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自身のステータス項目を“任意の内容”に見せかけられるスキル【偽装】。
この試用も兼ねて、エレノイアに相談しつつ試行錯誤を重ねた結果、俺のステータスは何とか“一般人レベル”へと【偽装】することができた。
「……さて。これでタクト様は、どなたがどう見ても『只の見習い剣士』でしてよ」
「ありがとうございます!」
これで当面の問題は解決したはずだけど……念のため、ステータスを再確認しておくか。
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名前 タクト・テルハラ
種族 人間
称号 見習い剣士
状態 健康
LV 1
■基本能力■
HP/最大HP 54/54
MP/最大MP 28/28
物理攻撃 20
物理防御 8
魔術攻撃 10
魔術防御 8
■スキル■
剣術LV1、収納LV1
■装備■
布の服、革のブーツ
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エレノイアいわく、俺が持つ『勇者』『世界を渡りし者』『神の加護を受けし者』という称号はどれも希少過ぎて、下手すれば悪者に目を付けられる可能性があると。
よって、見合った実力が身につくまで称号は『見習い剣士』のみに【偽装】し、それに合わせて能力値やスキルを調整する形はどうだろう。一般的な称号の中で、最も俺のスキルと噛み合うのは『見習い剣士』ではないか――というのが彼女の提案だった。
見習い剣士なら【剣術LV1】というスキルを持つのが自然。
また所有アイテムを収納できる【収納LV1】を隠してしまうと、人前で使った場合に怪しまれる。珍しいスキルだが、所持者自体は割と存在するということで、隠さず残しておいた。
LVや他の能力値については迷った結果、『現能力値の実数値』つまり『全能力値が2倍になるスキル【能力値倍化】の増加値と、本来の能力を合わせた数値』へ調整。エレノイアも「LV1でこれぐらいの能力値は普通」だと太鼓判を押していた。
流石にLVが上がってきたら、調整を変えないと不自然らしい。
だけど先のことは、実際に直面しそうになってから考えても遅くないと思うんだ。
「そしてタクト様、剣についてなのですが――」
エレノイアによると、普段『原初の神殿』には神官らがもう数名いるが、現在はちょうど出払っていて、数日中は彼女とイアンのみだそうだ。
幸いイアンは多少剣の心得があり、着用を手伝う程度なら可能だが、人に教えるほどの自信はないと。
「――近くの街の冒険者ギルドに、“信用できるベテラン剣士様”がいらっしゃいます。しばらく弟子入りなさってはいかがでしょうか?」
「弟子入り、ですか……」
剣士弟子入りルートは、ゲームだと“戦闘チュートリアル”にあたるイベントだ。
戦闘の基本を一通り教えてもらえるという点では、実戦経験が全くない俺にはぴったりだろう。
架空と現実の違いを知るという意味でも、今後の戦闘の安全性を高めることができるに違いない。
しかも弟子入りルートを選べば、メインストーリーに沿う形になる。ゲーム序盤は「メインの物語通りに進むのが1番安全」ということで、現実でも色々な危険を避けられる確率が高いだろう。
だけど、ここで問題がひとつ。
メインストーリーに沿って進むと「発生しなくなるイベント」が結構あるんだよね。他にも「今しか会えないキャラ」とか「今しか手に入らないレアアイテム」とかもあって、弟子入りルートに進むと自動的にこのあたりを諦めざるを得なくなってしまう。
でもどっちみち1周目でイベント全部を見るのは無理だし、何より今は安全第一。
色々もったいない気もするけど……安全にはかえられないよな!
