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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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「ああ!なんたること!まんまとしてやられたわっ!!」


守孝《もりたか》の、憤りは、相当なものだった。


しかし、周りにいる、紗奈《さな》達には、なぜ、そこまで、気分を害しているのかわからない。


常春《つねはる》が、おそるおそる、守孝へ、声をかけた。


「ああ、常春や、きっと、お前の言うことが、正しいのだろう。そう、すべて、唐下がりの香のせい、なのだ」


こくこくと、姫猫が、頷いている。


「じゃあ、兄様が、言われたように、内大臣家には、姫君など、やっぱり、いなかった……」


あれ?やっぱり……?


紗奈は、自身が発した言葉に首をかしげた。


なぜ、やっぱり、などと、言ったのだろう。


「あーーー!新《あらた》がっ!」


確か、荷運びの休憩小屋で、新、始め、頭《あたま》達が、内大臣家に、姫君などいないだろうにと、物議をかもしたはず。


紗奈は、うっと、言葉に詰まった。


「紗奈……?無理しなくて良い。姫猫に、話してもらえば良いのだから……」


言いながら、常春は、紗奈の背をそっと撫でる。


紗奈は、思い出していた。


いや、正しくは、思い出してしまった、のだ。


あの、新に、襲われかけた時の事を──。


「あ、兄様……」


ポツリと、紗奈の頬に涙が伝わった。


「……大丈夫。もう何もない。そして、私もいるからね」


兄の言葉に、紗奈は、うんうんと、頷くしかできないでいた。


「常春や、紗奈は、どうしたというのだ?」


守孝が、紗奈の異変に、何事かと身を乗り出して来る。


「だからあーー!ここの、誰だか、なんだか、わかんない、姫君のせいで、ひどい目にあったんですっっ!!タマなんか、死んだことになって、葬られるところだったんですからーー!!!」


「なにやら、それは、難儀な話。よほどのことが、あったのだなあ。紗奈よ、大丈夫か?もう、話をやめて、歌でも詠むか?」


「あーだったら、景気づけに、菓子でもたべましょうーー!!」


タマが、コロリと仰向けになった。一の姫猫が、側に行き、前足を、タマ腹に突っ込んでいる。


「おおおおーーーー!!!」


正平が、雄叫びのような、驚きの声を上げた。


タマの腹に、ぽっかりと空いた穴から、一の姫猫が、前足を器用に使って、何か、取り出している。


「もしや、それが、秘密袋というやつか?!」


守孝も、目を丸くしている。


コロンコロンと、何かが、出てくる。


「うん、これぐらいだったかなあー」


タマの腹から出てきた物は、揚げ菓子や、焼き菓子だった。


「さあ、食べましょう!タマが、あちこちで、もらったものですよー」


と、言われても……。食べるにはかなり、勇気がいるのだが。


「ああ、私は、酒で腹一杯だ」


守孝が言う。


「うーん、私達も、今はひもじくないからなぁー」


常春が、言う。


「じゃ、正平様、食べましょうか!皆いらないって言ってますよ!」


「い、いや、私は……、そ、そうだ、タマが、食べなさい。タマがもらった物なのだから」


あっ、タマ一人占めで、いいのかなぁー、じゃあ、一の姫猫もどうぞ、などと、タマは、なごんでいる。


「おお、それが、良い、それが、良い」


ホホホホ、と、袖を口元に当てて、守孝は、笑っていたが、タマと、一の姫猫が、菓子を食べ始めるのを確認すると、常春、と、言った。


「はい、では、お話し願えるのですね?」


うむと、守孝は、答えるが、


「ただな、姫君が、いる、と、私も思っていたので、そこは、わからんのだ」


と、困った顔をした。


「あ??えーと、姫君は、一の姫君だそうですよ」


カリカリと、菓子にかじりつきながら、タマが答える。


隣で、一の姫猫が、ニャーと、鳴いた。


「……しかし、一の姫君は……、小上臈《こじょうろう》様だぞ?禁中でお仕えしているのだから……」


守孝の呟きに、常春と、紗奈のは、息を飲む。


更に、その後ろでは……、


「ああ、や、やはり、正平は、これにて、おいとまを!!お身内の話に、これ以上は、加われませぬっ!!!」


慌てて、立ち上がった。


「い、いや、それは!正平様は、方違えにて、こちらへ、いらしているのです、立ち去るのは、我らの方!」


常春が、正平を止めた。


「いやいや、まてまて、二人とも、そもそもだなぁ、方違えにて、なぜ、わざわざ、内大臣家に、立ち寄ったのか?じゃろ?」


「ですから、守孝様、それは、方位の吉凶の問題であり……」


「常春よ、別に、隣でも、裏でも、他の屋敷で良かっただろう?さして、方位に、差は出んだろうに?」


守孝と、常春のやりとりに、あわわーー!と、正平は、慌てふためき、平伏し、


「も、申し訳ございませぬ!!その通りでございます!!」


と、叫んだ。

羽林家(うりんけ)の姫君~謎解き時々恋の話~

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