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「いってきます 」
靴を履いて、玄関を出る。夏休みは少し前に終わりを告げ、9月というのに真夏のような日差しが私を突き刺す。一応そろそろ秋だから、もう少し優しい日差しでもいいのに。どうにもならない重さのリュックを背負って学校へと歩く。置き勉、どうしてダメなのだろうか。去年置き勉をできるようにすると公約を掲げた3年生の生徒会書記は今頃何をしているのだろうか。まぁ、公約なんてそんなものか。
何となく臭い昇降口に入る。室内とだけあって、外よりかは涼しい。と、言っても暑いものは暑い。下駄箱に靴を入れて、上履きに履き替えて、2年生のフロアまで階段を上る。踊り場にある鏡でヘアセットが崩れてないか一応確認する。ヘアセットと言っても、固めてる訳でもないから、だいたいアホ毛がある。思春期女子の、申し訳程度の女子力だ。自分の席にリュックを置いて、廊下にある窓を開ける。生ぬるい風が私の髪を微かに揺らす。
この日本は
あと1年以内に、滅亡するらしい。
窓から昇降口前を眺める。昇降口へ人が入っていく。頑張って彼女の姿を探す。彼女は朝のガヤガヤした時間が嫌いらしく、遅刻しない、時間を持て余さない、程度の時間に来る。5分前に来ればそれは早い方なレベル。たまにチャイムに間に合わない。おはようございますと同時に駆け込んでくることもある。それでも彼女は優等生の地位を確立していた。
朝の昇降口から彼女の姿を見つける。私は階段を駆け下りる。今日は早い日だ。…何かあったか。漢字の小テスト?いや、それは今日じゃない。明日。英語の小テスト?ううん、これは先週終わった。じゃあ提出物か?…そんなものいちいち覚えてないよ。というかまだ時間あると思う。期末テストまで2週間だからこんなタイミングでは出してこない、先生側も。下駄箱の近くの掲示板前にポスターを眺めるように立つ。靴を履き替える彼女はもう気づいていることだろう。
「いのり、ポスター見るふりしても意味ないよ」
ほら、言った通り。
「おはよ、 あかね」
「うん、おはよ」
「早いね」
「そう、なんかね、今日だけ」
もうちょっと余裕を持って学校に来れないものなのか。そうしたら朝からスライディングセーフみたいな芸当しなくて済むだろうに。彼女、あかねならそんな簡単なこと気づいているはずだろう。そこまで朝の時間が嫌いなのか。本でも読んどけよ、優等生。
「腕のー…あれは?」
「あー、生徒会の腕章。」
「そうそれ」
「上でつける」
「あ、そ」
あかねが朝から遅刻ギリギリでも、チャイムの音と同時に転げこんできても、優等生の地位が揺るがない圧倒的な理由。それは生徒会役員だから、が1番の理由だと思う。確かにそれ以外もあるだろうが、“生徒会書記”という肩書きは、やっぱり大きい。単純に書記って、かっこいいと思う。本人曰く3年の書記が有能すぎて仕事があまりないらしい。公約、実現されてないけどな。そんなものか。うん、きっとそんなものだな。そういうと、あかねもどんな公約を掲げてたっけ。1年近く前、もう思い出せない。
教室について、時計を見ると朝のホームルームまであと5分だった。
「あかね、お前偉いよ。5分前。賞賛に値するよ。」
「え、私の事ナメてる?」
リュックの中身を整理しながら困惑した表情で私を見る。こんな偉そうなこと言ってるけど、あかねの方が頭いいし人望もある。尊敬していないことはないけど、本人に尊敬してるって言うのは超癪に障る。なんかやだ。
もう2分前だから自席に戻った。あかねはただぼんやりと教卓を眺めている。あかねが優等生の地位を築けたのは、ただ去年一匹狼(正式には友達が居ないだけ)すぎてやりたくもないワークをやってたりしてたからじゃないかと思っている節もある。なんか、別に頭が特別いい訳じゃないもん、あかねって。悪くないけど、いや、いいんだろうけど…中の上?くらい。私、何様だ?私は下の上か中の下だけど。そう思うと、あかねがすごく頭がいい気がしてくる。あかねより学級委員の方が頭いいな。でも面白さはあかねの方があると思う。ん?あかねは本当に優等生のポジションに居るのか?
朝のチャイムがなる。それと同時に学級委員が号令をかける。おはようございます、の声はほとんど聞こえない。もう2年生の9月だから。みんな面倒くさくなってきているのだろう。何となく先生が明日漢字の小テストがあるだとか、どこかの委員会が放課後集まるだとか連絡していた。ちゃんと耳を傾けている人はどれくらいいるのだろうか。
来週は期末テストだって。終わった。
提出物大丈夫かな。部活もない。どうしよう。
勉強しなきゃいけないことくらいわかっている。
でも部活がないと、私の存在意義がわからない。
なんにもない。何者にもなれない。
どうしよう。苦しい。
そんな自分が許せない。
あかねは、大丈夫なんだろうか。
あぁ、憂鬱だ。