ただ静かな雨音が続いた。
そのとき、俺は何も気にしていなかった。ただ無我夢中に走って走って、,,,勝利を掴み取っただけであった。
少し気分が落ちていた時、ある違和感に気がついた。
「アリス」
「まだ何か?」
「君たちは、これまで一度も和解していなかったと?」
「野暮なこと聞かないでちょうだい」
気に触ったのかガチャンと音を立ててティーカップを置いた。少し睨まれたがすぐに目線は外の窓へ向く。
「確かに、仕事をするのはいつもあんた達男共。女は家で守ることしかできないわ。でもね、だからって,,,」
アリスは顔をすぐ近くに寄せてきた。
「なんでもかんでもすぐに収まるだなんてそんな坊ちゃんみたいな考えやめてちょうだい」
そしてツンと唇を触った。
「あらごめんなさい。坊やには早かった話だものね。従順な箱入りプリンセスにはすぐ通じるのだけれど」
「あ、アリス!」
「じゃあねアルフレッド。」
「また明日」
そう言って彼女は手袋をつけひらひらと手を振り再びエレベーターに乗っていった。ふぅとため息をついてスマホを出し 車を呼んで迎えに来てもらった。もうお昼なんかとっくに過ぎていて人通りも少し収まっていた。
「すまないね2度も来てもらうだなんて」
「いいえお気になさらず」
「エミリーのときも君が?」
「はい」
「エミリーは、どうだった?」
「どうと言いますと」
「様子だよ」
「そうですね,,,」
車の運転中ではあったが後ろの座席から声をかけて尋ねた。運転手は悩むような仕草をしていたが信号が青になると同時に話し始める。
「特段、様子など変わったことはありませんでしたが、強いて言うなら少し目が腫れていた,,,ぐらいでしょうね。」
「え?エミリーが?」
「もう家に帰られました。理由を聞きたいのであればお送り致しますが」
「,,,いいや、いいよ!まっすぐまた会場に向かってくれ。」
「明日の設備を見直そう」
ホテル客室内
咳の音と本をめくる音だけが響いていた。
途端にゲボっと音がしてアリスはアーサーの口元に新しいハンカチを当てにいった。
「これで何枚目だと思っているの?」
「う、うるせぇな,,,」
「その体も面倒になったものね。まあ7月初頭の仕事以外はやってくれるのはありがたいのだけれど」
「お前もちょっとは手伝えよな,,,いつまでたっても裁縫ばっかりしやがって」
「あらいいじゃない。結果的にその刺繍が今貴方の汚れが広がらないようにしてあげてるんだから」
「,,,」
再びアリスを睨んだがペロッと舌を出して喧嘩を売っているアリスに再度けしかけることはできずパタリとベッドの中へ吸い込まれていく。
「明日、パーティは11時からだろ」
「そうみたいね」
「10時にはここ出るぞ」
「私、ドレスないわよ」
「,,,は?」
「あなた一人で行って来てちょうだい。エミリーにはあんたの体調がうつったとでも言ってくれたらいいわ」
「ふざけんじゃねぇぞ」
アーサーはアリスの手を引っ張った。
「触るんじゃないわよ。血がつくじゃない」
「とっくに浴びてるくせに」
「はぁ?」
鋭い視線がアーサーに刺さる。
「大体、私は来ないっていつも言ってたじゃないの。それをあんたが勝手にチケット取ってきて、その上他の国にも男女で参加して欲しいだなんて言うからこんなことになったのよ」
アーサーは反論することがなかった。
時は2ヶ月程前に遡る。
ロンドンでの世界会議であった。そのため、アリスは受付にて仕事をこなす。
「Hello」
「こんにちはアリスさん」
「どうもホンダさん。席はN16ですよ」
「ありがとうございますいつもね」
「いえいえ」
手を振って見送る。その次の気配を感じた。
「Hello,,,,,,どうしたのアルフレッド」
「Helloアリス。これを君にね」
「,,,まあまあバースデーチケットね」
「いつも通りだよ。アーサーに会えなかったからね。渡しておいてくれるかい?」
「この後会うでしょう?」
「俺、終わったらすぐに帰んなきゃダメなんだよ〜。頼むんだぞアリス!」
「ちょっと!」
いやいやながらもそのチケットを受け取った。これまで、そのチケットは見ないように過ごしてきたのだ。それを見てしまうと、行きたくなってしまうから。でも、アーサーの体調不良を考慮するために【イングランド不参加】に丸をするしかなかった。
そして会議終了後、ネクタイを緩めているアーサーにチケットを渡した。
「ゲッ,,,こいつも中々しつこいよな。俺が毎年参加するわけでもないのによ、」
「,,,行ってきたらいいじゃない」
「え?」
「別に私を気にする必要も無いし、愛するアルフレッドの晴れ姿を見たいのでしょう?フランシスにでも頼めばいいじゃない」
「は?なんでだよ。それに、あいつの晴れ姿こそ,,,」
「まあそうね。好きなようにしたら?」
「なんだあいつ,,,」
その夜、アーサーはこっそりリビングを見た。とっくに3人の兄は寝静まったころだったが、明かりがまだついていたからだ。ソファに見切れるように見せていたのは金髪の髪の毛。ストレートであるからアリスなことぐらいすぐに分かった。静かに妖精を呼ぶ。
《なぁにアーサー?》《私たち、もう寝ようかと,,,》
「まあ少し待ってくれ。あそこにアリスがいるだろう?なにをしてるのか見てきてくれないか?」
《まあ、いいわよ〜》
「バースデーチケットを、見ていたのか?」
《ええ見てたわ〜》《あのアリスが珍しいわよね》《ね〜》
「そ、そうだったのか。ありがとな。」
妖精に別れを告げたあと、部屋に戻って少し考えた。 そして、今までのこの時期のアリスを思い出す。
「あいつ、本当は行きたかったんじゃなのか?」
アリスとエミリーって話してたとこあったか?いや、それ以前に,,,
エミリーは独立後にこの屋敷に来たことがあったか?
すぐに旅行会社に予約をとる。
「すまないな。今年は2枚頼んだ。」
俺たちのせいだろう。アリスがこうなったのも、エミリーが家へ来にくくなったのも。
ならば、それが分かったとなれば、すぐに行動してあげなければ。
「別に、罪滅ぼしなんかで予約した訳じゃない。お前のことだ。そんな簡単に忘れる訳じゃないからな。だがこれだけは覚えておけアリス」
もう、200年経ってしまったんだよ
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