「……エレノイア様。弟子入り、希望します」
「承知しました。それでは弟子入りに必要な紹介状は私にお任せくださいね」
「よろしくお願いします」
「出発はどうなさいますか? 今夜お泊りになるようでしたら、神殿内の客室でよろしければお休みいただけます。もし本日中に出発なさりたいようでしたら、すぐに諸々ご用意いたしますが」
「できれば本日中なるべく早めに出発したいんですが」
「そのほうが良いと思いますわ。今ならまだ日は高いですし……暗くなる前には十分到着できますものね」
なんだかんだ俺はうずうずしていた。
これって少なくない数のゲーマーが1度は思い描く夢だと思う。
いうなれば俺は、普通ならあり得ない“貴重な体験”の真っ最中なのだ。
アクションRPG『Brave Rebirth』の醍醐味は色々あるけど、やっぱりスピード感ある爽快戦闘は捨てがたい。
しかも手元には、神様から貰ったばかりの“本物の剣”。これまで味わったことない新鮮な握り心地が「早くフィールドへ遊びに行きたい!」「実際に剣を振るってみたい!」って気持ちを否応なしにかき立ててくる。
もちろん安全性は凄く大事だけど、たぶん心配しなくていい気がする。
ゲーム通りなら神殿近辺の魔物はとても弱く、初期装備&LV1で十分余裕を持って倒せるはず。しかも特別な称号やスキルを持ってるぶん、今の俺はゲームより有利だ。
それぐらいだったら危なくないと思うんだよな!
エレノイアが紹介状を用意するのを待つ間。
神殿内の一室を借り、イアンに教えてもらいながら、まずは神様に貰ったベルトと剣とを装備してみることにした。
革のウエストベルトは、俺が普段使ってるのよりも幅広で丈夫にできている。
剣を吊り下げるための同色革部品や金具が幾つも縫い付けてあって、少し複雑な構造だ。
元々着ていた布の服の上からベルトをしっかり装着し、鞘に収まったままの剣を腰から斜めに吊るす。
部屋に置かれた大きな鏡をチラッと横目で見る。
初期装備のみの割には様になってるんじゃないか――と思ったのだが、その直後、なんだか恥ずかしくなったのは内緒だ。
「タクト様。紹介状の準備が終わるまでもう少しかかると思いますし、せっかくですから今のうちにスキルを試してみてはいかがでしょうか?」
「それもそうだな……」
今のところ、俺が持っているスキルはこの9つ。
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光魔術LV1:光属性の魔術を使える
剣術LV1:剣技に補正がかかる
能力値倍化LV5★:常時全ての能力値が2倍
収納LV1:所有アイテムを1m³収納できる
技能習得心得LV1:スキルを習得しやすくなる
鑑定LV1:対象のステータスを解析できる
神の助言LV1:神の一言メモを見られる
言語自動翻訳LV1:人が扱う言語の意味を理解し、書いたり話したりできる
攻略サイトLV1:Brave Rebirth攻略サイトを閲覧できる
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さて、まずはどのスキルから試そうか。
消去法で「自動的に発動するスキル」「既に試したスキル」などを除いて、かつ「イアンに見られても平気なもの」となると……【光魔術LV1】【鑑定LV1】あたりが無難だろうな。
手始めに、装備したばかりの剣に向かって「鑑定」と念じてみる。
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名前 手作りの片手剣
種別 片手剣
売却目安価格 非売品(売却&譲渡不可能)
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「もしかしてステータスみたいに、【鑑定】にも『詳細』って出るのか?」
即座にウィンドウが更新される。
「お、出た」
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名前(対象アイテムの名前)
手作りの片手剣
種別(アイテムの種類)
片手剣
売却目安価格(売却時の買い取り目安価格)
非売品(譲渡・売却不可)
■説明(一般的な解説)■
物理攻撃力+10
製作者の愛がたっぷりこもっている
とても丈夫で軽く、初心者に最適な剣
■神の一言メモ■
ここだけの話、普通の剣と見せかけて、実はワシがこっそり作った1点物の特別な剣なんじゃっ!
軽くて、絶対に折れることはないでのう、練習にはちょうどいいじゃろ。
心行くまで剣の道を極めるがよい!
ちなみに売るのは禁止じゃ。
せっかくワシがお主のためだけに作ってやったんじゃからのw
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アイテム鑑定時も一言メモがつくのかよっ!
