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第4話「スズメ通学路」
夕方の帰り道。風間琴葉は、見慣れた路地に差し掛かってふと立ち止まる。
「……ここ、通学路だったなあ」
中学生の頃、毎朝通ったこの道。小さな用水路沿い、桜の枝がせり出す並木道。ふと思い出すのは、いつも決まってひとつ隣を歩いていた、無口な少年のこと。
名前も、声も、知らないままだった。
そのときだった。
「……久しぶり」
木の陰から現れたのは、短めの茶髪にベージュのパーカー、黒い斜め掛けバッグを持った少年。どこかで見たような、でも記憶が曖昧な目元——ぱちっとした二重に、少し垂れ気味のまつげ。肌は健康的で、小柄な体つき。
「……え?」
「ぼく、あの頃となりを歩いてたスズメ。擬人化してみた」
琴葉は目を見開いた。
「……すずめ?」
「そう。ずっと、人間の学校ってどんなところだろうって思ってた。君が歩いてたから、ついていってたんだ」
「え、まって、それストーカー……」
「……ちがう、たまたま通学路が一緒なだけ……!」
言い訳するように手をバタつかせるその姿は、まさに羽ばたくスズメ。必死で弁解する様子に、琴葉は思わず笑ってしまう。
「……やっぱり、あのときの子だ。いつも黙って隣を歩いてたもん」
「声をかけたかった。でも、鳥って知られたら、嫌がられると思って」
その目は、少しだけ翳っていた。
「人間って、遠いなあって思ってた。でも君のことは、遠くなかった」
桜の枝が、頭上で揺れる。
「だから今日、もう一回だけ隣を歩きたいなって」
琴葉は並んで歩き出す。足音が小さく揃うのを感じる。
それはきっと——以前から変わらない、通学路のリズム。