テラーノベル
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踊り終えると、お兄様は私と手をつないだまま、ヘンリーのもとへ歩いた。
まだ涙が残っていて、どんな顔をしているのか自分でも分からない。けれど、お兄様の後ろに隠れようとは思わなかった。
「陛下。ご報告したいことがございます」
お兄様の声に、近くの方達が会話をやめた。
ヘンリーは私達のつないだ手を見てから、続きを促した。
「マチルダが、私の求婚を受けてくれました」
広間がざわめいた。
私はヘンリーに向かってお辞儀をした。お兄様が言ってくれたからと、黙ったままではいけない。
「私も、お兄様との結婚を望んでおります」
「そうか。二人とも、おめでとう」
ヘンリーは笑顔で言った。
私は顔を上げた。叱られなかったことより、自分で望む相手を伝えられたことに、ほっとしていた。
「皆も、二人を祝ってやってほしい」
再び拍手が起こった。
今度は私も、その中に立っている。誰かに選ばれた婚約を、言われるまま引き受けるのではない。お兄様と結婚したいと、自分で決めたのだ。
人々の間から、アグネス母様が近づいてきた。隣にはヒュー父様もいる。
「お母様」
「よかったわね、マチルダ」
お兄様がつないだ手を離すと、アグネス母様は私を抱きしめた。
我慢していたことを見抜かれていたようで、私は母のドレスに顔を寄せた。涙で濡らしてしまう前に離れようとすると、もう少しだけ抱いていてくれた。
「自分でお返事できた?」
「はい。私からも、お願いしました」
「そう。それなら、よかった」
ヒューが私のそばへ来た。
「幸せになりなさい」
「ありがとうございます、ヒューお父様」
その隣で、アグネスがお兄様に話しかけていた。
「今度は、あなたが決めたのでしょう?」
「はい。俺が望んで、申し込みました」
「ええ。それを聞きたかったの」
お兄様は私を見た。
何を前から話していたのか、私は知らない。けれど、今のお返事は嬉しかった。
セドリックとマリアンヌが来たので、アグネスは私を離した。
私は育ててくれた二人に向き直った。幼い頃からお兄様と同じ家で暮らしてきたことが、急になくなるわけではない。だからこそ、この二人にはどう言えばよいのか迷った。
「お父様、お母様。私……」
「聞こえていたよ」
セドリックが答えた。
「二人で決めたのなら、それが一番だ。アーサー、マチルダを頼む」
「はい、父上」
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マリアンヌは私の頬に残る涙を見て、微笑んだ。
「今夜は、嬉しくて泣いているのね」
「はい」
それだけ答えると、また泣きたくなった。
婚約を破棄されて帰った夜、この母は何も責めず、温かい紅茶を淹れてくださった。今は、お兄様と並んだ私を喜んでくれている。
少し遅れてアリス様が来た。私を見て、お祝いより先に笑い出した。
「ほら、踊ってよかったでしょう」
「アリス様……」
「おめでとう、マチルダ。本当に」
私はアリス様の手を取った。
何とお礼を言えばよいのだろう。あそこで背中を押してもらわなければ、私はお兄様を見ないふりをしていたかもしれない。
「ありがとうございます。今夜、いらしてくださってよかったです」
「これからも友達でいてよね。忙しくなったから会えないなんて、言わないで」
「もちろんです」
ジュリアン会長がレオポルド様とともに歩いてきた。
「二人とも、おめでとう。学園でも、きっと皆が驚くよ」
「ありがとうございます、ジュリアン会長」
「いや、誰も驚かないと思う」
レオポルド様が真面目に言うので、ジュリアン会長まで笑ってしまっていた。
私は恥ずかしくなり、お兄様を見た。お兄様も照れくさそうだったが、否定はしなかった。
リチャード公爵が娘であるアリス様の横へ来て、お兄様に祝いを述べた。
「今夜は、私が相手を勧めるまでもなかったな」
「はい。最初から、マチルダを誘うと決めていました」
「よいことだ。二人とも、幸せになりなさい」
私はアリス様から手を離し、お兄様と一緒に礼を言った。
ガレス近衛騎士団長も近づいて、お兄様に「おめでとうございます、殿下」と告げた。ヴィクターはその後ろで私達に頷き、ベアトリス学園長とトバイアス先生は、まだ拍手を送ってくれている。
窓の近くではオズモンド公爵が拍手をし、その隣でマーガレットも手を叩いていた。ドロシーがこちらへ深くお辞儀をするのも見えた。
誰が何を考えているかまでは分からない。ただ、私達が結婚を望んだことは、もう皆様に伝わっていた。
入口の方を見ると、クララがこちらを見守っていた。
私が笑うと、クララも微笑んで礼をした。さっき直してもらったリボンには、もう触れなかった。
お兄様が私に手を差し出した。
私は自分から、その隣へ並んだ。マントが腕に触れ、白い手袋の上から指を重ねる。
「お兄様」
「どうした?」
「嬉しいです」
まだ伝え足りなくて、言った。
お兄様は私の手を握り、同じように答えてくれた。
「俺もだ」
この日、私はアーサー・ヴァレンティス王太子殿下の婚約者となった。
第一部 王太子の婚約者 完。
コメント
1件
いやあ、第一部完結おめでとうございます…!舞踏会での婚約発表、みんなの祝福がジワジワと沁みるシーンでした。マチルダが自分で「お願いしました」って言えたところ、そして泣きそうになりながらもお兄様の隣に立った強さが本当に美しかったです。お兄様の「俺もだ」、グッときました。この先の二人の物語、めちゃくちゃ気になります!