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大きな顔をレイブに近づけて、バストロとヴノに聞こえないように教えてくれたのは赤竜ジグエラである、曰く。
『あのねレイブ? 実はアナタとギレスラの仲間、スリーマンセルの最後の一匹、魔獣をね、バストロとヴノの二者は探していたのよ、この一年間ずっとね…… そして先日、色々声を掛けていた有力な魔獣の中から一つの答えを受け取って喜んでいたばかりなのよね、『了解、その少年と子竜のスリーマンセルになろう』、そう快諾して寄越したのがヴノの養女、キャスだったのよ』
「グガァ?」
「ねぇ、ジギィ? そのキャスさんには申し訳ない事だけどさぁ、僕やギレスラ、勿論ペトラだってそんな事知らなかったんだもん、仕方無いよぉ! 兎に角、僕たちはスリーマンセルの誓いをしてしてしまったんだし、そう説明して許して貰えば良いんじゃないのぉ? 違うぅ? 僕たちちゃんと謝るよぉ?」
『そうね、一緒に謝ってあげるわね』
ジグエラの優しい囁きに、少しだけ感じていた緊張を緩めるレイブであった。
その後、噂のキャスさんが、一年前ハタンガを中心に巻き起こった魔力災害の切欠(きっかけ)となってこの世を去ったジャイアントボアの前獣王、アリスの後継の座を固辞してまで、スリーマンセル入りを決めてくれた事や、そのせいで未だ空位の獣王の座を、亜人の森のリーダー、こちらもジャイアントボアの森王、ダソス・ダロスが兼任中である事を聞かされると、ギレスラと一緒に見る見る顔色を青褪めさせてしまったのだが。
「グァ……」
「なんか、凄くいっぱいに謝らなきゃならない様な……」
『そうね、一緒に謝ってあげるわね』
再び同じセリフを繰り返したジグエラの足元から、黒い毛玉改めペトラが例の如く流暢に言う。
『突然訪ねて来ちゃったアタシの我が儘が原因なんだから自分でちゃんと謝るよ、それに多少気難しい所は有ってもダロスは聞く耳を持たない愚か者ではないし、パリーグだって同じよ? 気立ての良い優しい娘なんだから、そんなに心配しなくて良いと思うの』
この言葉に首を傾げながら聞き返したのはレイブである。
「パリーグって誰?」
『あっ、しまった』
なにやらしまってしまったペトラに代わって答えてくれたのは魔術師バストロだ。
「パリーグってのはキャスの氏族名だぞ、正確に呼ぶときはキャス・パリーグなんだ、謝る時はちゃんとキャス・パリーグさんゴメンなさいって言うんだぞ? それにしてもペトラは色々物知りなんだな? レイブがハタンガのバーミリオン出身だって事や、ギレスラが竜の渓谷出身、ニーズヘッグ族なんて事まで知っているみたいだったし…… 本当に一歳なのか? ペトラ?」
ふむ確かに、やけに事情通っぽい発言が多いのは否めない、本当はお婆さんなのかも知れない、年齢詐称疑惑が降って湧いた瞬間だ。
嫌疑の的、ペトラは慌てた素振りを隠そうともせずに視線をあちらこちらに忙しなく動かし捲っている、怪しい……
『え、ええっとぉ、う、生まれたのがあっちの方だったからぁ、そ、そ、それに周りの大人がお、お、おおお、教えてくれたのよぉ! ほらっ、皆、有名人じゃない? 北の魔術師も赤竜もヴノだってぇ! 獣王候補や現森王なんか、そ、そこらの昆虫だって知っているわよ! ち、ち、違うぅ?』
何故か急に吃音(きつおん)まで…… ますます怪しい……
怪しさマウンテン、山盛りのペトラの言葉…… レイブは傾げっ放しの首の角度を更に深くさせながら答える。
「う、うーん? 師匠やジギィ、ヴノや王様達が有名なのは判るけどさぁー、僕やギレスラって全くの無名だと思うんだけどなぁー、うーん…… まあ良いか、納得する事にするねペトラ! ねっギレスラっ!」
「グガァ♪」
『ほっ』
ええっ! 納得するの? そんな大雑把なっ!
抗議の声は届かない、観察は一方通行なのである…… 無念……
八歳を筆頭に六歳、一歳の揃ってちびっ子スリーマンセルが嬉しそうにしている姿を目にしながら、何も口にする事こそ無い物の、師匠世代の三者は、意味有り気な表情を浮かべるのであった。