減な奴にそない思わせてくれた人なんや…。わし、ふざけた奴に見えるかもしれんけど、この気持ちだけは本気やて言える。」
「そうやったんや…。塁…正直、昔に比べたら別人みたいになっててびっくりしたけど…でも、竜一さんにとっては恩人なんやね…。」
それは桜子にとっても同じ筈だった。だが、桜子の中ではその思いにズレが生じはじめていた…
「ほんまにな!兄貴はどうしようもないチンピラやったワシを拾ってくれた恩人なんや。鬼みたいに見えるかもしれんけど、自分も地獄見てきた分、人の弱さや痛みもほんまは分かっとる人なんや。」
「地獄……見てきた?」
「えぇ!?なんや桜子ちゃん!同級生やったのに兄貴の事、何も知らんのかいな?」
「私は途中で大阪から離れたし、塁もそんなに詳しい話自分から色々してくれる子じゃなかったから。なんか借金がある?みたいな事は知ってたけど…。」
「確かに兄貴は自分の事ベラベラ話すような人と違うからなぁ…。わしも兄貴がなんで金貸しになったんか直接教えてもらった事はないんや。まぁわしが知ってる話は……」
その時、店主がこちらへ重箱を運んできた…
「はい!特上うな重2つ!お待ちどおさまぁ!」
と、次回の展開が気になるところで終わるドラマのようなタイミングで運ばれてきたうな重。
鰻がツヤツヤと美味しそうに輝いている。
こんな美味しそうな鰻を食べるのは初めてかもしれない、が…、私は話の続きが聞きたくてしょうがなかった。
「うおぉぉ!これやこれ!出来たて食べよか! 美味そうやぁ!」
「そ、そうやね。せっかくやし出来たていただこう!」
「いただきますっ!!!」
はむっっ…
“美味しい…!”
「んーーー!!!最高やぁ!おっちゃん!!あんたやっぱり天才や!ここのうなぎは日本一やぁ!!」
竜一さんが思わずそうはしゃいでしまうのも理解できる。
本当に美味しい。
「はは!!そないに褒めてもお代は安くならんでー。」
「あったりまえやがなぁ!!逆にこのうなぎにやったら、100万でも200万でも払ったるぅ!」
「アホかぁ!ほんまに竜一は調子ええなぁ!」
ほんとに、美味しいうな重のおかげでさっきの事で沈んだ心が満たされていくのを感じた。
その最高に美味しいうなぎを食べながら、強引に私を誘ってくれた竜一さんの優しさに心の中で感謝した。
何故、塁が竜一さんを舎弟として選んだのか…この姿を見て分かった気がした…。
でも…さっきの話の続きが気になりすぎて、正直なところ早く食べ終わって話のを聞きたいと思っている自分もいる。
“ごめん、おっちゃん。
でもうなぎはめちゃくちゃ美味しい。”
数分後…
「はぁー!美味かったぁ!お腹いっぱいやぁ…ごちそうさん!」
「私もごちそうさまでした。こんなに美味しいうなぎ初めて食べた!ええ店連れてきてくれてありがとうね、竜一さん。」
「かまへんかまへーん!感謝せなあかんのは、ワシやなくておっちゃんの腕の良さや!ははは!」
「ふふっ!それはほんまやね♪あ、竜一さん、さっきの話の続き…。」
「ん?さっきの話……あぁ!兄貴の話なぁ!」
「うん!そうそう!なんで塁が金貸しになったんか…。」
「はぁ…。ズズッ…。」
竜一は一口お茶を啜り…
口を開いた。
「この話は、兄貴と昔からの付き合いがある、ある人から聞いた話なんやけどなぁ….。
兄貴が小学生の時、父親さんがあくどい輩に騙されて借金作ってしもて借金取りが毎日のように家に取り立てに来るようになったんやて…そやけど返す当てもなくて、それに愛想つかせた母親は他に男作って兄貴と妹さん置いて家を出て行ってしまったそうや…。
それでヤケになった父親さんが家に火つけて無理心中図ったんやて…兄貴はギリギリのとこで家飛び出して助かったけど…その火事に巻き込まれて妹さんが亡くなってしまったそうや……。」
その話でその場の空気が凍りついた… 息ができないほどに…
それまで軽快に内輪を仰いで鰻を焼いていた店主の動きも一瞬だがピタリと固まった。
まさに地獄のような話だった。
“まさかそんな…”
桜子は唇を震わせながら口を開く…
「そんな………それやったら……めちゃくちゃにされた金貸しなんかになんで…。」
「そやなぁ…。この話にはまだ続きがあってな。 何もかも無くした兄貴のもとに返済の計画立て直させるためにある金融屋が訪ねて行ったそうや。
その時、兄貴はその金融屋になんて言うたと思う?」
「そ…そりゃあ塁の事やから…
あの剣幕で”帰らんかい!”とか…?」
「いいや……その逆や。
“親父が借りた銭は何年かかっても必ず返す。そやから、わしに金融道教えてくれ”……て。まだ子供やった兄貴は逃げも隠れもせんとそう言うたそうや。 その言葉に惚れて、その金融屋は兄貴を弟子にした。要はその時に取り立てにいった金融屋が兄貴の金融の師匠なんや。」
…………!
