「お前との時間邪魔されんのが気に食わねぇだけだわ」
五木は苦虫を噛み潰したように私を睨んだ。
「ふふ…っ、なにそれ」
そんな五木に思わず笑みが溢れると、なにがおもしれぇんだ?あ?といつもの調子で両頬を摘むと両端に引っ張ってくる。
「いひゃいいひゃい!」
五木は私の頬から手を離した。
「ったく」
「い、いきなりはやめてよ!」
「うるせぇ、お前が悪い」
「理不尽!」
「とりあえず明日作ってくるから!いいよね?」
「……好きにしろや」
五木はフンと鼻を鳴らして焼きそばパンを頬張り続けた。
* * *
翌日。私は早起きをして二人分のお弁当を作っていた。
卵焼きにタコさんウィンナー、さつまいもシュガーバター、からあげ
材料的には同じようなものだが、お揃いのお弁当なんて、なんて恋人らしいんだろうと思わず頬が緩んだ。
* * *
昼休み
「腹減った、早く行こうぜ」
「うん…!」
私は教室で五木に話しかけられ、一緒に屋上に上がった。
「はい、これ」
五木に弁当箱を渡す。
「お〜すげぇじゃん」
五木は弁当の蓋を開けると、感嘆の声を上げた。
「唐揚げはナイス」
「まあね!」
私の反応に満足したのか五木はニッと歯を見せて笑った。
思わずきゅん……となる胸を抑えながら自分の分のお弁当を取り出すと、早速箸を持って手を合わせて食べ始めた。
私も一口食べると
「ん〜♡」
思わず頬に手を当てた。
「美味ぇじゃん」
「ふふ、でしょ?」
「あの頃パンの生地焦がしまくってたやつとは思えねぇな」
「あー!それ五木が私に悪態つき始めた頃でしょ!!」
「あーそうだな」
「いやそこは否定してよ!傷付くじゃん」
「こー見えても反省してんだよ」
「もう……!」
そんな会話をしつつ、二人であっという間に完食してしまった。
私はふと、五木に聞くことにした。
「そういえばさ、クリスマス…よかったら、プレゼント交換とかしたいなぁって」
「あ?」
「いや、ほら、そういうのもクリスマスの醍醐味だし!」
「別にいいけどよ」
「え!ほんと!?やった!!」
思わずガッツポーズをしてしまう。
そんな私を五木はバカにするように笑った。
「はしゃぎすぎだろお前」
「ご、五木だってクリスマス誘ってきたってことはそういうことでしょ?」
「は?」
五木は怪訝そうな顔をした。
「だから、五木も私とクリスマスデートしたかったってことでしょ?」
「あ?」
その横顔は少し赤くなっているように見えたが、すぐにこちらを向き直して口を開いた。
「悪ぃかよ?」
ぶっきらぼうに答えながら目を逸らす五木を見て私は思わず「全然」っと笑ってしまった。
そんな日々が続いて、あっという間に月日が流れ、いよいよ12月24日。
クリスマスイブ当日を迎えたのだった
「五木!今日めっちゃ寒くない?!」
「ったり前だろ今-2°だぞ?」
「ひぇ…通りで」
駅前で五木と待ち合わせをして、そのまま二人で街へと繰り出す。
薄手のダウンを羽織ってきたのに、それでも寒いってどういう事なの……。
そしてそのまま、私の手を引いて歩き出す。
その横顔はどこか楽しげで、私も自然と笑みが溢れる。
そうして暫く歩いていると、不意に彼が立ち止まった。
不思議に思って五木の方に顔を向けると、彼は言った。
そしてそのまま私の手を引いて歩き出す。
私は五木と繋いでいる手にぎゅっと力を込める すると、五木もそれに応えるように握り返してきた。
その横顔は少し照れ臭そうで、私も頬に熱が篭もるのを感じた。
それから暫くシャーベット状の雪の上を歩いて到着したのは、駅前から歩いて15分ほどの広い公園の近くで開催されているXmasフェア(屋台)だった。
たくさんの人ごみを掻き分けて二人で屋台を見回っていると、揚げ物が多いせいか暖かい空気に包まれる。
そこには様々な種類のドリンクや軽食、珍しい食べ物もあって。
どれにしようか迷っていると五木はホットコーヒーとフランクフルトを頼んだので
私は悩んだ末に、チキンとカフェモカを店主に注文した。
店主から交互に頼んだものを渡され代金を払うと
「高校生さん?デートかい?いいねえ…めい一杯楽しむんだよ!」なんて茶化されるから
照れ臭くなりながらもお礼を言った。
そうして食べ歩きながら屋台の間を歩いていく。
肉汁たっぷりのチキンは骨もなく、噛み心地もバッチリで、芯まで温めてくれるような優しい味がした。
美味しいなぁと声に出すと、不意に五木が言った。
「一口くれよ」
「えー!やだ」
「なんでだよ」
「だって、絶対五木の一口ってデカイじゃん!」
「マジで一口だけだっての」
「もう、仕方ないなぁ…」
そんなやり取りをしつつ、結局五木の口元にチキンを近づけ、一口あげることに。
すると、私が持っている持ち手部分に手を添えてくるものだからついびっくりしてしまう。
「うめぇ…」
「んだよ、こんぐらいで顔赤くしてどーすんだ?」
「う、うるさい……ばか!」
「はっ、馬鹿面だな」
そう言って笑う彼を見て、余計に顔が熱くなる。
それを誤魔化すようにパクパクと残りのチキンを食べ進めていく。