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🫧第24章:音の向こう側(律の視点)
鍵盤に触れた瞬間、空気が震えた。
律はそれを感じた。
音が広がるだけじゃない。
誰かの心に、何かが届いている。
教室の隅で、聖名が息を呑んだ。
その音は、律の耳には届かなかった。
でも、空気の揺れ方が変わった。
彼女の世界が、少しだけ動いたのを感じた。
「……今の音、届いたんだ」
律は指を止めた。
余韻が、教室の壁に吸い込まれていく。
でも、彼の胸の中では、何かが残っていた。
あの事故の記憶。
雨。ライト。叫び。
聖名を突き飛ばした瞬間の感覚。
そして、自分が眠りに落ちていく感覚。
目覚めたとき、世界は変わっていた。
時間が流れて、聖名は遠くにいた。
でも今、彼女は目の前にいる。
そして、彼の音に反応している。
「僕の音は、魔法なんだ」
それは、誰かに教えられたわけじゃない。
ただ、彼女の表情がそう言っていた。
泡日記に何が書かれたかは知らない。
でも、律は確信していた。
「彼女の世界に、僕の音が届いた。
それなら、僕はもう一度、彼女を守れるかもしれない。」
律は鍵盤に指を戻した。
今度は、少しだけ強く。
でも、優しく。
音が鳴る。
それは魔法の呪文じゃない。
ただの旋律。
でも、彼の心から生まれたもの。
そして、彼は思った。
聖名。
「僕は、君の世界をもう一度優しくしたい。」