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脳裏に、前世の記憶がフラッシュバックする。 身体が潰れそうな満員電車の圧迫感。定時という概念が消滅した深夜のオフィス。机が見えないほど積み上がった書類の山――。
『おい! 数字が合わないぞ!! 合うまで帰れると思うなよ!』
上司の怒鳴り声と、机の打撃音。
それでも必死に食らいついて、簿記の資格も取って。夫の転勤でやむなく退職するまで、一円の差異も許されない「地獄の決算期」を五度も乗り越えてきた自負が私にはある。
(予算権限がないなら、奪うまで。……この王宮に、不正がないわけがないもの)
ゲームのシナリオでは、カイル殿下と聖女が、公務の道中に水害で被災した石鹸工房を救うことになっていた。その工房は皇室御用達だが、立地のせいで雨季には度々浸水被害に遭っている。
二人は支援の過程で、ある事実に気づく。工房が浸水で休業していた期間、王宮では「3000万ルク分の石鹸を仕入れた」ことになっているのだ。
侍女長は、存在しない商品を帳簿上にだけ作り上げる『架空発注』と『二重計上』を組み合わせて予算を着服していた。二人は協力してこの不正を暴き、それがきっかけで二人の絆は一気に深まる……はずだった。
(悪いわね。そのヒロインイベント、ソフィアの運命を変えるためにカットさせてもらうわ。二人が結ばれるきっかけなんて他にいくらでもあるんだから、一回くらい、いいわよね?)