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「さて、一区切り付いたところで、侑と九條さん、調整した楽器を試奏してもらってもいいか?」
怜が立ち上がり、リペアの作業部屋へと三人を案内した。
使い込まれた机に背もたれのない椅子、様々な管楽器のパーツが所狭しと置かれている棚にビックリしながら、キョロキョロとリペア作業部屋を見回す瑠衣。
楽器を受け取り、まずは侑が試奏をすると、『もしかして音が出しにくいか? ちょっと貸してみ?』と怜が言い、工具を使って繊細な力加減で調整していく。
作業部屋の隅で、奏が侑の試奏している姿を見て、『うわぁ……やっぱり響野先生は凄いんですけど!』と言葉を漏らしている。
何度かの調整の末、怜も侑も納得したのか、『おお、いいじゃん』と言いながらクシャリと笑う。
次に瑠衣が試奏すると、怜は木槌を用いて細かく調整しながら『いいねぇ。V.B社のラッパじゃん』と独りごちる。
(うわぁ…………職人さんだぁ……)
イケメンの顔立ちに相反した無骨な手を見ながら、彼の生き様のようなものを感じた瑠衣。
怜に調整してもらった楽器を再び試奏してみると、以前よりも音が出しやすくなっている。
「怜、本当に助かった。ありがとうな」
「葉山さん、ありがとうございました」
「ラッパのリペアと調整は、俺もまだまだ勉強中だし、二人の役に立てて良かったよ。奏の楽器はオーバーホールしたけどな」
怜の言葉に、部屋の隅で様子を見ていた奏が嬉しそうに笑みを深める。
「響野先生と九條さんを見てたら、またトランペット吹きたくなっちゃったんですけど!」
奏の快活な話ぶりに何かを感じたのか、侑は瑠衣に眼差しを向けた後、奏の目力の強い瞳を見つめながら話を持ち掛けた。
「音羽さん。九條は今、事情があって俺の家に身を寄せている。九條が出場するコンクールの伴奏者として音羽さんを怜に紹介してもらったが、時々で構わない。練習以外でも九條と会ってやってくれないだろうか」
恩師を見上げ、目を見開きつつ、瑠衣は様子を伺うように奏を見つめていると、更に侑が言葉を繋げる。
「初対面の人と話すのが苦手な俺の弟子が、音羽さんとは打ち解けているようだし、あなたもトランペット経験者だ。一緒に練習したり、吹奏楽や音楽の話以外にも、雑談ができる友人が今の九條に必要だと思っている。俺がこんな事をお願いするのもおかしな話ではあるが、考えてみてくれないか?」
侑の話に、奏は漆黒の瞳を更に大きくさせながら言葉を彼へ向けた。
「私で良ければ是非……! コンペティションの練習もありますが、うまく時間調整したいと思います。瑠衣ちゃんと今日初めて会って、もっとお話してみたいと思ってますし……って、名前呼びしちゃった」