「自分から全て奪った銭から目逸らさんと、一生向き合おうて生きていく。奪われる側から奪う方の人生選んだ。兄貴はその時に覚悟決めたんや。」
「鬼の道を選んだんやね……。
やっぱり塁強いわ…。私なんかあの頃から何にも変われてないのに……。」
またも弱気な心が桜子の中に顔を出す。
「あぁ…!またそないしょぼくれた顔されたらわし困るやないかぁ…。でもな!兄貴は自分が賢くて特別な人間やとか思ってないんやで?」
「いいや…塁は昔から強かったよ。」
その言葉を聞いて竜一は静かに首を横に振った。
「それはちゃう…。
“事情言うたらどんな人間にかて事情はある。 事情の塊が人間っちゅうもんや。個々の人間が事情を数字に変えてやっと五分《ごぶ》に行き来する…それが銭っちゅうもんや”
て、兄貴がこう言うてたんや。 この世の中、地獄みたいな人間の事情探せばそりゃ嫌というほどある…。そやけど、その分そっから這い上がる方法も同等にある。それが銭で解決できるんやったらその方法を逃げんと探したらええ。兄貴は誰よりも人間の底力を信じてるんや。その言葉聞いてそう思った…。だから人にも甘いこと言わへんし、変に同情もせえへん。そんなことしても現実は待ってくれへんのを骨身に染みて知ってるから。ただ**“やれることをやる”**それだけなんや…兄貴は。」
「竜一さん……。」
「兄貴は鬼みたいに見えるかもしれんけど誰よりも現実を分かっとるんや…。だから、あの厳しさがあの人にとっての究極の優しさなんや。そやからそんな兄貴の元で一緒に働けて幸せやし、毎日明るくおれんねん。」
「そっか…。前向いて歩くか…それとも、しょぼくれて腐るか… 結局は自分次第って事やね…。竜一さん、貴重な話聞かせてくれてほんまにありがとう。なんか元気出てきたわ!」
「いやいや…そない改まって言われたら照れるがなぁ!まぁ…この世の中、腐りながらなんとか歩いてる人間もおるっちゅう事やな!わしみたいに!ははは!
ちょっとはわしの事見直したか?」
「ほんっっっっまにちょっっっっっとだけ見直した!」
「なんやそれぇー!そのうちびっくりするほどええ男になったるからな!後から後悔しても知らんでぇ?ま!わしも兄貴が小学生の時どんな子やったか少しだけでも聞けて嬉しかったわ!ありがとうな、桜子ちゃん!」
「ううん!竜一さんのおかけで元気出た!こちらこそこんなに美味しいうなぎまでごちそうになって、話も聞かせてもらって、ほんまにありがとうね。」
「そやろ?よぉーし!そしたらこの後ホテルにでも…」
「塁にチクってもいいの?」
「ごめんなさい。」
「調子乗ってたらバチ当たるで。」
「はい、すんません…。 おっちゃーーーん! お会計頼んますぅ〜!!」
「ふふ…。」
切り替えの速さだけは天下一品の竜一であった。
塁の壮絶な過去の話を聞き、今の塁はいい人達に囲まれて少しでも幸せであってほしい…
同じではないにしても、自分も孤独という地獄を経験してきた桜子はそう願わずにはいられなかった。
それはこれまで孤独に一人で生きてきた自分に対しての願望でもあるのかもしれない。
その話を聞き、少しだけ大阪に戻ってきて良かったと思えた。
と、同時に…桜子の中の塁に対しての気持ちも微妙に揺れ動きはじめていた…。
“やっぱり塁のこと…”
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**みぅ🤍🥀:** 第4話、すごく重くて温かい話だった……。桜子が心を閉ざしかけたところで、竜一さんの無邪気な明るさが優しくて。塁の壮絶な過去も、「奪う側になる覚悟」って言葉にゾッとしたけど、同時に誰よりも人間の底力を信じてるんだって分かって、胸が熱くなったよ。桜子の「やっぱり…」って最後の揺れ、次が気になりすぎる。連載、ちゃんと追いかけさせてもらうね🌙