テラーノベル
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「コロナリータが貴方の父に何かをされたのだとすれば……彼女の存在そのものも、その名に付随するカクテル言葉通りの運命を辿っている、と?」
「ええ……でも、おかしなことに、コロナリータという酒にそんな言葉があったかしら。私の記憶にはないのだけど」
アルベルトは歩みを止めず、視線を虚空へ泳がせて思考の海に潜った。
機械のように精密な彼の知識が、情報の断片を瞬時に精査していく。
「……コロナリータというお酒自体に、独立したカクテル言葉は存在しません。ですが、ひとつだけ、気になることが」
「気になること?」
「これはあくまでも、推測ですが……」
アルベルトの声が、一段と冷徹な響きを帯びる。
「コロナリータとは、以前も説明した通り、フローズン・マルガリータのグラスに小瓶を『逆さま』に突き刺した奇抜なカクテルです。……もし、その『逆さま』という構造そのものに意味があるとしたら」
「……どういうこと?」
「もしかすると、彼女の言っていることはすべて『逆』。あるいは、攻撃を仕掛けてくるならば、因果を反転させるか、認識を裏返してくるような魔法を繰り出す可能性が極めて高いということです」
「……アルベルトにしては、随分と飛躍した推測ね。けれど、今のあの子の胡散臭さを考えれば、的外れとも言い切れないわ」
「……でも、だとしたら、今私たちが案内されているこの道も、安全な出口どころか、最悪の罠に嵌められている最中っていうことじゃない?」
背筋を氷の指でなぞられたような戦慄が走る。
そこへ、私たちの後ろを所在なげに歩いていたダイキリが、空気を読まない明るい声で割って入ってきた。
「ちょっとぉ! お二人で何をさっきからコソコソ話してるんですか〜? 私を仲間外れにしないでくださいよ!」
「ダイキリ、静かに。……さっきからもう何分も歩いているのに、景色が全く変わらないことに、違和感を感じない?」
「言われてみれば? 確かに変ですけど……霧のせいじゃないんですか?」
「そうかしら。ずっと先が見えないし、足音も反響しすぎている。やっぱり何かの罠に嵌められているのかも───」
私がダイキリの方を向き、警戒を促そうとした、その時だった。
前方を歩いていたコロナリータの背中が、霧の中に溶けるようにして不自然に静止した。
彼女がゆっくりと振り返る。
その顔には、先ほどまでの無邪気な笑顔が嘘のように消え失せ
代わりに、上下が逆さまになったような、歪で、狂気的な笑みが張り付いていた。
「……あは。バレちゃいました? でも、遅いですよ。ここはもう、あたしのグラスの中なんですから」
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