ってかこの剣、神様が作ったとか初耳なんだけど?!
そういやゲームでも『手作りの片手剣』は譲渡・売却不可って設定だったな。
魔王討伐&転生のたびに1本ずつ追加で強制入手させられるうえ、譲渡も売却も不可で手放せず、アイテム欄にどんどん溜まっていくもんだから、プレイヤー達には「邪魔くせぇ」「誰の手作りだよw」「愛が重い!」「呪いのアイテム」等、散々な言われようだった。
それがまさか。
勇者のために神様がわざわざ作った“特別製”だったなんて……。
……神様の気持ちを考えたら、なんか、ちょっと切なくなった。
「あのぅタクト様……」
「ん?」
イアンが声をかけてくる。
「えっと……その、ですねぇ……」
どうやら言いたい事があるようだが、うつむいてモジモジするばかりのイアンからはなかなか本題が出てこない。
というか。
なんかお前、顔が赤くなってないか?
そんな意味ありげにもったいぶられると、聞くのがちょっと恐いんだが……。
「……何だよ?」
警戒しつつも、恐る恐るたずねてみる。
イアンは一瞬ためらってから、思い切ったように俺の目を見た。
「え??」
予想外の言葉に毒気を抜かれる。
「そ、その……僕は小さい頃、勇者様と魔王の戦いを描いた物語の本が大好きで、祖母にせがんで何回も何回も読んでもらってました。特に勇者様が【光魔術】でキラーッと剣を作って、悪い魔物をバッタバッタ倒していくところなんか、すっごくカッコいいんですよ! それがまさかホントにお会いできるなんて…………お願いします、勇者様! 【光魔術】を見せてもらえませんか?」
イアンは目をキラキラさせながら、身振り手振りを交えて頼み込んできた。
「見せるっていっても……そもそも俺、魔術の使い方自体よく分かってないぞ?」
「だからこそ試しましょう! スキルを覚えたての時なんて、使いこなすまで時間がかかって当たり前なんです。属性は違えど魔術自体は僕も少し使えますから、今なら何かお力になれるかもしれません!」
「ちなみにイアンは、どの属性の魔術を使えるんだ?」
「僕は水属性の回復魔術を少々」
ゲームのイアンは、順当にいけばメインストーリー中盤に仲間にできるキャラの1人で、経験さえ積めば優秀な回復士として活躍してくれる。
ただしいわゆる大器晩成型ってやつで……育てるまでが凄く大変なんだけど。
イアンはさらに畳みかける。
「それに魔術を試すんだったら“今のうちしかない”と思うんです!」
「どういう意味だよ?」
「タクト様は勇者であることを隠したいんですよね?」
「ああ」
「なら今後しばらく、魔術を使うのは無理なはずです」
「どうして?」
「タクト様が使える魔術は光属性のみです。もし人前で【光魔術】を使おうものなら、勇者だってバレちゃいますからね!」
「あ……」
正体を隠したいなら、イアンの言う通り当面は封印せざるを得ないだろう。
「……確かに、試すなら今しかないかもな」
イアンは無邪気に喜ぶのだった。
ひとまずイアンの案内で、神殿の中庭へと場所を変える。
ここは彼がいつも魔術の練習に使っている定番スポットらしい。
そういやゲームのイアンも、この中庭にいるのをよく見かけた気がするぞ。
「まずは……あの術式がいいかな?」
手始めに選んだのは、“光魔術の初歩”とされる術式。
ゲームでキャラが魔術を使っていた様子を頭に浮かべる。
記憶に従うがままシャキッとポーズを決め、勢いよく術式名を唱えたッ――
……しーん。
しかし なにも おこらなかった!
