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◆ 5話 大喜利バズ回
昼下がりの街。
大学生の 三森りく(24) は、
緑のキャップを深めにかぶり、
灰の薄手パーカーと水色ラインのMINAMOを合わせて歩いていた。
商店街の角にある携帯ショップの前で足を止める。
店の外には、
眼鏡型MINAMOの展示スタンドがずらり。
店員がメガネ拭きを配り、
視力チェック表のようなポスターが貼られている。
「…もはや携帯屋じゃないな。」
そうつぶやいた瞬間、
視界右端に通知がポンと浮かぶ。
『xで投稿が話題になっています:
「携帯会社、眼鏡屋になった?」』
興味本位で開くと、
投稿主が撮った写真が16Kで鮮明に表示された。
・携帯ショップの入り口に整然と並ぶメガネ型MINAMO
・ツル調整器具
・“1円MINAMO開始!”の大ポップ
・どこにもスマホが見当たらない棚
投稿主は、
若い男性の自撮り。モカ色の帽子、黄緑のシャツ。
目尻に笑いジワがあり、気さくな雰囲気。
そのキャプションが絶妙だった。
「最寄りの携帯ショップ、今日から眼鏡屋になったらしい。」
たったそれだけ。
だが、あまりにも刺さった。
数分で
いいね 21万
リポスト 18万
返信 6.4万
SNSが沸騰する。
『わかる、うちの地域も100%眼鏡屋』
『視力検査始まるの待ってる』
『携帯ショップ店員、レンズの角度説明うますぎ問題』
『スマホ棚絶滅したってマジ?』
ハッシュタグも自然発生する。
#携帯会社眼鏡屋説
#もうメガネ屋でよくない
#1円メガネ
りくは思わず笑ってしまう。
******
その夜、りくの部屋。
窓際に緑のライトが淡く差し、
彼は机に向かっていた。
視界右端に、
相棒MINAMOが言葉を表示する。
『りく、現在のバズワードを学習しました。
“眼鏡屋化”は携帯ショップの形態変化を指します。』
「うん、合ってるけど……
なんか説明が固いな。」
『柔らかい説明をご希望ですか?』
「いや、そうじゃなくて……」
そこへ、別の通知が飛び込む。
『#MINAMOのミス というタグが急上昇中です』
「また変なの流行ってるな……」
タグを開くと、
16K映像のミス投稿が大量に並んでいた。
・“料理レシピを表示して”と言ったのに
“履歴書を出す”と誤認識 →
#料理と履歴書は違う
・ジェスチャーで音楽を再生しようとして
職場の壁に巨大歌詞ウィンドウが出る →
#バレないはずがバレた
・子どものMINAMOが「宿題」と言おうとして
「宿敵」と誤認識 →
#宿敵提出
ミスの質がおもしろすぎて、
バズらないほうがおかしい。
りくも思わず投稿しそうになる。
その時、
りく自身のMINAMOがそっと言う。
『ミス投稿をご希望ですか?』
「違うから……!」
つい喉が震えてしまい、
視界に入力されそうになる。
******
翌日、大学。
キャンパスには、
#携帯会社眼鏡屋説 のネタを真似したポスターが貼られていた。
学生用MINAMOの展示会のお知らせ。
展示会スタッフが、眼鏡屋さながらにツル角度を調整している。
緑髪のハイライトが映える女子学生、
杉野(すぎの)いまり、20歳。
黄緑のトップスに灰のスカート。
MINAMOがよく似合う。
「りくくん、見た?
うちのサークルの先輩、ミス投稿で3万いいね取ってたよ。」
「ミスで3万……強すぎない?」
「だってさ、MINAMOって生活に入りすぎてるから、
ミスすると妙に“人間くさく”て可愛いんだよね。」
確かに。
MINAMO生活が当たり前になった反面、
失敗があると妙に味が出る。
静かな世界の中で、
“誤作動という笑い”がコミュニケーションの潤滑油になっていた。
りくは思う。
──技術が進化しても、
人は結局“人間くさいもの”に笑うんだな。
MINAMO社会の流行は、
まるで息をするように次々と変わっていく。
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