テラーノベル
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ちぃこの家は何人かの村人で使っていたようだが、今はちぃこと安田と二人で暮らしている。大きさは奥原の家と同じくらいで内装も似たようなものだった。
「わぁ、いらっしゃーい」
安田は外で働いているのかちぃこは一人で努と梶が来たことを喜んでいた。手早く三人分のお茶を用意してちょこんと座る。
「長岡、お前が聞け」
予想通りの梶の命令。
「はい。ちぃこ、ケツシやアオ様のことについて色々聞きたいんだ」
「うん、いいよ?」
ちぃこは小首をかしげる。愛らしい姿だ。
「えーっと、まず、ケツシってなんなの?」
「え? 知らないよ?」
意外な返答に努はポカンとした。
「え? あれ? ちぃこはケツシなんだよね?」
「そうだよ?」
「じゃあ、ケツシの名前の意味とかアオ様との関係とかってどうなの?」
「うーん、よくわからないよ?」
「ほら、巫女みたいとかって言ってたじゃない」
「そっかー、ケツシ? 名前はそう呼ばれただけだよ? 関係は巫女みたいに声を聞いたりするの」
「つまり、名前はアオ様が決めてそう呼んでいる。アオ様との関係は一方的に命令されて、それに従うってことかな?」
「そうだよ?」
ちぃこはニコッと笑う。疑問っぽい返答の仕方は癖なのか、いまいち会話がやりにくかった。
「ちぃこはいつからケツシになったの?」
「うーん、覚えてないよ? 気がついたら声が聞こえるようになっていたの」
「それは何年か前から? それとも最近?」
「うーん、一年くらい前かな?」
「最初はなんて言われたの?」
「うーん、お前はケツシだーって?」
ちぃこの返答はやけに適当に思えた。ただ、ちぃこの見た目やしゃべり方からそう思えるだけかもしれないし、真実かどうか確認のしようもなかった。
「僕らをこの村に連れて来たのは何か理由があるの? それとも偶然?」
「うーん、両方かな?」
「両方? 誰か連れて来いと命令されていて、ちょうど僕らが車で山道を通ったから?」
「そんな感じかなー?」
「声は? アオ様の声はどんな感じ?」
「うーん、中年の男性?」
訊いたことは答えてくれるけど掴み所のないちぃこの返答。努が質問を続けようとすると梶が手を上げて遮った。
「俺からもいくつか訊きたい」
「はぁい」
ちぃこは仏頂面の梶に顔を向けてニコッと笑う。
「どうして組の金に手をつけた」
それは意外な質問だった。いまさらそんなことを訊いて何の意味があるかわからなかった。でも今は梶の知性を知っているので何か理由があるのだろうと思って黙って聞いていた。
「お金は大事だよ?」
「金は何に使った?」
「あはは、忘れちゃったよ?」
梶を相手によくそんな態度がとれるなと勝手に心配する努。
「……ちぃこ、本名はなんと言う?」
「ちぃこはちぃこだよ?」
「親は? 親の名前や出身地はどこだ?」
「うーん、忘れちゃった?」
ペロッと舌を出す。いつ梶がキレて暴れ出さないかドキドキしながらやりとりを見ていた。
「……ケツシになる前の記憶はあるのか?」
「……」
ちぃこは笑顔のまま固まっていた。
「うーん、ちぃこ疲れちゃったよ?」
「そうか、長岡、ケツシ様がお疲れだそうだ」
「え? あ、はい」
「ちぃこ、邪魔したな。長岡、行くぞ」
固まった笑顔のまま手を振るちぃこを背に二人は家を出て行った。
「梶さん、どういうことですか? ちぃこはケツシになったときに記憶を失ったってことですか?」
「たぶんな。記憶喪失といっても種類があって、箸の持ち方すら忘れる全記憶喪失もあれば自分に関することだけを忘れるパーソナル記憶喪失もある。ちぃこはソレだろう」
「そういえば、言動が少しおかしいですもんね」
「それにしては……まあいい、今後もお前がちぃこを探れ」
「はい」
こうして梶と分かれてお堂に戻っていった。
#因習村
八頭道尾
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コメント
1件
ちぃこの「うーん」でごまかすような返し、めっちゃ不気味で好きです……。記憶を失ってるっぽいところとか、あの固まった笑顔がゾッとしました。梶さんの観察力もさすがで、二人の会話からじわじわ謎が深まっていく感じがたまらないです🥀