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レクレス王子は、青狼騎士団の団長だ。前線の砦――という名の壁へ行ったり、城での雑務の処理などを日常的にこなしていた。

私は王子付きなので、彼と行動を共にしている。王子付き護衛班は、私が入ったことで3人になった。


ツァルトとハルス――ツァルトは、前線など戦闘のありそうな場所には必ず随行する。20代後半、淡々とした人物であまり口数は多くない。

ハルスは、こちらも20代後半。穏やかな風貌で静かだが人当たりがよい。基本、王子が就寝する夜勤の護衛として朝まで王子の部屋の前で見張っている。

私は、王子の行くところどこでも付き従う。……もちろん、風呂とトイレは外で待っているけれど。


魔法が使えるから、何かあってもフォローできる柔軟さを買われて、王子の活動時間が私の勤務時間だ。

気づいたら、王子の装備の装着は脱着を手伝ったり、従者のようなこともやっていた。お着替えは家にいた頃は、もっぱらやってもらう方だったのだけれど、メイアがやっていたのを思い出しながら、王子様のお手伝いをした。……まあ、それはいいんだけれど。

気のせいかな? レクレス王子、私のことを見ていることが多いような。


「どうした?」

「いえ……」


やっぱり、私を見ている。ひょっとして、女だと疑っている、とか? 私はゾクリと背筋が凍る感覚に苛まれる。

いくら男同士でも、こうじっと見るというのはあるのかしら? 殿方が意中の女性に釘付けというのは、聞かないでもないけれど……。


「あの、王子殿下……」

「何だ?」

「見てますよね?」

「何を?」

「わた……ボクを、です。その……落ち着かないんですけど」

「部下の働きぶりを見ているのは、普通だと思うが?」

「……そ、そうですけど」


落ち着かないのよ、こっちは! ハラハラしてしまう。


「すまんな。緊張させてしまったようで」


レクレス王子は詫びた。


「ちょっとしたトレーニングだったんだ」

「はい……?」


私を見ることで、何をトレーニングしているのだろうか?


「……」


王子は黙り込んで、私を試すように見ている。わかるだろ、と言いたそうではあるが……。少し考えてみよう。

私を見て何が鍛えられるか……。


「……」

「まさか!?」


私はとっさに股の下、じゃなくてお尻を両手で守る。レクレス王子は慌てた。


「ち、違うっ!? 男の尻を狙っていたとかそうじゃなくてだな……!」


ひぇっ……。王子の口から『男の尻』なんて言葉が出てきた!


「その、お前の容姿がな……。その、何だ」

「ボクの容姿、ですか……?」


完全な男装だ。どこからどう見ても男のはずだけれど。待てよ――


『ボク、男なのに、女みたいじゃないですか……?』


以前、レクレス王子の前で私はそんなことを言った。あの時、王子は――


『むっ……う、うむ。まあ、華奢ではあるな』


否定しなかった! つまり、私が男装していても、女のように見えるということで……。

で、でも、王子様は『女』と意識したら気分が悪くなるはず。そんな人間をそばに置くだろうか?


あ、そうか。だからトレーニングなんだ。


私の容姿は、見ようによっては女に見える。彼の中では、私は男なのだけれど、女に近い顔立ちの私を見ることで、そのシルエットに近いものに慣れておこうとしているのではないか?

境界線を曖昧にすることで、少しずつ女性に慣れようとしているのだ、きっと!


「なるほど、わかりました」


私が頷くと、レクレス王子は一瞬ホッとした顔になった。


「わかったか! ……いや、それはそれで済まないな。男が男として見られないのは、お前にとっても屈辱だろうに」


確かに、そういうものだろう。幼い頃からそういう見方をされれば、コンプレックスにでもなっていただろうが、私は中身、女ですし。


「お気づかいありがとうございます! 殿下のお役に立てるならば、このアンジェロ。どのように見ていただいても構いません」


でも、やっぱりじっと見つめられると、肌がぞわっとくるというか、体の芯から痺れてくる感じになる。


「ありがとう、アンジェロ」


ふと、呟くようにレクレス王子は言った。その時、うっすら見えた微笑みは、私の心臓を射貫いた。……あ、あ、尊い……っ!






要するに、レクレス王子は男装していても女の子っぽい私を見て、女が苦手という体質を克服しようとされているのだ。

で、あるならば、私は男を演じつつ、時々、女らしい仕草や言葉を混ぜてやればいいと思う。あまり露骨だと、拒絶反応が出てしまうみたいだけど、少しずつ始めて、慣らしていくのだ。

男と女の境界線をあやふやにして、王子の感覚を麻痺させる。それに人間って、慣れる生き物だから、同じだと効果も時間と共に薄れていく。


じゃあ、女らしい言動とは? ふと見せる仕草――うなじとか、胸もとに手を当てるとか、立ち方とか……。

言葉遣いもどちらにも取れるようにする。たぶん私の声も、かなり女寄りに聞こえていると思うから、言葉遣いだけでもそれなりに効果はあるはず。

レクレス王子が女性が苦手体質を克服すれば、私との婚約話も展望が見えてくる! ……あー、私、レクレス王子との婚約を望んでいる?


自分でも改めて気づく。私、王子のこと、嫌いじゃないわ。婚約破棄されたアディン王子よりも、レクレス王子のほうが誠実そうだし、最初の猛獣じみた偏見も今はまったく感じていない。

そう、ドキドキしているんだから! 私、この人ともっと仲良くなりたいもの!


で、それはいいんだけども、やはり気になることはある。

レクレス王子がどうして、女が苦手な体質になってしまったのか。ううん、それより、その体質を解決する方法はないのかしら?

慣れさせるとかそうじゃなくて、薬とか魔法とかで治す方法が。

婚約者の王子は女嫌い? 真相を確かめるため私は男装した。男装令嬢と呪われ王子

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