第3話:崩れた秩序
都市が、沈黙した。
電光掲示板は黒く染まり、信号は点灯しない。
衛星は反応を絶ち、スマートフォンは同時に「無応答」へと変わった。
それは、杭が落ちてからちょうど72時間後のことだった。
世界中で、“秩序”が動作を止めた。
――日本、千葉湾岸部。
かつて先端都市と呼ばれた場所に、少年がひとり立っていた。
その名は、タカハシ・ユウト。
ストレートな黒髪に、薄いグレーのパーカーと黒のジャケット。
小さなフラクタル制御デバイスを腰に下げ、左腕には記録用の端末を巻いている。
彼の背後には、地割れと黒煙、そして群衆の叫び。
「もう……何も、動かない」
そう呟く声に、すずかAIの音声が返ってきた
「第3信号帯消失。都市機能制御系、完全停止を確認。
現在、世界の“管理コード”の80%以上が無力化されています」
ユウトは、壊れた街の中を見渡した。
誰もが恐怖に包まれ、秩序が崩れたことで**“判断”が奪われている。**
だがそれ以上に、彼の目を引いたのは――
自律行動を始めた碧族兵の暴走だった。
数人の碧族兵が、命令が途切れたことで**“過去の記憶”を勝手に参照し始めている。**
コードの暴走がはじまり、その出力が都市機能の残骸にまで被害を及ぼしていた。
《CODE = LOCATION_RESET(199X_VERSION)》
《OBJECT = STRUCTURE_CITYBLOCK03》
→ 地面に杭状の構造物が再生成され、建物が“記憶の通り”に置き換わる
コンクリートがねじれ、建物が“古い街並みに戻る”。
それはかつて、その碧族が見た“思い出の風景”だった。
しかし――その中に人間の住まいはなかった。
「やばい……このままじゃ、人ごと街が“過去”に書き換えられる……!」
ユウトはコードを展開した。
《FRACTAL_ACT = BARRIER_CONTAINMENT()》
《SET = ENERGY(10), DURATION(180sec)》
《LIFE_COST = 3DAYS》
フラクタルが放たれ、彼の周囲に蒼い球状の結界が形成される。
それは侵蝕された建物の変化を一時停止させ、被害の拡大を止めた。
すずかAIが冷静に言う。
「今、命令がなくても動ける者だけが“希望”です。
世界の都市は壊れました。けれど、人間の“判断”までは壊れていません」
ユウトは叫んだ。
「だったら、止められる……! 今だけでも!」
彼のフラクタルは不完全で、小さな力かもしれない。
それでも、“都市を守りたい”という想いだけは、杭にすら届こうとしていた。
街は崩れ、碧族は暴走し、世界は命令を失った。
だけど、まだひとり――判断する者が、ここにいる。
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