テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ゴン、ガタン……と、なれない道を馬車が進んでいく。紅蓮の彼は、外を見ていて、目を合わせようとしなかった。喧嘩したわけじゃなかったけれど、多分、緊張しているから。そう思うことにして、私も、初めて行く土地にドキドキと不安を募らせる。
フィーバス卿の領地は、もの凄い結界が張られているため、転移魔法を使うことは不可。なので、近くの町まで転移して、そこからは馬車で半日、といった感じらしい。普通、光魔法の魔道士は、転移魔法なんて滅多に使わないので、転移魔法でどうするって考えているアルベドや、闇魔法の人達は、さぞ移動が楽だろう。まあ、そこをとやかく言うつもりはないけれど。
「てか、前きたときよりも寒い?」
「そーだな。北の洞くつよりも、寒いからな」
「何か、前言っていた気がするけど、忘れちゃって。そっか」
「寒いか?俺の上着でも着るか?」
と、アルベドは、やっとこっちを見てそう言った。私は、寒いけど耐えられないほどでもないし、火の魔法で幾らでも身体を温めようがあった。アルベドは、私が断るのを見て、肩をすくめていた。せっかくの善意を無碍にしやがってと思っているのかも知れない。
にしても、肌寒かった。火の魔法を自分にかけて、何とか寒さをしのいでいるけれど、この間きたときよりもうんと寒くなっていた。確かに、きた季節は違うけれど、まるで、初冬のような……
領地に入れば、遠くに感じていた魔力が、身体にスッと入ってきて、静電気のような痛みが時々走った。闇魔法じゃないのに、反発しているようで、私は体中痛がゆかった。私がこんなんなんだから、アルベドはもっとじゃないかと見れば、アルベドは涼しい顔をしていて、私を見ると、首を傾げた。
「どうしたんだ?」
「ちょ、痛がゆいというか。これ、フィーバス卿の領地に入ったから?だよね。違う?」
「そうかもな」
「アンタは大丈夫なわけ?」
「基本、自分には防御魔法をかけるようにしてる。ああ、光魔法のヤツは、そう言うの慣れていないんだっけか」
「……」
「睨むなって。いってなかった俺も悪かった」
アルベドはそういって、私に防御魔法をかけた。途端に、身体の痛みは消えて、私は呼吸を整える。大きく息を吐いて、アルベドを睨めば、アルベドは申し訳なさそうに眉をハの字に曲げた。
「フィーバス卿の領地は、前もいったが、魔法結界で覆われている。領地の中に魔物が入ることはまずない。だが、領地を一歩出れば、魔物の餌だ」
「安心安全が約束された町ってこと?」
「まあ、いえばそうなるな。それを、維持できるほどの魔力を持っているフィーバス卿は凄えよ」
「そんなの……本当に情事魔法を発動しているのよね。なんで、フィーバス卿は魔力不足にならないの?普通なら枯渇して……」
「そこがフィーバス卿が、こんな辺境地にいる理由だ」
そういって、アルベドは足を組み替えた。
アルベド曰く、フィーバス卿は、追いやられるして追いやられた貴族。辺境伯というのは勿論、その爵位で、辺境地にすんでいるからではない。けれど、住んで居るところが辺境地なのでぶっちゃけると、かけられているのではないかとすら思う。まあ、そんなのはよくて、この辺境の地が、フィーバス卿の魔力を高め、縛る効果があったと。フィーバス卿がここを動かない限り、結界は永続的に発動する。しかし、離れれば、その結界は一気に崩落し、魔物が押し寄せてくると。だから、フィーバス卿は動けない。パーティーに出ない理由もそれだと、アルベドはいうのだ。
(それが分かっているのに、パーティーに出席しろっていうのは、その……あまりにも……)
領地の周りには、魔物がうじゃうじゃといるらしい。だから、フィーバス卿の領地には、誰も寄りつかないと。アルベドじゃなくても、転移魔法でいけるなら、転移魔法を使いたいと思うだろう。危険だから。
「でも、その、選ばれたというか、永続的に結界を使えるのって凄い……よね。他では真似できないというか。聖女の魔力というか」
「さあな。呪いのようなもんじゃねえか」
