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ある秋の夜長・・・いつものように鈴子と定正は愛を交わしていた
窓から差し込むほのかな明かりが、二人の影をぼんやり映し出していた
裸で抱き合う、鈴子と定正・・・鈴子は激しいエクスタシーなど感じなくても、定正と肌を合わせる幸福に浸っていた
天井の影は二人の動きに合わせて踊る、影はゆっくりと重なり・・・離れてはまた重なった・・
やがて一つの塊になり、動きを速めた
激しく・・・さらにリズムが刻まれていく・・・
鈴子はもう一人産んでも良いと思っていた・・・今度は女の子がいいと・・・
しかしその日は少し違った
ハァ・・・ハァ・・・「待って・・・少し・・・きゅうけ・・い・・・ウウッ」
そう言って定正は心臓を押えてゴロンッと鈴子の上から転げ落ちた、ぞっとした鈴子は屋敷中に響声で叫んだ
「アナタっ!!誰か!誰か来てーーーーー!!」
・:.。.・:.。.
定正は脳梗塞で昏睡状態に陥ってから一週間生きながらえた
その間鈴子は一睡もしないで定正につきっ切りで子供達と病院に寝泊まりした
定正は完全に意識不明の無力状態だったが、終始鈴子は彼の手を握って一方通行のおしゃべりをやめなかった
彼が自分の世界からいなくなるなんて信じられなかった
きっとまた元気になって微笑んでくれる
この幸せは永遠に続くと思っていた
伊藤ホールディングスは今や副社長となった増田が切り回していた、彼は毎晩定正を見舞い、そして最後にかならず涙ぐんで帰って行った
誰もが希望を失っていた
鈴子だけは最後まであきらめなかった
鈴子は主治医と相談して日本各地から二人の優秀な脳専門医を呼び寄せた、二人は海外にも有名なUCLA医療センターに属するその道の権威だった
その二人が諦め、同じ診断を下しても鈴子は聞き入れなかった
夫は必ず良くなる・・・良くなってまた私に微笑んでくれる
鈴子は信じて疑わなかった
しかし二週間後・・・定正は還らぬ人となった