テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#シクフォニ
らの(腐女子)
249
5,423
#悪役
にこ
8,545
翌日――
再び俺はロードレス砦にて、バルト将軍にしごかれていた。
甲冑を着て渓谷周りを行軍したり、近くの湖を泳がされたりとあまりの無茶に、地面へとぶっ倒れてしまう。
「立て、立つんだ王子! この程度でへこたれていては帝国は背負えぬ!」
「もう立てません将軍!」
「フレアボム!」
「!」
すぐに飛び上がって起きると、俺が寝転がっていた地面が爆発する。火球を放ったバルト将軍は、手を突き出した状態でフンと鼻を鳴らす。
「立てるではないか。今のはなかなか機敏な回避だったぞ!」
「ふざけるな、避けなきゃ死んでただろうがクソジジイ!」
「デスブリンガー!」
将軍の後ろに漆黒の剣が10本ほど浮き上がり、その全てがミサイルのように俺に襲いかかってくる。
なんとか全弾回避しきるも、訓練服はボロボロにされていた。
「上官への口の利き方がなっていない。例え王子でも、この砦にいる限りはワシの部下と同等に扱う。わかったな!」
「はいはいわかりましたよ」
「はいが多い!」
「わかりましたサー!」
くそ、無茶苦茶しやがって。普通魔法を使って脅すことはあっても、実際に撃つことなんてそうそうないぞ。
しかもこのジジイ、俺が課題をこなせばその分ギアを上げてきやがる。
こういう特訓パートって、ゲームだとミニキャラのアニメーションが入って成功か失敗かの判定がでるだけだが、実際やらされるとキツさがエグい。
その後も石背負ってウサギ跳びとか、昭和の特訓をさせられてもうヘロヘロになっていた。
「もうダメだ、立ち上がれないサー」
「根性のない、まるで野垂れ死んだブタのような姿だ」
くそ、このジジイ俺が王になったら絶対左遷だ。どこか南の果てにある無人島に送ってやる。
「せっかく今日はフリーデと組手をやらせようと思ったのに」
「なんですとサー」
「また起き上がったな」
バルト将軍がニヤリと笑う。まんまと釣られた形だが、これは乗るしかない。
「フリーデ! 王子と手合わせをしてやれ」
バルト将軍が呼びかけると、訓練場の端で談笑していた騎士たちの間から、一人の女性が前に出た。
漆黒に赤のラインが入った帝国軍軍服にタイトスカート、網タイツにハイヒールとばっちり制服を着こなす。金髪の短い髪は宝塚スターのようにも見え、蒼海のような瞳が俺を見据えている。鋭さと冷静さを兼ね備えた表情。まさしく凛々しい女騎士、といった風貌だ。
「フリーデ・アイゼンベルグ、お相手いたします」
「う~む強そうだ」
彼女は革製の手袋をキュッとはめ直すと、俺と向かい合う。
お互い無手、武器を使用しないステゴロ勝負。
「王子よ、フリーデに勝てれば今後訓練はフリーデに見させても構わん」
「本当かジジイ。いえ、将軍」
「ワシに二言はない。何ならビキニでマンツーマンで教師をさせても構わぬ」
俺の頭にフリーデ将軍との、ビキニ訓練が想像される。なんて甘美な。今の鬼将軍にしごかれ倒す状況と比べたら天国。
「よーしやるぞ! 女将軍がなんぼのもんじゃい!」
「その意気だ王子」
「父上、あまり適当なことをおっしゃらないで下さい」
ハスキーボイスなフリーデは、また始まったと言わんばかりに肩をすくめてみせる。
「ワシは負けたら本気でお前にやらせるぞ。貴様の隊も連帯責任だ、全員やらせる」
「自分が言っているのは、万が一にもないことを言って王子をその気にさせていることです」
フリーデは全くと呆れながら拳を構える。
俺はこの地獄から解放されるなら、帝国の将軍でも倒して見せる。そう鼻息荒く彼女を見据える。
「行くぞ! ここにいる女騎士全員ビキニとハイレグのドスケベ騎士団にしてやるぜ!」
俺はイノシシの如く、大地を蹴り猛烈な突進攻撃を行う。が
――ドスッ!
「ぐはっ!」
腹に強い痛みが走ったと思った瞬間、視界が揺れる。気がつけば地面が目の前にあった。
(カウンター入れられた……のか?)
