テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#幽霊
凛道桜嵐 新
193
#日常
がくじゅつてき・あかげ
22,155
わーい
41
485
〈絶対女の人だと思っていた〉と埼玉9号さんに言われて、俺はかなりびっくりした。
「え、なんでですか!?」
〈だって、お花の写真とか、料理の写真ばっかりあげてるし〉
あー! 確かにそうだな! 明示的に男ですって言ったことも、そう言えばなかったし!
「た、確かに言われてみれば、そうかも知れないです……」
〈花の写真取るの、趣味なんですか?〉
「うーん、趣味……といえば趣味なのかも……」
おばあちゃんのことがなかったらやらなかったことだけど。撮った写真を千歳に褒めてもらったら嬉しいし、DiscordやMisskeyに上げてリアクションもらったら嬉しいし、まあ趣味と言ってもいいのかも。
「祖母がですね、老人ホームにいて、花の写真LINEしてあげると喜ぶんですよ。なので、外歩くたびに花探して写真撮るようになりまして」
〈あらー、やさしい〉
本当に感心したように言われて、俺は面映ゆくなった。
「まあ、これまで祖母孝行してこなかったので……でも、自分でやってて楽しいと思わなければ続きませんし、趣味って言っていいのかもしれませんね」
〈料理も趣味なんですか?〉
「あ、そっちは食べる専門ですね」
俺は苦笑した。
「同居人がいろいろ作ってくれるので、祖母に「俺まともに食べてるよー」って言うために、たまに料理の写真も撮って送ってて」
〈へー、同居人さん、料理うまいんですね!〉
「すごくうまいです。グルメっていうんじゃないですけど、食費やりくりして家庭料理作るのがうまくて」
〈なんてありがたい人……〉
埼玉9号さんは、感嘆のため息とともにそう漏らした。
「でも、料理の写真撮るのは、その同居人が『いい感じに盛り付けられた!』ってときじゃないと許してくれないんですよ」
〈へー、盛り付けにこだわりがあるんですか?〉
「なんていうか、彩りですね。前、おいしそうだなと思って撮ろうとしたら、『今日は茶色のおかずしかないから、恥ずかしいからダメだ!』って拒否られて」
確か、豚の生姜焼きとごぼうの煮物とナスみそ炒めの日だった。
〈ふふ、かわいい人。茶色のおかず、おいしいのに〉
「そうですよねえ」
俺は深く頷いた。
〈ルームシェアなんです?〉
「うーん、そんなですね。家賃と食費私持ちの代わりに、家事ほとんどお願いしちゃってて」
〈いいじゃないですか、それで回るなら〉
「まあ、回ってますね、意外とうまく」
ちゃんと回ってる。千歳と大きな喧嘩もしたことないし、ルームシェアとしては上出来なのかもしれない。
〈えらいなー、家事全般ちゃんとやれてるの。私は……あ、あれ、お父さん!?〉
埼玉9号さんは、驚きの声を上げた。どうした?
〈え、休み取れたの!?〉
言葉は聞き取れないながら、男性の声らしき音声が入ってきた。んー、これは、埼玉9号さんのお父上が急に休み取れて、大掃除参戦ってことかな?
俺は、スマホの時刻表示を見た。そろそろ千歳が帰ってきてもおかしくない時間だな。
「あの、ひょっとしてそちら取込み中なら、私落ちましょうか?」
〈あ、すみません、取り込みです! これでおしまいにしてもらえると! すみません、いきなりで〉
「いえ、こちらもちょうどの時間だったので。話してくださってありがとうございます」
そう言って、俺はボイスチャットから落ちた。
帰って来た千歳に、「偶然なんだけど、狭山さんの妹さんと話したよ」と伝えたら
『え!? どんな人だ!? 美人だったか!? 独身か!? どうして口説かなかったんだ!』
と、俺の婚活前提の質問を矢継ぎ早にされて、大変困った。
「いや、ボイスチャットだから、声だけしか知らないから。たまたま話した人にそこまで突っ込んだ話、出来ないよ」
というか、埼玉9号さんの本名も知らないな俺。下の名前、なんて言うんだろう?
まあ、狭山さんと打ち合わせの時に聞けばいいか。
コメント
1件
ああ、このエピソード、すごくほっこりしましたね。埼玉9号さんに「絶対女の人だと思ってた」って言われた主人公の驚きと、その理由が「花の写真と料理の写真」ってところが微笑ましい。でもその花の写真、実はおばあちゃんに送るためだったっていうエピソードにじーんときました。あと茶色いおかずの日だけは写真を撮らせてくれない同居人さん、めちゃくちゃ可愛いですね。最後の千歳さんの「口説かなかったのか!」攻撃もなんだかんだで仲良しなんだなあって伝わってきて、温かい気持ちになりました。