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フェンリルのシロが嬉しさのあまり紫電のプラズマっぽいのを放出していたり、ケルベロスのクロが三つの口から炎を漏らしているのは御愛嬌だろう。
なにしろオルトロスのチロなんかは、体高三メートル位になって、イヌ科にあるまじき事に、ライオンの如き鬣(たてがみ)を揺らす、見た感じマンティコアっぽく姿を変じていたのだから。
地にも腹にも良く響く、重低音のノイズを伴った、ヤバそうな声でチロは善悪に言った。
「では、これより現れる下位悪魔共は、是非とも我等三柱(みはしら)の魔狼にお任せを! 役に立ち、新たなご主人様に我等の威を示して見せましょうぞ!」
善悪は内心で思った。
――――これ地上に連れ出して大丈夫であろうか? 安請け合いでござったか…… あれ、シロちゃんも何か巨大な二足歩行の狼? あれってライカンスロープなんじゃ? うあ、クロちゃんはモットデカイし三つの顔が一つになって…… あれってベ、ベルセルクだよ、ね…… ど、どうしよう……これ、三匹とも災厄レベルの化け物なんじゃ、いや化け物だったでござる! やばいヌ……
善悪の心中の葛藤もなんのその、三匹の魔狼、いや、より凶悪な悪魔たちは競い合うように、
「ガアァァー! ガガガガァァァー!」
「グウゥロロロォォォ、グルアロゥァァァァ!」
「ブロロロ、ブフロォ、ンブロハァロロロロロロ!」
とやる気、いや、殺(ヤ)る気満々であった。
頃合良く、ボシェット城に続く坂道の脇から、十数体のコカトリス&バジリスクたちが姿を現して、こちらを振り向いて、あからさまにギョっとした表情を浮かべていたのだった。
「ヴォヴァァァァァァァー! 征くぞぉ! クロ、シロ! 我に遅れるなぁ!」
「ガギャガギャガギャ、無論! 喰い散らかしてくれん! グギャギャァァー!」
「ングバァァー! 死ね死ね死ね死ぃねぇぇー!」
もう既に善悪には可愛らしさの欠片(かけら)も感じられなかった、一方……
「うん、チロ、ガンバレェ~、恐いよ、怖いよ、安全第一でねぇ! 気を付けてよぉ!」
と、要らぬであろう心配しっぱなしのパズスがうざかった。
白い狼獣人のシロと黒熊の獣人クロは、本気を出したコユキ張りの速度で二色の閃光と化した、そんな二匹と対象的にその背に生えた巨大な鷲の翼を羽ばたかせ、優雅に上空に舞い上がるチロ。
次々と現れる下位悪魔たちは、白い閃光が通り過ぎただけで、その身を落雷でも受けたかの様に霧散させ、黒い閃光は射線上の全ての命ある物を焼き尽くしながら粉々に破壊していった。
生き残った下位悪魔達は慌てて足場が悪い湿地帯へと逃げ集まっていた。
シロとクロの高速移動から逃げ果(おお)せると考えたのだろう。
考えは当たっていたのだろうか?
シロもクロも泥濘(でいねい)の一歩手前できっちりその歩みを止めて、下位悪魔たちを遠目に見つめ続けていた。
一方のチロ、オルトロス、いや大きめのマンティコアは、湿地の上でホヴァリングしながら、その身から長く伸びた蠍(サソリ)の様な尾を、チョコン、と、湿地の中に刺し貫いたのである。
その刹那、泥濘の中にいた、数百の下位悪魔達の体に異変が襲いかかったのだ。
その身を黒々とした、腐肉へと変じつつ、苦悶の叫びをあげた下位悪魔達は、全身を霧、いいや靄(もや)と化して消失して行ったのであった。
「チロ! チロ! 格好良かったぞぉ! 流石はチロの毒針だなぁ!」
パズスのヤツが声高に叫んでいたが……
致死力は高い、ヤバメな感じだと、善悪も認めざるを得ない活躍で有った事は、紛れもない事実である。
「うむ、流石でござるな、テロ、いや、チロちゃん! 良くやってくれたのである!」
新たな御主人らしく、ちゃんと褒めたのであったが、キャスリンが大きな声で横槍を入れる。
「コーフク! アンタ等なんで魔核拾わないのよ? 若しかして戦闘狂なの?」
善悪はツルツルのキャサリンに対して、ハテナの色を強めつつ聞くのであった。
「え? 魔核? あの赤石のこと、でござるか? 拾えるときには拾って居るつもりでござるが? 何かおかしいの?」
キョトンとした善悪の返事に、キャサリンは嘆息(たんそく)しつつ、何かコイツ可愛いな、とかって思っちゃいながら返事をしたのだった。
「モオォー、コーフクったら、いいえ、ヨシオったら何にも知らないのねぇん! 魔界ではあの魔核を放置したら、周囲の魔力を吸収して、すぐに戻っちゃうのよぉん! だから、聖女か聖戦士の近くに置いて、聖魔力で押さえ込まないと、永遠に戦い続ける事になっちゃうじゃない、んもう、知らなかったの~? ヨシオォ~!」
変な感じでクネクネしながらキャス、キャサリンが言ったが、言われた善悪は、ハゲを無視してスプラタ・マンユの面々に指示していた。
「皆、聞いたでござるか、あのハゲ女の言う通りだとしたら、赤い魔核を集めて、聖戦士か聖女の近くに持って来れば、|忌々《いまいま》しい復活は出来ないのでござるよ! 僕ちんも集めるから、皆も本気で集めて欲しいのでござる! オケイ?」
五柱のスプラタ・マンユが頷くより早く、オルクスとモラクスはその場を離れて魔核拾いを始めていたようだ。
『風よ(アネモス)』の呟きだけを残して……