ズバッという切れる音。
それが20回繰り返された。
このところ天使の大量発生が多くなっている。
『お疲れ様二人共』
「くふふ…主様も妖術でのサポートご苦労様です」
「ああ的確に戦いやすくなってきてるよありがとう主様」
そう言って私を撫でてくる二人。
ミヤジとラトであった。
『ん…やはりまだ慣れぬの』
一人から撫でなれるのは慣れていたが
二人同時に撫でられるのはあまり経験していなかった。
「大丈夫ですよ…少しづつ少しづつ慣れていけば良いですからね」
「ああそうだねラト君」
とても平和な帰路だった。
そんな平和が脅かされるのはこの出来事から数日もしない時。
行方不明者が数多く出ている古の塔に行くことになった。
しかも執事全員で。
ただ事ではないとすぐに分かった。
それと同時に嫌な予感も少しした。
「うわぁ〜主様フードのところ僕とおそろいです!」
『そうじゃの〜ムーとおそろいじゃ』
きゃいきゃいと少し騒がしい程度で話す。
ムーと話すと意外と盛り上がって面白い。
「着いたぞ主様」
外から知らせてくれるのはバスティン。
「それでは…行きましょうか主様」
『あ、あぁそうだな』
このところ変にベリアンに意識してしまう。
『今は11月後半か…ちっ…まずくなってきた』
「主様?どうされました?」
『な、なんでもないぞ!行くか!』
古の塔周辺は雪が積もっていた。
『雪か…』
空を見上げるとちらちらと雪が降ってくる。
悪魔の力の解放を済ませた時。
空から雪じゃ無いものが降ってきた。
「え、これって…羽?」
『ラムリ!危ない!』
上から流星のように降る何かを焼き払いラムリの元に駆けつける。
『大丈夫か?ラムリ』
「は、はい」
下が雪で助かったな…と思いつつ空を見ると
今までとは桁が違う程天使が現れた。
「っ…行くぞ!ユーハン!テディ!」
「アモン!ボスキ!」
前線にいる執事達が指示を出し天使を狩っていく。
しかし、いくら狩っても狩っても天使は襲ってくる。
『私も…』
執事と一緒に戦おうとした時。
ふいに何処かの記憶が問いかけてきた。
[無能狐がこの程度すぐ殺られる]
言葉が頭の中で響いた瞬間意識が遠くなるのを感じた。
二百五十九年前。神の世。
『父様!父様!私炎が操れるようになりました!』
「その程度か無能め」
父は私に厳しかった。
理由は父が最高神だったから。
最高神故にプライドが高く、皆崇めていた。
『父様!私もっと強くなれましたよ!』
「は?もっと朕のように強くなれ。媚びているだけではただの狐だ」
いつもそんな事を言われた。
そんなある日。
眠れない夜だったので宮を散歩していると
ギシギシと軋む音が聞こえた。
そこで、母以外に愛人がいた事を知り深く絶望した。
プライドなどただの毛皮だと知った。
小さく聞こえる喘ぎ。
肌と肌を打ち付ける音。
無能だとずっとずっと言われ溜め続けていた毒が雪崩のように崩れていった。
『お前の方がよっぽど醜い無能だ』
「あの…雪さん…最高神様は…」
そう言われ不自然に口角が上がる。
『ははっ、あのクソ狐もうとっくのとうに殺した』
神の世で最後に見せた表情。
それは絶望から切り抜け楽になった
真っ黒い狐だった。
「主様!」
体を揺さぶられる感覚で目が覚めた。
「良かった…目が覚めたんですね」
「天使はもう大体殺った」
執事達が私を取り囲む。
『……む?お主らそんなに集まって…どうしたんじゃ?』
ああ、ここは現実なんだと安心して立とうとすると
「…雪、貴方深い絶望を抱えていたのねそれも親族ほとんど殺そうとするほどの」
ムーではないムーにそう言われる。
「ムー!何が言いたいんすか!」
他の執事達もムーに集中する。
『はぁ…ムーの言う通りじゃ…私は…あいつの本能が許せなかった』
口に出したのは自分の心の内。
動物の雌の神はある程度成長すると発情期が来る。
発情期が来るとまぁそれは甘い匂いを発し交尾を誘うそうだ。
だが、例外がいた。
そう、私の父。
おまけに父は女癖が悪く一回犯してまた次へを繰り返していた。
それが本能だと分かっていても…許せなかった。
『どうしてじゃろうな…何故か感情が入ってしまうんじゃ』
あの狐を殺した時とんでもない快楽に身を包まれた。
「…感情があってもいいと思いますよ主様」
ナックが近づいて寄り添ってくれる。
「そうだすね感情があるから良いんです」
テディもナックと同じく寄り添う。
『いいのか…?私は…神を殺したことがあるんじゃぞ!』
母にも言えてない秘密なのに。
どうしてこやつらは寄り添ってくれる…?
「殺した経験があっても主様は主様なんだから」
「それに私達だって天使を殺してるっちゃ殺してるので…同じでしょう?」
ハナマルとユーハンにそう言われ誰にも言えないところで積み重ねた罪という雪が溶けていく気がした。
その溶けた水が雪解け水となり…私の目から零れ落ちる。
『っう…おぬしら、ほんとうに…やさしいん、だか、ら…』
その水は嬉し涙だった。
もう、後を振り向かない。
悪魔執事達がいるおかげで私は私で居れるのだから。
「あれ?主様!?どうして泣いてるんですか!?」
おどおどしているムー。
今日秘密が言えたのは彼のおかげだろう。
「大丈夫ですよ主様…どんな主様でも私はいつでも受け入れますから」
「俺もそうだよ主様…困った時はいつでもベレン兄さんに言ってね」
やはり…義兄弟だからか同じような優しい雰囲気の二人に甘えたくなってしまう。
『あ、りがとうな…ベリアン、ベレンっ』
「はぁ…もう泣くなお前は笑顔の方が似合う」
『ははっ…シロ…ほんとに私と似てるのぉ』
似ていないと冷たく返されシロらしいと逆に愛らしく思える。
妖狐の春まであと少し。
コメント
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父親最低すぎて無理なんだがwww〇して正解。(?)