「呪いって……魔力をが、その領地から出なければ続くっていうのに?」
まあ、外に出られないっていう不便さはあるだろうけれど、それでも、ここにいれば、魔力の枯渇で死ぬことはないんだし……
そう思ってアルベドを見れば浮かない顔をしている。私が、何か間違いでも言ったのかと顔を覗けば、アルベドは、深刻そうに続けた。
「魔力がへらねえっつぅことじゃねえ。魔力は減り続ける。それに、魔法を使い続けてるっていうのは、ずっと身体に負担はかかり続けるってことだ」
「……じゃあ、魔力が減れば、供給されて、また減ったら供給されての繰り返し?生き地獄みたいな?」
「そーいうことだな。だから、永遠の魔力なんてない方がいい」
「アルベドもそっちは?」
「俺も、いらねえよ。確かに、魔力があったほうがいいっつうのはその通りなんだが、ずっと同じ土地に縛られるのは耐えられねえだろう。それに、自分が死んだら結界が崩壊すると思うとな……」
「フィーバス卿……今の代からそうなの?」
「いーや、一つ前からだな。ちょうど、今の皇帝になった時か。馬が合わねえっつただろ?皇帝と、フィーバス卿は。皇帝になったからって、好きかってして、追い出しやがった。そして、この地に飛ばされ、呪いを受けた。それが、今のフィーバス卿に受け継がれているっつうわけだ」
「祝福は、呪い……か」
分かるようでわからない話。でも言いたいことは分かった。説明も理解した。でも、パーティーに参加したことがないわけじゃないから、その間はどうしていたんだろうかと。まだ、その時は、フィーバス卿のお父さんが生きていて……
(それなら、あり得ない話でもないのか)
多分、仕組みとしたら、フィーバス卿の血筋の人間が、この地の結界魔法と繋がっていて、誰かが、魔法を使い続ければいい。魔法を使い続けている最中は、永続的に、魔力が供給されて、減ることはない。誰かが、肩代わりする……だから、フィーバス卿は、パーティーに行けると。でも、父親が、高齢とかで、その無限の苦しみに耐えるのが難しいから、領地から出ないと。多分、これであっている。
「そんな人に会いにいくんだ……」
「分かっただろ?まあ、だから気むずかしい。それがなくても、性格がなあ……」
「何?」
「あーだから」
と、アルベドは濁す。いいたいことがあればはっきり言えばいいのに。最近は、言葉を濁すことが増えてきた。まあ、今回の場合は、単純にアルベドが、フィーバス卿が苦手だからだろう。ここまで、駄々をこねるというか、嫌がっている姿を見るのは初めてだった。私より年上のはずなのに、何処か幼稚に見えてしまうのは何故だろうか。顔つきも、体つきも大人なのに。たまに、無邪気に笑ったり、変なことしたり、からかったりしてくるからだろうか。
「苦手なんだよ。ほんっと、誰よりも苦手なんだよ」
「じゃあ、なんでこの話を持ちかけてくれたの?」
「だから、フィーバス卿を仲間に引き入れたら有利になるっつうか、強力な助っ人になるっつうか。前も話しただろうが。苦手だって話しも」
「そうなんだけど」
「それに」
「それに?」
アルベドは、そこで言葉を句切ってから、外を見た。雪でも降りそうな灰色の空は、どんよりしていて、私達を不安にさせる。
「これも前にいったかも知れねえけど、光魔法と闇魔法の貴族が手を組む……手を取り合うことができるって事、証明してえんだよ。この帝国に。俺のやりたいこと、認めさせる。不可能じゃないってな」
アルベドはそう言うと、私の方を見て、何処か自傷気味に笑った。
ああ、この顔……と、私は思わず口が開く。不可能じゃない、光魔法と闇魔法の貴族は手を取り合って生きていける。アルベドの理想……それを体現するために。だから、アルベドは……私は、もう一度アルベドの言葉をしっかりと理解して、彼の手を取った。アルベドは一瞬肩をビクリと動かしたが、視線だけをこちらに向けて首を傾ける。
「私頑張る」
「いきなりどうした」
「アルベドの理想、知ってるから。私、頑張ってみるね」
「………おう」
アルベドはふいっと顔を背けた。でも、その耳が真っ赤に染まっていることに私は気づいて、自然と笑みがこぼれた。