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『エントリーナンバー二十番、音羽奏。曲目はA.スクリャービン作曲、十二の練習曲、作品番号八より十二曲目『悲愴』。S.ラフマニノフ作曲、十の前奏曲、作品番号二十三より四曲目ニ長調、六曲目変ホ長調。本田雅人作曲、WHEN I THINK OF YOU』
舞台上が明転すると、奏が髪を夜会巻きにし、薔薇の刺繍が施されたボルドーのロングドレスの裾を靡かせながら、ステージ中央へと向かってきた。
一階席全体に視線を送ると奏はゆっくり一礼し、椅子に腰掛けると足元を確認するかのように見た後、手をギュッと握りしめ、演奏を始めた。
(うわぁ……奏ちゃん、ドレスを着て演奏している姿、綺麗だし、カッコいいなぁ)
奏の演奏に釘付けになっている瑠衣は、チラリと横目で侑を見ると、彼は舞台上を無表情のまま凝視し、顎に手を添えながら演奏を聴いている。
更に中央列の一番端の座席にいる怜に視線をやると、食い入るように演奏を聴いているのか、身体が若干前のめりになっているようにも見える。
ピアノ独奏は、なかなか聴く機会のなかった瑠衣にとって、新鮮な気持ちでいっぱいだった。
身体全体と腕をしなやかに動かし、それはまるで奏が怜に想いを音で伝えているようにも見える。
(こういう表現豊かな演奏、私もできるようになりたいな……)
演奏する楽器が違うとはいえ、瑠衣にとっても刺激を受けた奏のピアノ演奏。
特に、最後の楽曲『WHEN I THINK OF YOU』を演奏している奏は、怜への想いが溢れんばかりの演奏だと瑠衣は感じていた。
全ての楽曲の演奏が終了した奏は、椅子から立ち上がり、一礼して舞台袖へと消えていった。
『これをもちまして、全出場者のプログラムが終了しました。これから審査に入りますので、今しばらくお待ちください』
ホールが明転し、司会者のアナウンスが流れる。
「せっかくだし、音羽さんに挨拶してから帰ろう」
「そうですね。そうしましょう」
侑と瑠衣は立ち上がり、ホールから出て舞台袖へ通じる通路へと向かっていった。