ポーズを決めまくったぶん、怒涛の恥ずかしさが襲ってくる。
「だ、だいじょうぶですよ! 僕なんて何回失敗したことか――」
「――あッそうだ! 今の光球の詠唱呪文は分かりますか?」
「え? 『光よ集え』、だけど……」
「なるほど。シンプルで効果をイメージしやすくて、初めて使うにはぴったりな詠唱ですね!」
「……そうなのか?」
「はい! 僕のお師匠様は『魔術はイメージであり、イメージこそ魔術と言っても良いだろう。イメージを明確に固めることは、詠唱時において最重要事項だよ』って口癖のようにおっしゃってました。今度は……発動する魔術をしっかりイメージしながら、できるだけゆっくり詠唱してみてはいかがでしょうか?」
ふと思い出したのは、イアンの師匠である“天才魔術師”の顔。
何かを極めるキャラには少々変わり者が多かったが、その魔術師も例外なくそうだった。
だが魔術の腕だけは確かだった。
そんなアイツが言うなら間違いないだろう。
納得とともに気を取り直し、もう1度挑戦してみることにした。
イアンが固唾を飲んで見守る中。
まずは手のひらを前に向け、右腕を真っすぐ正面に伸ばした。
落ち着いて瞳を閉じ、集中力を高めていく。とにかく集中して、集中して――辺りが静寂と暗闇に支配されたのをようやく感じ取れたタイミングで、ゆっくりと詠唱を開始した。
「…………光よ、集え…………」
何もない静かな闇だけが広がる中。
自分の手のひらに、真っ白な光が集まってくる様子をイメージする。
イメージの中の光が、だんだん丸く小さく、1つの塊になってゆく……
カッと目を見開き詠唱を仕上げる!
俺の手のひらの前に静かに現れたのは、優しく輝く白い光球。
「これ……成功だよな?」
俺達は2人して飛び上がって歓喜した。
だが間もなく、俺は事実に気づいてしまった。
気まずいながらもイアンに話しかける。
「イアン、あのさ……」
「何ですか?」
「確かに魔術は成功したんだけど、よく考えたら“球系の術式”って魔術術式の中じゃ1番地味なんだよな。イアンが見たがってたのは魔物を倒せる光の剣みたいな派手なヤツで……伝説みたいにかっこよくなくてごめんな――」
「何言ってるんですか!」
すかさず強く否定するイアン。
「……考えてもみてください。タクト様は本物の勇者で、あんなにすごいスキルをいっぱい持ってるんですよ? そのうち絶対に強くなります」
「でも俺は――」
「え?」
予想外の返しに、ちょっと驚く。
熱っぽく語り続けるイアン。
「タクト様は魔術を使うの、初めてだったんですよね?」
「ああ、そうだけど――」
「じゃあやっぱり、あの憧れの勇者様の【光魔術】を初めて見たのは、僕ってことになりますよね? これってすごくないですかっ!」
なるほど、そういうことか……。
「……それだけじゃないぞ。俺が別の世界から、この世界にやってきて初めて会った人間って、誰だか分かるか?」
「もしかして――」
「そう。お前だよ、イアン」
「すごい!」
「さらにいうと、剣の装備方法や魔術スキルの使い方を初めて教えてくれたのもイアンだな。正直すごく助かったよ。俺1人だけじゃどうしていいか分かんなかったし」
目を輝かせたまま、イアンは言葉を失った。
「でもさ……今の俺じゃまだステータスは一般人未満だし、正直さっきの『光球』もショボかったと思うんだ。だから俺はこれから弟子入りして、剣を修行してくる。魔術だって練習して、スキルLVを上げまくってやる。そんで伝説の中の勇者みたいに、悪い奴らを光の剣でバシバシ余裕でやっつけられるぐらい強くなってやる! そしたらもう1度……お前に、【光魔術】を見せてやるよ!」
「……絶対に?」
「絶対だ」
拳をぶつけ合う俺達。
「僕も【水魔術】の練習とか、これまで以上にもっともっと頑張って、次にタクト様にお会いする時には『僕も強くなった』って言えるようになります!」
その言葉に“ゲームでの彼”を思い出し、思わずニヤッとしてしまう。
「イアンは……“絶対”、強くなれるよ」
「ホントですか!」
「おう! お互い、頑張ろうな」
「はいっ!」