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「ああ!なんたること!まんまとしてやられたわっ!!」
守孝《もりたか》の、憤りは、相当なものだった。
しかし、周りにいる、紗奈《さな》達には、なぜ、そこまで、気分を害しているのかわからない。
常春《つねはる》が、おそるおそる、守孝へ、声をかけた。
「ああ、常春や、きっと、お前の言うことが、正しいのだろう。そう、すべて、唐下がりの香のせい、なのだ」
こくこくと、姫猫が、頷いている。
「じゃあ、兄様が、言われたように、内大臣家には、姫君など、やっぱり、いなかった……」
あれ?やっぱり……?
紗奈は、自身が発した言葉に首をかしげた。
なぜ、やっぱり、などと、言ったのだろう。
「あーーー!新《あらた》がっ!」
確か、荷運びの休憩小屋で、新、始め、頭《あたま》達が、内大臣家に、姫君などいないだろうにと、物議をかもしたはず。
紗奈は、うっと、言葉に詰まった。
「紗奈……?無理しなくて良い。姫猫に、話してもらえば良いのだから……」
言いながら、常春は、紗奈の背をそっと撫でる。
紗奈は、思い出していた。
いや、正しくは、思い出してしまった、のだ。
あの、新に、襲われかけた時の事を──。
「あ、兄様……」
ポツリと、紗奈の頬に涙が伝わった。
「……大丈夫。もう何もない。そして、私もいるからね」
兄の言葉に、紗奈は、うんうんと、頷くしかできないでいた。
「常春や、紗奈は、どうしたというのだ?」
守孝が、紗奈の異変に、何事かと身を乗り出して来る。
「だからあーー!ここの、誰だか、なんだか、わかんない、姫君のせいで、ひどい目にあったんですっっ!!タマなんか、死んだことになって、葬られるところだったんですからーー!!!」
「なにやら、それは、難儀な話。よほどのことが、あったのだなあ。紗奈よ、大丈夫か?もう、話をやめて、歌でも詠むか?」
「あーだったら、景気づけに、菓子でもたべましょうーー!!」
タマが、コロリと仰向けになった。一の姫猫が、側に行き、前足を、タマ腹に突っ込んでいる。
「おおおおーーーー!!!」
正平が、雄叫びのような、驚きの声を上げた。
タマの腹に、ぽっかりと空いた穴から、一の姫猫が、前足を器用に使って、何か、取り出している。
「もしや、それが、秘密袋というやつか?!」
守孝も、目を丸くしている。
コロンコロンと、何かが、出てくる。
「うん、これぐらいだったかなあー」
タマの腹から出てきた物は、揚げ菓子や、焼き菓子だった。
「さあ、食べましょう!タマが、あちこちで、もらったものですよー」
と、言われても……。食べるにはかなり、勇気がいるのだが。
「ああ、私は、酒で腹一杯だ」
守孝が言う。
「うーん、私達も、今はひもじくないからなぁー」
常春が、言う。
「じゃ、正平様、食べましょうか!皆いらないって言ってますよ!」
「い、いや、私は……、そ、そうだ、タマが、食べなさい。タマがもらった物なのだから」
あっ、タマ一人占めで、いいのかなぁー、じゃあ、一の姫猫もどうぞ、などと、タマは、なごんでいる。
「おお、それが、良い、それが、良い」
ホホホホ、と、袖を口元に当てて、守孝は、笑っていたが、タマと、一の姫猫が、菓子を食べ始めるのを確認すると、常春、と、言った。
「はい、では、お話し願えるのですね?」
うむと、守孝は、答えるが、
「ただな、姫君が、いる、と、私も思っていたので、そこは、わからんのだ」
と、困った顔をした。
「あ??えーと、姫君は、一の姫君だそうですよ」
カリカリと、菓子にかじりつきながら、タマが答える。
隣で、一の姫猫が、ニャーと、鳴いた。
「……しかし、一の姫君は……、小上臈《こじょうろう》様だぞ?禁中でお仕えしているのだから……」
守孝の呟きに、常春と、紗奈のは、息を飲む。
更に、その後ろでは……、
「ああ、や、やはり、正平は、これにて、おいとまを!!お身内の話に、これ以上は、加われませぬっ!!!」
慌てて、立ち上がった。
「い、いや、それは!正平様は、方違えにて、こちらへ、いらしているのです、立ち去るのは、我らの方!」
常春が、正平を止めた。
「いやいや、まてまて、二人とも、そもそもだなぁ、方違えにて、なぜ、わざわざ、内大臣家に、立ち寄ったのか?じゃろ?」
「ですから、守孝様、それは、方位の吉凶の問題であり……」
「常春よ、別に、隣でも、裏でも、他の屋敷で良かっただろう?さして、方位に、差は出んだろうに?」
守孝と、常春のやりとりに、あわわーー!と、正平は、慌てふためき、平伏し、
「も、申し訳ございませぬ!!その通りでございます!!」
と、叫んだ。