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#現代ファンタジー
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白い雪がポツポツと降り始めた頃、私はある黒い組織に入った。 その組織はあまりにも暗く、降ってくる雪の一粒一粒が、まるで鋭い光のように見えた。
「ヒカリさん、ヒカリさん。私の目の前から消えた」
私は、虚無に突き動かされるまま、そう唱え続けた。
「ヒカリさん、ヒカリさん。私の目の前から――」
こんな真っ暗な場所に、ヒカリが居るのは場違いだ。
私はもう、引き返せない場所まで来てしまった。
今日から、私はこのマフィア――『夜統』の一員となった。
この終灯街の最大の覇権を握っており、赤宴、白骸、灰市の三つを束ねる巨大な組織だ。
私のボスとなる男が一つ命じるだけで、この街の平穏など容易く瓦解するだろう。
…ま、平穏なんて砕け散ってるけどね。
昼間はそれっぽく賑わって、明るいフリをしている街だ。だが、陽が落ちればマフィアと享楽がこの街を支配する。
大通りを走る高級車は全て各自の組織の所有物で、路地裏は彼らの遊び場だ。
生きたければ、この街を捨てるか、夜の闇に怯えて閉じ篭っているしかない。
警察も軍隊もとっくに白旗を上げている。正義のヒーローを気取った連中なんて、この絶望の淵には一人も来やしない。
――そんな泥溜めに、あの人は居る。
「ヒカリさん、ヒカリさん。可哀想に」
私はほくそ笑みながら、窓の外、無邪気に遊ぶ子供達を見つめる。
あんな眩しい場所に居たら、いつかその光に焼かれてしまうのに。
「おい、そこで何をしてる?」
背後からの声に振り返ると、そこには眩しい、眩しいヒカリさんが居た。
「ヒカリさん…?」
「誰のことを言っている?」
銀色の髪に、凍てつくようなアイスブルーの瞳。険しい表情を浮かべたその男性は、私の目にだけは、直視できないほど輝いて見えた。
「…貴方ですよ、ヒカリさん」
彼の顔が一段と険しくなり、私を射殺さんばかりの鋭い眼光で睨みつける。
「私はヒカリではない。――麗夢だ」
「あれ?違いましたか」
麗夢。…そう、それがこの方の本当の名前だ。
これから私の上司となる幹部であり、拷問を専門とする冷酷な男。
そして三日前、私を殺そうとしり、私をここに勧誘した張本人でもある。
「違うぞ。…それで、ここで何をしていたんだ?」
「ヒカリさんを見てたの」
私は、無邪気に遊ぶ子供達の方へ視線を戻した。
「ヒカリって…。はぁ、お前は…」
麗夢は、対話を諦めたように深く溜息を吐く。
「ねぇ、ヒカリさんを見てるとね、楽しくなるの。あの中の子供達を一人殺したら、みんな、どんな顔をするのかな?親は激怒する?それとも絶望する?急所を外して生かしておいたら、どんな声で泣き叫ぶんだろう」
内側から、どろりと殺人衝動が湧き上がってくる。
想像しても、答えは出ない。実際にやってみなければ、本当の悲鳴は聞けないのだから。
「おい。お前は『夜統』の所有物だ。勝手な真似はするなよ」
向けられたのは、本物の殺意が籠った瞳。
…ああ、やっぱり、殺意っていいよね。
背中がゾクゾクと震える。体が凍りついたようになっても、私は“そういう瞳”が、たまらなく大好きなんだ。
「もう行くぞ」
背を向けた麗夢のあとに続きながら、私は一歩、深く頷いた。
「分かったよ、ご主人様」
「…麗夢と呼べ」
「えー。だって、私のことは『夜統の所有物』だって言ったじゃん。上司は私とって、立派なご主人様だよ?」
麗夢は深く、今日何度目かもわからない溜息を吐いた。
「勝手にしろ」
投げやりな手つきでひらひらと手を振り、彼は歩みを速める。
…ふふ。冗談だったのにな。意外と、可愛い人。
私は口元を抑えてクスリと笑う。
彼がどこへ向かっているのか、何をさせようとしているのか。
そんなことはどうでもいい。ただ、その広い背中を追うことに決めた。