突進に合わせて鳩尾を殴られ、体がくの字に折れ曲がった瞬間地面に叩きつけられた。そもそも拳を振りかぶる動作すら見えなかった。俺は地面に転がりながら、痛む腹を押さえてもんどりうつ。
「うごごごご、腹が……脂肪がなければ即死だった」
「もう終わりですか? 勇ましくハイレグにしてやるとか言ってかかってきましたが」
「ちょ、待った待った!」
俺はなんとか立ち上がり、拳を構え直す。フリーデは一歩も動かず、ただ静かに俺を見ていた。
やばい、今俺はとんでもないレベル差を感じている。
レベル15くらいで、ゲーム後半のボスキャラとやりあっている気分。手も足も出ないとは、まさにこのこと。
このままでは、何も出来ないまま再び地獄の訓練へと戻ってしまう。
「もう終わりか王子。その程度では100年経ってもフリーデには勝てぬぞ!」
パワハラジジイは、根性を出せと煽ってくる。
こっちだって爪痕の一つも残せず終わってたまるか。
「負けてたまるかよ」
「気合でどうにかなる実力差ではありません」
それはその通り、このまま突っ込んだところで結果は見えている。その時、俺はふとナハトの催眠術を思い出す。
訓練着のポケットに手をいれると、昨日作った振り子コインが入っていた。
当たり前だが、この状況でフリーデに向かって今すぐ負けろと催眠をかけても無駄。
なら
「俺は大鷲、空の王者大鷲」
俺は自身の前で振り子を揺らし、自己暗示をかける。
その様子をフリーデ含むバルト将軍も怪訝な目で見やる。
「何をやっとるんじゃ王子?」
「自己暗示。よし、多分かかった。行くぞ!!」
俺はうぉぉぉぉっ! と再びダッシュ。その様子を見て、フリーデは「学習能力がないな」とため息を付く。
彼女は先程と同じく、カウンターの構え。
俺は彼女のカウンター射程ぎりぎりまで入ると、脚力を爆発させる。
「カロリーバーストエリアルジャンプ!」
「なっ!?」
天高く飛び上がった俺は、空から襲いかかる。
人間の目は、左右の動きには強いが上下の動きに弱い。恐らく一瞬消えたと思っただろう。
10メートル近く飛び上がった俺は、両手を伸ばし頭から急降下するスーパーマンスタイルで強襲。
「その胸貰った! イーグル拳!」
イーグル拳とは、猛禽類大鷲がネズミを捉えるかのごとく、獲物に襲いかかる拳法である。
大鷲の足の形を模した俺の両手はフリーデのバストに触れ、一揉み、二揉み、三揉み、四揉み(この間0.5秒)大鷲の如く音速を超える乳揉みを実現する。5揉みめで、彼女のエルボーが俺の頭に突き刺さる。
「ぐえっ!」
「何をしているのです。攻撃をしなさい」
結局フリーデに勝つことはできなかったものの、試合に負けて勝負に勝った気分になっていた。
◇
その日の夕方、パワハラジジイの訓練を終え、なんとか砦の食堂で飯を食っていた。
「飯もまずいし、最悪だなこの砦は」
鶏肉とブロッコリーに文句を言っていると、一緒に訓練していた騎士数名が隣へとやってくる。
「お隣よろしいですか殿下?」
「いいよ」
若い騎士たちは俺が珍しいのが、周囲を囲んで和やかに話す。
「見事な根性でありますよ殿下」
「ええ、引き合いに出すのはどうかと思いますが、イヤミル様は越えてらっしゃると思います」
「兄上はいいよ、何の指標にもならないし。そうだ、聞きたかったんだけどフリーデ将軍って剣持ってない? すんごい大事な家宝の剣とか」
「あぁ聞いたことありますよ、帝国の遺跡より発掘された宝剣で大事に保管されていると」
やっぱフリーデが聖剣を持ってるのは間違いないんだな。
「それどこかわかる?」
「フリーデ様の新居ですから、この砦の近くのエスタという街ですね」
「へ~新居買ったんだ。エスタって賑わってるし高かっただろうな」
「えぇ、結婚されたので、そろそろ新しい家が欲しかったらしいですよ」
「……結婚?」
「えぇ、ご存知ないですか? フリーデ様は既婚者ですよ」
お前既婚者はヒロイン失格だろ……。
そういや攻略本のプロフィールにも、既婚って書いてあった気がするな。旦那の方は立ち絵すら用意されてなかったモブだったと思う。
そんな話をしていると、食堂の窓からちょうどフリーデの姿が見えた。
砦の前へと急ぐ彼女の先に、一人の優しそうな男性が立っている。
「あれが婚約者か?」
「ええそうです、トニーさんだったかな」
「見た目から名前まで、全てが平均値な男性だな……」
「優しい男性が好きだったんじゃないですか? ご自身が厳しい環境にいますし」
「別れるとか、そういう話は出てないか?」
「さすがにまだ出てませんよ」
別れを望む俺に苦笑う帝国騎士たち。
コメント
1件
わあ、第66話読み終わりました! イーグル拳、笑いました。自己暗示で「大鷲」になって急降下乳揉みにいく王子、最高にバカで好きです。試合に負けて勝負に勝った感、わかります(笑)。でもその後のフリーデ既婚者情報で一気に現実突きつけられる流れも、ゲーム世界の攻略対象が結婚してるっていうギャップが面白いですね。バルト将軍のパワハラ特訓とフリーデの冷静キャラの対比が絶妙でした。次回も楽しみにしてます!