「まずは情報を整理しよう」
ウィリアム皇太子殿下が話を切り出した。
「ミクパ国の人々が我が国に出稼ぎに来ているのはここにいるみんなは既知の事実だろう。特に冬の間が多いし、その多くの人々が仕送りをしている。その仕送りの送金を一手に引き受けているのがこの表向きはレストランのここだ」
ヨゼフ殿下が大きく何度も頷き、ミクパ国の現状をウィリアム殿下に代わり説明を始めた。
「私たちの国はここよりも北にあるために冬は厳冬で厳しい環境です。冬は農業も出来ず、主に毛織物が産業なのですが、最近はそれでは人々は食べていくことが出来ず、出稼ぎに行く者が若者を中心に増加したのです」
きっと、出稼ぎに来るのはヨゼフ殿下のような年頃の若者なんだろう。
「出稼ぎの仕送りである現金を責任を持ってミクパ国へ輸送し、待っている家族に手渡しをする。そして雇用先の支払いが遅れても安定的に仕送りが出来るよう、先に国が現金を立替え、後から送金依頼主から少しの手数料と現金を回収するという、この国の手前、表立っては出来ない事業だったのでレストランを隠れ蓑に事業をしていました」
ヨゼフ殿下がまだ事情を深く知らないであろうプジョル殿を見る。
「これは後ろにはミクパ国がいるという暗黙の了解で、信用と安全を全面に出した国の事業だったんですね。ミクパ国の経済をまわすには必要な施策ということですね」
プジョル殿の理解は驚くほど早い。ヨゼフ殿下が「その通りです」と深く頷かれて、ホッとした様子を見せられた。
「そこで私達、財務課がいよいよ無視出来ないぐらいの金額が出稼ぎの人によってミクパ国に流れて行くことになり、そのことを殿下に相談しましたところ、お互いの利便性や経済発展を視野に入れて通貨の統一を探り、検討するよう命じられました」
俺のその言葉を聞くとプジョル殿はなにかに気づいたようで「セドリック殿、すまない」と苦渋の表情で一言プジョル殿は言うと、ハァァと重いため息をひとつ吐かれた。
「ウィリアムが俺の作戦に乗ってセドリック殿に少々圧力を掛けたんだな」
(圧力?)
「いや、すまない。それはこちらの話だ。気にしないでくれ。セドリック殿はウィリアムから指名されて、難しい仕事を頼まれた訳だ」
「はい、そうです。ご指名をいただきました」
プジョル殿はなぜ俺が指名されたことがわかったのだろう。
「それでだ。きな臭い商売をする輩が現れたんだよ。この国での仕事先を斡旋するのに手数料を取り、さらに賃金からも何割か中抜きにし、過酷な仕事先を斡旋する。さらに強制的に送金も肩代わりし、高い手数料を取るんだ。もちろんそうなれば出稼ぎに来た者の身入りが全然悪く、金が払えなくなれば、闇で強制労働や犯罪をさせたり、人身売買で行方不明になる者まで出る始末だ」
ウィリアム皇太子殿下が怒りを抑えるように説明された。
「そんな危険な取引だとわかっていても、仕事先を斡旋してもらえるという魅力に惹かれて、取引をしてしまう者が後を絶たないのです」
ヨゼフ殿下が申し訳なさそうに言われたが、きっと経験の浅い若者が言葉巧みに誘われたら、魅力的に映るのもわかる。
「問題点はここからだ。通貨統一には時間がかかるから、まずはこの状況を改善しようと、雇用系の協定を結ぶことにした。その前段階の友好のレセプションを開催することにしたのに、それを邪魔しようとする動きがある。我々が強制労働や人身売買に気づいたことを知った奴らがいるんだ」
ヨゼフ殿下が苦悶の表情で手をグッと握り締めて、ウィリアム殿下の説明をずっと聞いていた。
「皆さまにご迷惑をお掛けして申し訳ありません。まだ発展途上のわたしの国は力がありません。どうか知恵と力をお貸しください」
凛としたこの好青年に深々と頭を下げられて、嫌と言える人はいるのだろうか。
「もちろんです。ヨゼフ殿下、頭を上げてください。これはわが国の問題でもあるのですから、お互いが力を合わせましょう」
プジョル殿が余裕のある笑みをし、大人の風格が滲み出ている。
この人のこういうところは惚れ惚れとしてしまう。
俺には真似ができないし、そんなところにシェリーが惹かれてしまったらと、シェリーのことに関しては、心が狭くなった俺は嫉妬に近いような目線で見てしまう。
「せっかくウィリアム殿下がレセプションを開催してくださるのにそこで一悶着起こして、この協定を破談にしようとする動きが悔しくてなりません。一体、どんな方法で邪魔をしてくるのかもわからないのです」
ヨゼフ殿下はこぶしを握り締めたまま、自身の膝を叩いた。
「それには心あたりが出来た」
その一言に、皆が一斉にプジョル殿を見た。
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